城からの脱出と精霊
「全く梨花は世話が焼けるな」
「……零?」
私をかすかに呼ぶ声が聞こえる。
どこか遠くてそれでいて何故だか心地良い。
そんな心地の良い声を聞きながら私はゆっくりと意識を手放した。
◆◆◆
俺が目を覚ますと城は火山の噴火にあったかのような悲惨な状態だった。
「セシア状況はわかるか?」
「……恐らく魔族の娘だと思います。この魔力の量と威力からしても、もう」
「なんで1人で行かせたんだ……? 俺が起きるのを待つかセシアが俺を何処かに放ってでもついて行くべきだっただろ!」
俺は思わず激昂する。
聖女マリーを倒したからといってグラス王が脅威にならないかと言われればそうではないはずだ。
それは一番聖女マリーとグラス王の近くに居たセシア自身がわかっているはずだろう。
「なんで一番状況をわかってるはずのお前がそんなことをしたんだ……! 俺に恨みがあるのはわかる、だけど!」
「ごめんなさい。でも彼女が1人で大丈夫と言ったので……」
あぁそうだ。
セシアは
今までは流暢に会話が成立していたから勘違いしていた。
セシアはホムンクルスであって人ではないのだ。
それが心配する気持ちや矮小な強がりに満ちた自信を理解できるはずもない。
言葉を言葉でしか受け取れない。
そこに気持ちや感情が介在する余地はあるはずもなく、梨花をそのまま送り出すに至った。
ならばこそ俺がこんなところで怒っていても仕方がない。
「すいませんでした。気持ちを汲み取れずに」
「いやいいんだ。俺も急に怒鳴ったりして悪かったな。俺は梨花を助けに行く。セシアは1人でここを脱出しろ」
「わかりました。———くれぐれもお気をつけて」
セシアが俺の前から去っていく。
彼女なら1人でも簡単に逃げられるだろう。
問題は梨花だ。
この熱波、力。
間違いなく俺の
それも梨花自身の
だとしたら俺がやるべきことは1つだ。
俺はそう考え王の間へと足を踏み入れた。
◆◆◆
中は悲惨そのものだ。
全てが燃え尽き、グラス王がコレクションされていたであろう美術品なんかは全て炎の中へと消えていた。
そして王座も煌々とした炎がまるで自分のものであると主張しているかのような輝きを放っている。
梨花はそんな王座の足元で倒れていた。
手も足も犠牲にして。
俺は急いで駆け寄る。
「全く梨花は世話が焼けるな」
「……零?」
返事が聞こえたような気がする。
だがこの怪我だ。
気のせいだろう。
俺は梨花を担ぎ、外へ出ようと試みる。
だが炎が世界が神がそれを許さない。
梨花を担ぐ俺を阻むかのように炎が足へとまとわりつく。
『オイテイケ』
『オイテイケ』
耳を塞ぎたくなるほどの怨嗟の声。
今まで殺した人間の怨嗟かそれとも神の嫉妬か。
「だけど今はまだこいつを——梨花をお前らに渡すわけには行かないんでね!」
俺は纏わりつく炎を振り払い進む。
今は聖女マリーとの対峙と梨花が力を使ったせいで勇者の
だから今の俺はただのラバンだ。
ただ死にかけている女の子を助けているだけの一般人に過ぎない。
様々なものへの耐性の
俺もいよいよかと覚悟を決めたその時、黒く燃え上がる煙と赤々しい空が突然割れた。
割れた空からは禍々しい黒の光が漏れる。
煙が生み出す黒とはまあ違う、更に深淵をそのまま映し出したような黒だ。
「勇者よ。今お前にここで死なれては困るからの。この
「お前今まで何をしてたんだ」
「お主には関係ないことじゃよ。ほれ飛ぶぞ?」
ヨルは俺と梨花を軽々しく持ち上げ、城の外へと脱出する。
◆◆◆
俺と梨花は城下町のはずれへと降ろされる。
助けてくれたことはありがたいがヨルには聞きたいことが山ほどあった。
「ヨル、なんでだ? なんで今助けた?」
「今までだって助けるタイミングはあったはずだ……か?」
「そうだ。マルコスと戦った時もルシフェルと戦った時もお前は現れなかった。勇者を導くと言いながら、だ」
「我らにも誓約があるのじゃよ。今回はお主の命が尽きては困るから助けた。今までのはどうにかなったから現れなかった。それだけじゃ」
「勇者をサポートするという割に随分と自分本位なんだな?」
「それが我ら精霊の役割だから仕方ないの。我に言われようと役割が変わることはない。精々死なないようにすることじゃ」
それだけを自分勝手に告げると暗闇へと消えていった。
ヨルの口から初めて聞く『精霊』という単語。
どこかで聞き覚えのあるような言葉だ。
「そんなことよりも今は梨花の腕と足をどうにかしないといけないな……」
俺は目の前の梨花の惨状を見て少し頭を抱えるのだった。
——
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