聖騎士団長マルコス

「にてしもラバン君強すぎじゃない? 私に初見で勝てたの団長と君ぐらいだよ」

「それは光栄です。俺も相応に鍛錬を積んでましたが、どの程度のレベルか不安でしたから」

「うわー息切れもしてないのムカつくなー、もう。まあいいや。感想戦しよ!」


 こうして始まった梨花との感想戦は夜まで続いた。

 翌日揃って遅刻したのはいうまでもない。


◆◆◆


 それから数日、俺はひと時の平穏を聖騎士団で過ごしていた。

 聖騎士団を滅ぼすという目的を忘れたわけでは決してない。

 問題はその方法だ。

 聖騎士団に入ってからというもの色々と調べたが、団員が1人になる時間というものがほとんど存在しない。

 つまり団長であるマルコスや梨花を含めた全員を一度に相手しないといけないわけで。

 それはあまりに現実的ではない。

 梨花だけでさえあの実力だ。

 

「おっラバン君、こんなところに居たのか」

「梨花さんどうしました?」

「いや団長が呼んでるから探してたんだよ。なんか例の件で話があるとかなんとか」

「ありがとうございます。早速行ってみます」

「気をつけてねー。今日の団長機嫌悪そうだったし」

「はい!」


◆◆◆


「きたね。ラバン君、勇者討伐の作戦に参加したいんだったよね」

「えぇ。曲がったことは許せないですから。それに王都の勇者学校の崩れ落ちた姿は心に響くものがありました……」

「そうか。ところで君、梨花に勝ったそうだね」

「はい。とても強かったですがなんとか……。それが何か?」


 暫くの沈黙の後、マルコスが神妙な顔をして口を開く。

 前回の圧倒的な雰囲気とは違う。

 明確な殺意が篭った顔だ。


「じゃあ殺さないといけないね」


 俺はその言葉が発せられた瞬間に後ろに飛び退く。

 何故なら言葉と同時に斬撃が俺を襲っていたから。

 高威力の斬撃で部屋が半壊する。

 俺は極めて冷静にマルコスに問う。


「急にどうしたんですか?」

「そうだなぁ。一応君が可哀想だし話しておくか。僕の才能ギフテッドは未来が見えるんだよ。そして才能ギフテッドが見せてくれた未来では、梨花に模擬戦で勝った人物が将来僕達聖騎士団を皆殺しにしていた絵が浮かんだ。もしかしたら君は違うのかもしれない。だけど僕達聖騎士団はリスクを排除したい」


 迂闊だった。

 こういう未来も想定に入れれていなかった自分を呪う。

 才能ギフテッドは人それぞれに特殊なものが授けられる。

 ならばその中になんて才能ギフテッドがあっても不思議じゃない。

 それでマルコスはわざわざ俺に梨花に勝ったか、なんで質問をしたのだろう。


「だから殺すと?」

「まあそうだね。理不尽と感じてもらって構わないよ。ただ他の団員を恨まないであげて欲しいかな? これはあくまで僕個人の決定だ」

「そうか。じゃあ俺も全力で行かせてもらおう」


 俺はマルコスの全力に応えるべく勇者の力を解き放つ。

 魔法も耐性も全て解放だ。

 そのぐらいしないと俺はこの男に殺される。


「ははは。それがラバン君の全力か。いい雰囲気してるじゃないか。君、結構場数踏んでるでしょ」

「さぁどうでしょう、ね!」


 思いっきり半歩踏み込んで間合いへと飛び込んでくるマスコスのレイピアを受け止める。

 俺の予想が正しければマルコスは複数個の才能ギフテッドを所持している。

 それが魔法なのか剣に関するものなのか、はたまた戦闘全てに関するものなのかはまだわからないが。

 剣とレイピアが異様な音を立ててぶつかり合う。

 マルコスのレイピアは異様に軌道が読みにくい。

 その理由はおそらく……。


「視線か」

「ほー。流石に場数を踏んでるだけはあるね。じゃあこれはどうかな?」


 瞬間、マルコスの剣が赤く光る。

 考えられることは火属性魔法を付与したか、何かしらの特殊な才能ギフテッドか。

 ここは避けに徹するのが吉だろう。

 

「本当にそんな逃げ方でいいのかい? 


 そんな言葉と共に鋭い斬撃が宙を舞う。

 飛び退くのが一瞬でも遅れていたら足と胴体が切り離されていた。

 俺は半壊した部屋の壁を使い、マルコスへの接近を試みる。

 距離をとって魔法を打とうにもあの速度で飛んでくる斬撃を避けながら魔法を打つのは不可能だからだ。

 詠唱の最中に斬撃で首と胴体が離れかねない。


「まあこれをみたらそういう対策をとってくるよね。だけどそれはもう見たことあるんだよ」

「グッ……!」


 右手に握られているレイピアに視線を集中させていた俺はマルコスからの蹴りを回避できずに直撃する。


「聖騎士団の団長様は本当になんでもありなんだな。まさか蹴りを入れてくるとかは思わなかったよ」

「僕達は絶対に勝たないといけないからね。何をしてでも」

「それが例えば無実な人を殺そうと画策していた聖女様からの命令でもか?」

「その話は初耳だ。だけど誰しも後ろめたい部分は持っていると思うんだよ。ラバン君、君みたいに」

「さぁ、それはどうだろうな」


 俺はこの会話の隙を使い、《隠れ身ハイド》を練り上げる。

 そしてマルコスの視界から消えた。


「面白い魔法を使うね。それも勇者の才能ギフテッドかな?」

「さてね。とりあえず俺はずらからせてもらうよ」


 俺は脱兎のごとくその場から逃げ出す。

 今の俺では技術も技量も足りない。

 だからこそ今は逃げる。

 目的の達成の為にまだ死ぬわけには行かない。

 そう思い、瓦礫を伝い半壊した部屋の屋根へと足をかけたその時、足の感覚がなくなる。


「逃げずわけないだろう?」

「チッ。一体全体何個才能ギフテッドを持ってやがる」

「さぁね。それよりラバン君、?」


 俺は言われるがままに自分の足を見る。

 ない。

 膝から下が存在しない。

 俺が今座っている場所も血溜まりが出来ている。


「あ、足が」

「そう、足が無くなった。これで逃げられない」


 俺は思わず目を瞑る。

 事実この足ではマルコスの一撃を避けることもカウンターすることもできない。

 復讐もここまでだ。

 エリシアごめん。

 俺、成し遂げられなかった。

 そんな後悔の念を残しながらマルコスのレイピアが心臓を貫くのを待つ。

 1秒、2秒、3秒。

 何故か刺される感覚が来ない、俺は思わず目を開ける。

 そこにはマルコスのレイピアを受け止める梨花が居た。


——

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