第2話 『始まり』
旅の気分を味わっている余裕もなく、気がついたら東京駅に着いていた。
うっかり眠っていたようだ。
車掌さんの案内の声が東京に到着した旨を知らせてくれている。
僕は荷物を下ろした。
「いやぁ。レイ。よく眠っていたな?」
「ああ。なんだかね。昨日夜遅かったからかな。」
「いろいろ準備してたからなぁ。レイ。」
「さて、電車、降りようか?」
僕たちが話しながら降りるのを、車両の清掃をしながら清掃員が変な感じで見ている。
まあ、他の人がすっかり降りているので、早く降りてほしいんだろうね。
僕はさっさと降り、改札口へ向かうことにした。
車両の扉から一歩踏み出し、駅のホームへ降り立った瞬間、一瞬、なにか背中にゾクッとするような違和感を感じた。
なにか異空間に入り込んだような……。
そんな感じもしたが、気のせいだろうと思い直し、改札口へ歩き出した。
「どうした?」
「いや……。フーリン。なにかさっき変な感じしなかった?」
「いや? ぜんぜん。逆になにかあった?」
「う……ーん。ま、気のせいかな。」
「なんだよー!? もう! 東京に初めて来たから舞い上がっちゃってんじゃあないの?」
「ははは……。そうかなぁ? そんなことないけどな。」
僕はそう言いながら、スマホを取り出して、FakeBookをチェックする。
明児のフェイチャはよく更新されるから、今どこにいるかとかすぐわかっちゃう。
明児も家を出たところらしい。
このまま上手く行けば渋谷あたりで出会えるだろう。
東京という街はこんなにも人が多いのか?
とてつもなく人がいる!
今日はお祭りか何かなのか!?
行き交う人々がみんなハッピーな気分に浸っているかのように見える。
「おい! すっげぇなぁ? この人の多さ……。俺も東京へ初めて来たからさ!」
「本当だよねー? 僕も初めてだよ。あれ? あの人、芸能人の綺羅星セイヤじゃない!?」
「ん!? おお! 本当だ! 綺羅星セイヤだ! すっげぇ! やっぱカッコいいな!」
「一緒の新幹線だったのかな?」
「んーー? それはわかんないな。なんてったってここ天下の東京駅なんだからよ!」
「そっか。そりゃそうだね。」
僕は東京の人達と比べるとダサいんだろうなぁ……。
行き交う人達が僕をちらりと見ては目をそらすように感じる。
まあ、仕方ないよね。ずっとS県の田舎の方に住んでいたのだから。
そんなこんなで、僕は新幹線の改札を抜け、在来線のホームへと急いだ。
「あ! 明児も駅に来たらしいよ。やっぱ渋谷で会えそうだね。」
「おお! いい感じじゃあないか。渋谷ってすごいところなんだろ?」
「うん。知ってると思うけど、スクランブル交差点というのがあってだな?」
「いや! それ誰でも知ってる!」
「そっかぁ! あはは!」
「おっと! おい! なんか変な目で見られてるぜ?」
「あ、うん。電車の中だからかな。あんまり誰も話したりしてない……。」
「ちょっと、黙ってようか?」
「そうだね……。」
都会では電車の中は静かにしているのがマナーなんだろう。
周囲の人はこちらを見ようともせず、静かにしていた。
喋っていたのは僕たちだけだったみたい。
周りの人はスマホをひたすら見ていたり、本を読んでいたり、寝ている人さえいた。
「この電車は山手線外回り。新宿池袋方面行きです。次は渋谷、渋谷。お出口は左側です。東急東横線、東急田園都市線、京王井の頭線、地下鉄銀座線 地下鉄半蔵門線 地下鉄副都心線はお乗り換えです。電車とホームの間が空いているところがありますので足元にご注意ください。This is the Yamanote line train bound for Shinjuku at Ikebukuro. The next station is Shibuya, JY20! The door is left side open.Please change here for The Tokyu Toyoko line, The Tokyu Denentoshi line, The Keioh Inogashira line, The Ginza subway line, The Hanzomon subway line, The Fukutoshin subway line. Please watch your step when you leave the train.」
電車の案内のアナウンスが流れる。
次が渋谷駅のようだ。
僕は電車の窓の向こう側に見えるフーリンに、目で次の駅で降りるという合図を送った。
フーリンも黙って頷く。
そして、電車が渋谷駅に着いた。
ドッとみなこの駅で降りる。大量の人がまるでゴ……、おっとこれ以上は言うまい。
そして、僕も急いで駅の改札を出た。
だがその瞬間ー。
なにか異様な空間に引きずり込まれたような感覚があり、僕は汗びっしょりになっていたのだ。
緊張しているのか……?
すると、街の景色が渦を巻くように歪み始めたんだ。
なにかヤバい!
それは本能が全身全霊で訴えかけて来ているようだった。
目を閉じて、耳を塞ぐ……。
なにか地の底から恐ろしい魔物が鳴いたかのような声が聞こえた……気がする。
悪魔の声……という表現がピッタリ来るかも知れない。
あの声を聞いちゃいけない!
そんな防衛本能が全身を駆け巡ったんだ。
まだ声がしている。
目を開けちゃいけない。絶対に……。
しばらく、僕は地面にうずくまっていたらしい。
辺りが騒がしくなっているのが分かる。
僕はこわごわ、そっと目を開けた。
「うっ……!?」
すると眼前に広がる光景は、この世のものと思われないほどおぞましげな空間へと変貌を遂げていたのだった。
空はさきほどまでの晴天とはうって変わって、どんよりとして暗く雷雲立ち込める空模様へと変わっていた。
そして、待ちゆく人の中に現実とは思えない生物……、いや化け物が無数に混じっている。
獣人や、悪魔、モンスターや、狼男、ミイラ男、それに、鬼や恐竜人など、ありとあらゆる異界の化け物がいる。
突然、異空間がこの街を包み込んだらしい。
人々はまさに狂乱状態になっていた……。
「おい……。レイ! おまえ、正気だろうな?」
フーリンは無事みたいだ。
「ああ。フーリンのほうこそ。大丈夫か?」
「ああ? 俺が大丈夫じゃあないように見えるのか?」
「んん……。まあ、変わりはなさそうだね。」
「当たり前だろ!?」
お互いの無事を確かめたが、そんな僕のいる方へ凶暴な獣人の二人連れが襲いかかってこようとしていた。
半獣人、ジャガーと人の化け物のようだ。
マヤ文明とかアステカ文明とか、そういったことが書かれた本で読んだことがあるような……。
どちらもメスのジャガーらしく、こちらを見ながら牙を研ぎ、よだれを垂らしているかのように見える。
どうやら、空腹らしい……。
だが、僕はその瞬間、とにかく走って逃げた。
ジャガー獣人たちは、僕よりも美味しそうなエモノを見つけたのか、違う方向へ走り去っていった。
助かった……。
とにかく人混みを避け、身を隠した。
阿鼻叫喚の地獄とはまさにこのことなのだろう。
あの有名な忠犬ハチ公のまわりは恐ろしげな魔物たちが周囲の人を食い散らかしていたのだったー。
~続く~
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