第7話 『魔の病院』


 病院の中に入ると、中はバタバタした様相ではあったが、魔物たちに襲われた様子はなかった。


 「247番でお待ちの方~!? いませんかぁ!?」


 「すみません、ワシの順番はまだですか……?」


 「うちの子が熱を出してまして……。」


 ガヤガヤとしている中を、僕らも受付に向かう。





 「はい。今日はどうなされましたか? お二人ともお怪我ですね? こちらで番号札をお受取りください。」


 親切な看護士さんが声をかけてくれた。


 「はい。わかりました。」


 僕らも素直に番号札を取り、待合室で待つことにした。




 「まだ病院は大丈夫のようだね? ここも襲われたら……、どうなっちゃうかな?」


 「や……、やめてよ……。病院まで来て何かあったら……なんて考えたくない……。」


 「そうだね。ごめんね。不安になること言っちゃったね。大丈夫だよ。きっと……。」


 希依ちゃんは心配そうな顔で僕を見る。


 僕も精一杯、虚勢を張って笑顔で希依ちゃんに微笑みかける。





 僕らがしばらく待っていると、待合室のテレビで学校の事件についてニュースが報じられた。


 「……の犯行と思われるこの●●高校の爆破事件での死者は、さきほどS県立中央病院で死亡が確認された御手汰比斗(みてたひと)さん16才、傘下須流也(さんかするや)さん16才、剴屋蒼里(がいやあおり)さん16才の3名で、合計37名が亡くなりました。今後の捜査で……。」


 な……、なんだって!?


 御手くん、傘下くん、剴屋さんが……、亡くなった……。


 しかも、その他37人も死んだのか……!




 「あー、御手に傘下に剴屋って、明児のやつと仲が良かった奴らじゃあないか? レイ……。大丈夫か?」


 「あ……、ああ。まさか、彼らが死んじゃうだなんて……。」


 「学校を魔物たちが襲ったようだな……。爆破とは魔物たちのチカラはとんでもないな……。」


 「うん……。もう笑うしかないよ……。こんな状況……。ふふ……、はっはっは!」


 「おい! しっかりしろよ! レイ! おまえが落ち着かないでどうするんだよ? 俺もおまえと一緒にいるじゃあないか!?」


 「うん……。ありがとう。」




 希依ちゃんが心配そうにじっとこちらを見ている。


 そうか。希依ちゃんも不安なんだろう。


 うん。僕も気を取り直そう。




 「343番の番号札をお持ちの方! 診察室にお入りください!」


 「あ、僕の番号だ。よし、行こうか。希依ちゃんもおいで。」


 「はい。わかりました。」




 僕らは診察室に入った。


 そこにいたのは優しそうな先生だった。


 「今日はどうしました?」


 「ああ、はい。頭を怪我してしまいまして。」


 「ああ、血が出ていますね? うーん。何かに頭をぶつけました?」


 「いえ……。ちょっと……。」


 「ああ。わかりました。とにかく診ますね。」


 「せ……、先生。私、ちょっと薬を取りに行ってきますね?」


 「あ、ああ。頼みます。」


 ちらりと僕のほうを見た看護師が席を外す。




 僕が先生に見てもらっている間も、希依ちゃんが付き添ってくれていた。


 やはり、優しいんだなぁ。この子は。


 絶対、守ってやらなければ……。




 ザワザワ……


 なんだか診察室の外が騒がしい。


 「先生……。なにかありましたか?」


 「い……いえ……。な、なんでもありませんよ?」


 なんだか先生の様子がおかしい。


 「ぐ……、あなたたちは何も気にせず、こ……、こぉこぉにぃいいいい……、いるのだぁああ!!」



 先生の机の上にあるパソコンのモニターに何か異界の言葉が表示されていた……!


 まさか……!?


 先生は……、魔界の魔力に操られて!?




 「ぐ……、ぐふふ……。おまえたちは、ここから逃がすわけには行かないなぁああああ!?」


 突然、先生が豹変したのだ!


 「まさか……! 病院内にまで魔物が侵食してきていたのか!?」


 「レイ! やばいぞ? 逃げよう!」


 「希依ちゃん! こっちに来るんだ!」


 そう言って、僕は立ち上がった先生にさっき警官の魔物から奪った拳銃を突きつける。


 「きゃあ! 来ないで!」


 希依ちゃんも魔物と化した先生に怯えているようだ。




 僕らは診察室を急いで後にして、外に出た。


 ああ、周囲はパニックになっている。


 恐ろしい化け物たちが集団で、病院の玄関から入ってこようとしていたのだ……!


 いち早く気がついて良かった。


 僕らは奥に逃げる。




 廊下には魔物たちが溢れている。


 さっきまで普通の看護士や、患者だった人たちが、化け物の姿となって、僕のほうを見ている。


 「ぐぅぅああああ……。あいつをころ……せぇ……!」


 「ぎひひひひ……。」


 「しゃはははは!!」


 奇妙な叫び声のヤツラを、拳銃で威嚇しながら、邪魔してくる魔物だけをサバイバルナイフで切り裂き、抵抗する。


 ヤツラはそれでも怯むことなく、僕らに襲いかかってくる素振りを見せる。


 僕は必死で、そいつらを切って、遠くから来るヤツラは銃を撃って倒していく……。


 銃を扱いなれていないので、その反動がすごいが、いちいち気にしていられない。




 「ぐるるっるるる……。そっちへは行かせないぃい! 理事長様ぁああああ!」


 魔物たちが奥に行かせまいとしているのは、魔物たちのボスがいるからだったのか……!?


 そうか。


 理事長がこの病院の魔物たちのボスなんだな……。


 「おい! レイ! その理事長ってヤツを倒せば、この病院の魔界化は解除されるんじゃあないか?」


 「そ……、その可能性はあるな。よし! 理事長を倒そう!」


 「え……!? そんな危険なこと……、止めなさいよ?」


 「希依ちゃん! 大丈夫だよ! 君は僕が守る!」


 「そんなこと! もう離して! 私なんか放っといてよ!?」


 「希依ちゃん……。君だけは守るから! 僕についてきて!」


 希依ちゃんもパニックになっているようだ。




 僕らは理事長室を目指すことにした。


 どうやら、4階にあるらしい。


 エレベーターはこの緊急事態に止まっている。


 階段で行くしかない。




 階段を上がっていくと、逃げ惑う人たちとすれちがう。


 魔物たちはまだここまでは来ていないようだ……。


 だが、僕を見ると、一瞬、びっくりしたかのように戸惑い、反対側へと逃げていく。


 どうやら、状況が把握できず、混乱にあることは間違いないみたいだ。




 「よし! あれが理事長室だ!」


 理事長室と書かれた札が出ている部屋が見えた。


 「ど……、どうするの?」


 「もちろん、理事長を倒す!」


 「そんな……!? どうしてそんなことするの? 何が目的なの? 逃げたらいいんじゃあないの!?」


 希依ちゃんが泣きそうに叫んだ。


 僕のことを案じて言ってくれている気持ちが伝わってくる……。





 「そうだよ……? そんな君を守るために、僕は戦うんだ!」


 僕は希依ちゃんにそう言って微笑んだ。



 そして、理事長室の扉を開いたのだったー。





~続く~



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