星彩の糸

ヴィルヘルミナ

遠く遥かに消えゆく記憶

 村が焼ける炎を映す赤黒い空の下、私は初めて愛した神を手に掛けた。


 黒い岩の祭壇で彼の腕の中、私は護り刀を彼の腹部に突き立てている。

 私を本当に愛してくれていると信じていた。生贄ではなく、花嫁として迎えてくれると信じていた。それなのに、彼は村人全員に私を生贄として差し出せと夢を見せた。


 逃げようとした私は生贄として喉と両足を潰され、彼に差し出された。

『……何故……』

 彼の赤い瞳は寂しい色を湛え、黒の狩衣は血を吸って闇の色を増して濡れていく。私の手は彼の血を浴びて赤く赤く染まっていく。


 七剣星の力を宿す護り刀は、私の命を代償にして神の力を奪う。

 薄れゆく意識の中、遠く聞こえるのは童歌わらべうた


『あーめふらし かぜふかし』

『たーたりがみのおきにいり』

『へーびがーみのおきにいり』

『つかれたうーそに はらをたて』

『りゅうをうちとり くびおとし』

『ななつ ななやに ななみたま』

『うそつきだぁーれ わらうのだぁーれ』


 歌は子供の笑い声と共に風の中へと消え去り、私の目はもう何も映すことはなかった。

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