いじめっ子と金魚の糞の故郷
ダカールの故郷を滅ぼした俺はとある港町まで足を伸ばしていた。
気分が良くなって旅行に来たわけでは決してなく、ここにも復讐の対象がいる。
俺を殺したいじめっ子のアレンとその金魚の糞であるメイサーの実家だ。
問題があるとすれば俺はまだ町1つを一瞬で滅ぼすだけの力を持っていないこと。
だが、幸い俺にはとっておきの作戦がある。
井戸と水路さえあれば時間はかかるが、この作戦は完璧に遂行できる。
◆◆◆
町へ無事入ることができた俺はとりあえず情報収集をすることにした。
「旅の兄ちゃんほらよ!」
「ありがとう。丁度こう言ったものが食べたかったんだ。ところで買ったついでに聞きたいんだが、この町は水をどうしてるんだ? みた感じ周りは全部海で使える水がなさそうだが」
「ああ! そんなことか。それは簡単だ。あそこに見える領主様の館で領主様が魔法で水を浄化してから井戸を町中に引いてもらってるんだ」
「そうなのか。だが、もし井戸が悪意ある何かしらに汚染されたらどうするんだ?」
「ははは! 井戸の周りはとても警備がきついんだ。並の人間じゃ近づくことすらできないよ。旅の兄ちゃんも変な気はおこさない方がいいぞ」
「へぇ——なるほど。ありがとう、また来るよ」
どうやら井戸の周りは異物を入れる不届き者が入らないように厳重に警戒されているらしい。
ただ多少強いぐらいの警備なら眠りの魔法でどうにかできるだろう。
今回の作戦は
呪いはヨルから聞いた話によるとゆっくりと人を蝕む。
それじゃあ俺がこの町を出るまでに成果を確認できない。
だから箱そのものを井戸へ混入させるさせるのではなく、もっと強力であろう箱の中身を入れる。
箱から外に漏れ出ているだけあれほど強力なものだ。中身はもっと強力であるに違いない。
そうすれば3日もしないうちにこの町の人間は異変に気づき、領主であるアレンの両親のところへ駆け込むだろう。
だが何日経っても原因が分からず町民は死ぬばかり。
そうすれば町民の怒りの矛先は自然とアレンの両親へと向く。
そこで俺が少しだけ住民の背中を押してやれば良い。
そうすればクーデターでアレンの両親と庇うであろう金魚の糞の両親は死に、町民も時期に呪いで全滅する。
◆◆◆
「ここが井戸か? 随分とでかいな」
俺はサクッと警備の人間を眠らせて井戸へと侵入していた。
町全体を支えてる井戸の大きさは最早、普通のそれとは全くの別物だ。
とりあえず箱を開けよう。
そう考え、箱を開けた途端、とてつもない量の脂汗が滲む。
これは本当にやばいシロモノかもしれない。
そう考えた俺は次の瞬間にはもう呪いを手放し、井戸へと投げ入れていた。
水がたちまち真っ黒に染まっていく。
まるでヨルが俺に差し出したモヤのような暗さだった。
◆◆◆
「なんか体調が今日優れないんだよね。それに水の色が心なしか黒い気がするんだ」
「お前もか? 僕もだ。これは何かあったのかもしれない。領主の館へ相談に行こう」
井戸へ呪いを投げ入れてから3日。
町のハズレにある酒場に座り、優雅に朝食を食べていた俺はそんな会話を耳にした。
今は穏やかだが、あと数日で住民は我慢できなくなるはずだ。
俺は人間がそんなに我慢強くはないことを知っている。
◆◆◆
呪いを投げ入れてから5日が経った。
徐々に領主を疑問視する声が増えている。
そして徐々に死者も増えてきていた。
そろそろ頃合いだろう。
俺は変声の魔法を使い、さらに拡声の魔法を使って住民を煽る。
「領主様は一体俺達町民のことをどう考えていらっしゃるのだ! 一向に俺達の病気は改善されないし井戸の水は真っ黒のままだ! もしかして領主が井戸に毒を入れたんじゃないか!?」
正気であればこんな戯言聞き流すだろう。
なんたって領主様は聡明な方だ。
ただ今は皆がいつ自分が死ぬかわからない極限状態。
1人が小さく賛同の声を上げた途端、その声は驚くべき速度で広がる。
「そうだ! そうだ! 領主はここ数日何をやってたんだ!」
「どう考えてもおかしいと思ってたんだ。これだけの水を維持しながら俺達に税をあまり要求しないなんて。これが狙いだったんだな!」
「両者の館へ突撃するぞー!!!」
『おー!』
人類は愚かだ。
たった数日、原因がわからなかっただけでこうもおかしくなるだなんて。
これで俺の役割は終わりだ。
残りは町民に任せて高みの見物と洒落込もう。
◆◆◆
俺が住民を煽ってから1時間もしないうちに領主の館は真っ赤に燃えていた。
煽ったとはいえ人類はやっぱり愚かだ。
仮にここで領主を殺したとしても状況が改善されるわけではないと薄々わかっているだろうに。
そうして数日状況を静観している間に、町民は1人残らず死滅した。
呪いの影響で全員がアンデットと化した状態でだ。
これはこれで面白い。
アレンや金魚の糞が帰ってきた時、泣きながら両親だったものを切り殺さねばならないのだから。
俺はそんな愉快なことを考えながら町を後にした。
◆◆◆
私は聖女マリー様に呼び出され、応接室へと通された。
「勇者候補を追う任務をエリシア貴女に任せましょう」
「はっ!」
「殺せとは言いません。必ず私の物にする為に捕らえてきてください」
「承知しました。生きてれば状態は何でも大丈夫でしょうか?」
「それは任せるわ。今度こそあの勇者候補の体を解剖して秘密を探りたいんだもの。生きてれば悲鳴や怒声を聞きながら殺せるでしょ?」
恍惚とした顔で語る聖女マリー様の部屋を私は何も言わずに後にした。
あのお方の勇者候補への執着は正直に言って異常だ。
ただ聖女様に仕える以上は勤めを果たさねばならない。
例えその願望が歪んでいるとしても。
———
たくさんの人ご覧いただいたようで感動しています! 良ければですがブックマーク、ハート、星、感想等頂けるととても嬉しいです!
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