魔との生活
オリビアの事務所兼自宅に新たな同居人がやってきて早数日。転がり込んできたマクアはオリビアのうちに馴染んでいた。
最初のうちは、成人男性の家に幼い子供が住むなんて…と抵抗を示していたオリビアだったが、それは杞憂に終わった。
彼女がただの幼い少女ではないのだと、怪異のひとつなのだと、オリビアは理解させられた。
マクアは本人曰く家を護る存在らしく、オリビアの家のことはほぼ理解出来ているようで、来てすぐに何が何処にあるのかは言わなくても把握していた。
また、身体能力(?)も特殊で初めて会った時に大人の自分を軽々持ち上げた大きな尾以外にも4本まで自在に出せる触手を持っており、オリビアの背丈にあわせて高い所に置いた物でも触手を伸ばして取ってしまえるようだ。
現に今、マクアは今日の昼食に適した皿を本人から見えない高さの筈の食器棚の上から迷わずに触手で取り出していた。
「ちょっと埃っぽいから洗った方がいいね」
「………その、触手?って器用なのね」
「まぁねー。それぞれ手の代わりに使えるくらいは動かせるよ?」
そう言いながら、マクアは2本の触手で取り出した二人分の皿をスポンジを使って洗う。本人の両の手は流し台に添えているだけなのがシュールだ。
その小さな手を見ながらオリビアが疑問をぶつけた。
「前から思ってたんだけど、マクアの腕…時々なんか模様ない?」
「あ、わかる?オリビアって観察力あるんだねー?」
マクアはの腕は、普段は綺麗な子供の腕なのだが、触手か尾を出している時には…本当にうっすらなのだが、なにか不規則な痣のようなものが見えるのだ。
それが気にはなっていたオリビアだったが、目の錯覚や気のせいかもしれないと口にしなかったのだ。
しかし、今は明るい光源の下で彼女の前腕部を主として肌の色とは違う色が明らかに見えた。
「んーとね、見やすくするとこうなってるんだ」
そう言って、マクアは本人の髪の色と同じ深い紫の尾と更に2本の触手を出現させた。こうして少女の体から異様なものが多数生えていると、彼女が人でないのだと、ありありと表現されているようだった。
それを証明するが如く、彼女の腕の模様も色が濃く深く変化した。
痣…というより火傷のようにも見えるそれは、茶や紫といった色になり、皮膚自体も僅かに隆起した痛々しい傷跡として彼女の両腕に現れていた。
「こんな風に、姿が本性に近くなると浮き出てきちゃうんだよねー」
「ちょっと!?酷い怪我じゃない!!!」
「ずっと昔のやつだからもう痛くないよ?」
「何があったのよ!?」
「えへへ、ヤンチャしてた!」
「いやいや!わからないわよ!?」
「いーじゃん!終わった事なんだから」
慌て、困惑するオリビアにマクアは楽しそうに明るく笑って答える。
そして、ずいっと洗いたての皿を彼に突きつけた。
「おなかすいちゃった!早くごはん食べよう!」
オリビアは思う。まだ短い付き合いだが、彼女は幼い言動をする傾向があるが、けっしてその精神面は子供なんかではない。言葉通りに空腹を優先させたのではないはずだ。
『今は話せない』…そう言外に言っているのだろうか。
「…はぁあ〜…わかったわ、お昼食べましょ」
「やった!テーブル拭いてくる!」
はしゃいで台拭きを持っていくマクアは、いつの間にか尻尾も触手も全て仕舞い込んでいて、腕も先程の痕跡なんて気の所為のように滑らかな少女のものに戻っていた。
…いつか、誤魔化さずにお互いの過去の傷を話し合えるようになる日がくるのだろうか。
そんな事に思いを馳せながら、オリビアは昼食をマクアの用意した皿に盛り付けるのだった。
了
オマケ
「あ、ゴキだ」
「イヤァァァアアア!!!」
スパァーン!!!
「?オリビア、虫嫌い?」
「………え、マクアは平気なの…?」
「うん」
「マクア!一生うちにいて…!」
「えー…嬉しいけど嬉しくない…複雑」
了
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