現実逃避の読書家と元野球部の変わり者は物語で恋に落ちる
陽稲(はると)
プロローグ
高校生の時から図書室に入り浸っていた
栞は昔から本を読むのが好きだった。物語の世界は出版された瞬間に完結して、それが変わることは決してない。初めと終わりが決まっていて、そこに向かって一直線に進んでいく。登場人物にどんな困難が待ち受けていようと、必ず終わりに辿り着ける。読み手の解釈次第で多少の差異はあったとしても、永遠に活字の世界で存在し続ける。
現実から逃れるように物語の世界に没入していた当時の栞は、物語に対して今のような考えはなく、ただ無数にある世界や登場人物の価値観を、作業のように脳に詰め込んでいた。
栞のその考えを変えたのは、高校二年生の時に出会ったある男子生徒と、一冊のノートに綴られた書きかけの物語だ。今もそのノートは栞の手元で大切に保管されている。
生きる意味を探していた栞に、生きることの素晴らしさ、辛さ、楽しさ、苦しさ、
栞が今生きているのは、これからもこのノートに綴られた物語が活字の世界で生き続けるためである。この物語は、人気者の野球部のエースが読書が好きな女子生徒と交流する物語で、モテる野球部のエースは女子生徒に真っ向からアタックするものの、ことごとく
ありふれたストーリーでも、栞はこの物語が大好きで、読み返す度に自分も高校生に戻ったような感覚になれる。
夏休みということもあり、図書室に居る生徒は少ない。野球部の威勢の良い声が微かに聞こえる中、栞は仕事を後回しにして、もう何度読み返したかわからない物語の1ページ目を捲った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます