お題箱から始まる 短編集

一条 遼

線香花火が貴方の横顔を一瞬明るくして、音もなく落ちた

夏といえばと言われたら、何を想像するだろうか

きっと想像されるものの一つに「花火」というものは上がるだろう。知らんけど


大きな打ち上げるものから小さなお手軽サイズまで

様々な種類と万人が楽しめる

風流だし、オシャレだしまさに万能だし


「これで〆とします」

「もう終わりか…早いなぁ…花火も夏も」

水戸なんちゃら様の如く、たった2本の線香花火を

用意する彼女はとても寂しそうな顔をしていた

「ほら、早くしないとロウソクの命が尽きちゃうよ」

「毎年思うけどこのロウソク短命過ぎない?

そこそこ長いはずなんだけど気がついたらもう…

風前の灯火ファイアー…」

「それだけ時間を忘れて楽しんでるってことよ、

いつだってあっという間なんだから」

「そうなの?」

「そうなの、気がついたら花火も終わって夏も終わって秋が来て、冬が来て年を越して、春が来て、また夏が来て、そうやって今までがあっという間に過ぎてきたのよ」

「これが終わったらいよいよ受験が本格的に始まるのがやだなぁ…大学受験だと今までと比べて難しいし」

「休む暇なんてないんだからね?」

「ちょっとくらいあってもいいと思うけどなぁ」

「ダメです。君のちょっとはちょっとじゃなかったじゃない、今まで一緒にいた私が言うんだからこれは間違いありません絶対です」

「返す言葉もございません」

2人は幼稚園から高校までずっと同じ、家も隣

しっかり付き合っております、

幼なじみは負けヒロインではない、ここテストに出ます。



静寂が辺りを包む

楽しい時間も、悲しい時間も、苦しい時間も、嬉しい時間も、どんなものにだって終わりが訪れる

その事実を噛み締めるように線香花火に火を灯す


パチパチパチと爆ぜる音だけが辺りに響く


「今年で最後…かもしれないのよね?こうやって一緒に花火をするのも、学校に行くのも、部活も、学校行事も、家が隣なのも」

今にも泣きそうな声色でそう呟く


かける言葉を必死に探した

また来年も、なんて言えなかった


なぜなら、彼女はこの夏の終わりに

           死んでしまうからだ


重い風が星空の中で揺れる

ロウソクの火をかき消す


静まり返る闇と星空が広がる中

2人が持つ線香花火だけが美しく、儚く

音を立て、二人を灯す


次第に小さく、弱々しくなる線香花火

「…」

それを見ることに嫌気がさした


まるで彼女の命を比喩しているように


終わりを物語るように


そして終わりは訪れる、突然に


フッ、と線香花火の灯りが消える


緑の淡い光、蛍の光が辺り一面

幻想的に染めあげる


次の瞬間、消えたはずの線香花火が光りだす


「それ」は彼女の顔を、涙に溢れる横顔を

一瞬、明るく、美しく、儚く照らし音もなく落ちていった。


蛍と線香花火が消える瞬間、1番光り輝いた瞬間

「ごめんね…ありがとう……大好き……」と


涙と笑顔でクシャクシャにして

君はそう言った。


綺麗な星空の下、泣きじゃくる彼が照らされて




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