星戦記スターゲイザー
有希
第1章 猫と月の姫
第1話 牢屋暮らしの少年
新星暦10年。
人類史上最も愚かな戦争『
しかし同時に新たな争いの火はゆっくりとだが着実に大きくなっていく。
それこそ再び世界を滅ぼしかねない程の火が。
〜〜〜〜〜
夜の荒野を一台の大型トラックが走る。
運転席に座る男と助手席に座る男は何やら不機嫌そうに会話をする。
「まったく、お偉方も面倒な仕事押し付けてくれるもんだぜ」
「ほんとだぜ、このご時世護衛もなしにあんなもんを基地まで運ぶなんてどうかしてるとしか思えねぇ」
「賊の目を欺くためとは言っても、もし失敗したら元もこうもないのにな」
「だが正直なところあれが取られてもどうこうなるとは思えないがな。だってあれ、誰も動かせてないんだからよ」
「……まぁ、そうなんだが上の連中はあれが動かなくても結局のところ仕組みが知りたいだけなんだろう。なにしろ最新鋭の機体で……空の上から落ちてきた代物なんだからな」
男はそう言って空に浮かぶ月を見た後積まれたコンテナに感心を向ける。
しかし2人は内心気味悪がっていたのだった。
〜〜〜〜〜
いつも同じ夢を見る。
晴れわたった青空の下、何処までも続く草原で欲しく欲しくて堪らない物に手を伸ばしながら走っている夢。
しかしどれだけ走っても手を伸ばしても決して届かないで涙が出そうになる。
そんな時だ。
悲しくいつも空を見上げると何が俺に向かって落ちてくるのだ。それに対して俺は言い表せない程の期待を感じる。
だがそれがなんであるかわかる前に俺の夢は終わり目を覚ます。
〜〜〜〜〜
「朝だ起きろぉ!」
バケツを強く何回も叩いた音ともにやけに耳につく声が聞こえて俺はゆっくりと目を開けた。するとまず視界に映るのはヒビの入ったコンクリートの天井で横を向くと錆びた鉄格子。
あぁ、もう朝か。相変わらず此処は薄暗いから朝か夜なのか判断しづらい。
布団、とは呼ぶには余りにも見窄らしい布を畳んで起き上がる。
「……はぁ、またなんなのか分からなかった」
頭を掻きながらそう言っていると俺の部屋の鉄格子が叩かれた。
「起きたんならとっとと牢屋から出て訓練に行け!でないとテメェの朝飯は抜きにしてやるぞ!」
「……直ぐに行きます」
「ふん、化け猫が、とっとと行け!」
「……」
そう言って男は別の牢屋に行くなり他の者にも俺に言った事と同じ事を言っているのが聞こえる。
俺は牢屋と呼ばれた部屋から通路に出ると明かりのもれている扉に向かって一直線に歩きドアノブを回して扉を開ける。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「おい!誰が止まっていいと言った!」
「っ、す、すみません」
「喋る余裕があるなら走れ!このクズが!」
「ーーがっ、ごほ、ごほ……は、はい……」
扉を開けて見たのものは此処に居る者には慣れ親しんだ光景。
乾いた大地の上を走るドッグ隊の連中とそれに怒号を飛ばし立っている監視官。
へばっている者がいればどんな理由があろうとも腹に蹴りや顔面を殴りつけたりする理不尽な光景、気分が悪くなる。
「うん?」
「あ」
おっとと、いけない。
目が合ってしまった。
監視官は俺を見るなり加減の悪そうな顔をして詰め寄ってきた。
「おい!お前はそんな所で何をしている!どこの隊の奴だ!」
「……キャットです」
「っ、キャット隊……チッ、目覚まし係め起床時間間違えやがったな……」
露骨に取り乱している監視官。
しかしまぁ、気づかれてこのまま此処に居てもしかたないし訓練場所でも聞いておくか。
「あの、キャット隊は何処で訓練ですか?」
「っ!あ、あぁ、キャット隊は今日、丘の上だ。とっとと行け」
隠そうともしない嫌煙した態度をして手でもあっちに行けとしている。
やれやれ嫌われたものだ。
しかし今日は丘か、距離は5キロ程だったろうか。まったくそれも訓練の内なのだろうが朝からしんどいたらない。
監視官に一応頭を下げてその場を後にした。
〜〜〜〜〜
走れど走れども見える景色は岩肌の乾いた大地ばかりで青々とした草木の一本も見えない。退屈な景色、しかしあの牢屋でじっとしているよりははるかにマシだった。
「ふぅ……」
ある程度坂を登りきったところで後ろを振り返るがまだ誰の姿もない。
どうやら一番乗りのようだ。
さて、ならやる事もないし訓練が始まるまではと……。
丘の中央に停まっている一台の車に近づく。
すると車の下でかカチャカチャと音がする。
「おーい、爺さん、何やってんだ?」
「あぁ?誰だテメェは?」
「俺だよ俺、アカリ」
「……ーーあぁ!アカリか!なんだよそうならそうと言いやがれ!」
「思い出すのに20秒くらい掛かったな。そんな調子で此処での仕事大丈夫かよ?パトリック爺さん」
「がはは!当然まだまだ現役バリバリよ!」
「まぁ、無理のないようにな」
車の下から顔を出したこの爺さんの名はパトリック、パトリック・カルス。バード隊の隊長にして俺達キャット隊の対人訓練に付き合ってくれる唯一の人物だ。
「それで他の奴等はどうした?後5人ほど居るだろう?」
「多分此処に向かってると思う。あと昨日の仕事でヘマして3人死んだから後2人な」
「3人も死んだのか?何やらかした?」
「ヒューマン隊に護衛の戦車を奪えって言われて失敗した」
「はぁー、また無茶な事を……」
爺さんは眉間を指で摘んで顔を横に振った。
俺や爺さんが所属しているのは傭兵部隊アニマルハート。部隊名は全て動物の名でありそれによって役回りが決まっている。
ドッグ隊は特に当たり障りない一般兵。アニマルハートの中で一番人数が多く戦闘から警護まで幅の広い仕事を回される部隊。
子供はまだそうでもないか大人の方はむかつく奴が多い。
バード隊は戦いには出ないが銃火器や乗り物などを基地でメンテする整備部隊。
アニマルハートでは珍しく気のいい連中が多い。因みに、先ほどにも言ったが訓練に付き合うなんて事を出来るのはパトリック爺さん1人だけだ。
そして俺が所属するキャット隊は……主に暗殺や物資の奪取から情報収集など任せられ無理難題な理不尽な事を言われ実行させられる部隊で対人戦闘はアニマルハートで最強。
しかしそのせいで組織からも危険視され基地内ではなく離れた牢屋で生活している。
最後になったがアニマルハートの主戦力にして唯一人の名を冠する部隊、ヒューマン隊の役割はーー。
「お!始まったぞ!ヒューマン隊の奴等の訓練だ!」
爺さんの言葉に丘の上から基地の方を見るとそこには激しく殴り合っている巨大な影が見え大地が揺れる振動や金属同士がぶつかり合う音が此処まで伝わってくる。
それを見て聞いていると俺は思わず高鳴る自分の胸を押さえながらついニヤけてその名を呟く。
「シリウス」
ヒューマン隊の役割はあのシリウス、機体名『ケフェウス』に乗り敵を殲滅すること。
俺が好きで好きでたまらなく……手の届かない夢だ。
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