第2話 同居開始 (1日目)

 僕たちはそのあと、どこに行く計画もなかった。

「あんたの家行ってもいい?」

「へっ?」

変な声が出た。いいのだろうか、いきなり女性を家に招き入れても。まあ彼女から誘ってきたのだから良いだろう。

「いいけど部屋汚いよ」

「気にしない」

僕の家は歩いて5分くらいのところにある。僕たちはすぐに家についた。

「ちょっと待ってて、すぐ片付けるから」

「早くしてね、寒いから」

「分かった」

僕はものすごいスピードで部屋を片付けた。

「どうぞ」

「おじゃまします」

自分の部屋に女性を入れるなんて、なんか不思議な気持ちである。

「なんか汚くね」

「しょうがないでしょ、人入れる予定なかったんだもん」

「あーあ、私が片付けるか」

彼女は勝手に部屋を掃除し始めた。

「いいよそんなことしなくて」

「私もここに住むんだからいいでしょ」

へ?なんて言ったんだろうか。もう一度聞いてみた。

「なんて?」

「ここに住むからいいでしょって」

「え」

「嫌なの?」

「嫌じゃ,,ないです」

「あっそ」

彼女はてきぱきと部屋を片付けている。まるでもうずっと一緒に住んでいるようだった。彼女はいろんなものをまるで自分の家のように収納に片づけていった。

「手際いいね」

「見てないであんたもやってよ」

「いや、まかせるよ」

「男ってすぐそうさぼるよね」

「男とまとめていうのは良くないよ」

「じゃああんたは」

「僕の何を知ってるんだ」

「知らないけどさぼり癖あるでしょ」

言い返せなかった。僕は黙ってさぼっていた。

「よし、このくらいでいいか。テレビのリモコンどこ?」

彼女はテレビをつけてバラエティー番組を見だした。

「おなかすいた、なんか食べ物ある?」

「まあ、料理は好きだから」

「へえ、意外。作ってよ。」

「はいはい」

「はい は一回」

「はい」

なんかもう尻に敷かれてないか?女性ってなんでこう強引なんだろう。女性と一概にいうのは良くないか。彼女はなんて強引なんだろう。

 僕はいつも通りの手際で料理を作った。僕は料理だけはこだわりのある方だ。いろいろな調味料などをそろえている。

「はい、パスタ」

「なんだこのお洒落な食べ物は」

「上手でしょ」

「うざ」

彼女は不機嫌そうに僕の料理を食べ始めた。黙ってずっと食べ続けている。きっとおいしいと思っているんだろう。

「料理人になりたいの?」

「いや、べつに」

彼女なりの誉め言葉なんだろう。なんて不器用なんだ、かわいいなと思った。

「じゃあ僕が料理をするから掃除はまかせたよ」

「それでいいよ」

 僕は自分の分の料理を作ってそれを食べた。彼女はテレビをあまりリアクションなしで見ていた。さっきまで死のうとしていたようには見えないが、どこか遠くを見るような眼は変わっていなかった。しかし、先程までのやり取りはとても自然で、僕は彼女のその様子を見て少し安心した。

「シャワー浴びたい」

「積極的だね」

「いや、普通に」

真顔で言われた、これ以上ない真顔で。

「ど、どうぞ」

「タオルある?新品」

「あります」

僕は新品のタオルを彼女に渡した。彼女はタオルを持って脱衣所に行った。

 15分くらいして彼女が出てきた。濡れた髪の彼女はとても美しかった。

「ドライヤーしてあげようか?」

「いいです、自分でやります」

断られた、きっぱりと。彼女は時間をかけて髪を乾かした。僕はそれをずっと見ていた。

「何見てんの」

「いや、美人だから」

「はあ」

これでいいと思った。こんな風にしていることが今の彼女に一番いいことだと。僕は彼女にただ普通に接していればいいんだ。

 彼女が髪を乾かし終わったとき、今度は僕がシャワーに入った。

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