修学旅行が始まる(始まらない)

何故こんな事になっているのか。

修学旅行先へ向かう新幹線の車内、席を囲み合うメンバーの異質さを改めて認識する。

クラスの男子グループ、女子グループのトップカーストに属する(と俺は思っている)"イケダ"と"コンノ"。この二人と班を組む事になろうとは。

キッカケはあの時のやり取り――


HRに担任の口から出た"班決め"というワードを皮切りに、教室内がにわかに騒ぎ出した頃。

「クロキくんはもう班組む人決めてるのー?」

隣の席からコンノアスカが安易に話しかけてくる。そういう事されると安易に好きになってしまうではないか!

しかしこういう安易さが、現在の彼女の立ち位置を決定する重要な要因になっているのだろう。と意味不明な分析を行いつつ、

「うぇ、いやまだ何も決めてないけど」と哀しい現実を伝えた。

「そーなんだ、クロキくん一人でいることが多いもんね〜」

サラッと恐ろしいことを口にする女だ。その何気ない一言がどれだけ人を傷付けるか考えたことあります!?やっぱ好きじゃない!陽キャきらい!!

「私の友達とかは、気になる男子と組んで〜とか考えてるって」

それは結構。宜しくやってくれぃ。

「クロキくんもチャレンジしてみれば。ていうか気になる子とかいるの?」

席替えの最初の方に限っては、控えめに一言二言交わしてくるだけだったが、ここ最近はズカズカと本領を発揮してくる節がある。

そう言えはあの時は足を怪我してたか。それも今ではすっかり良くなっているようだ。

「いやむり…、だしそんな人いないし」嘘だ。

「そっか〜、じゃあ発掘してみるのも良いかもね。修学旅行で」「んー、"サクライさん"とか」


心臓が止まり…はしなかったが、みえざる手にギュッと握られた感じはした。彼女の名前が出るとは思わなかった。

俺、そんなに見てた?もしかしてバレバレ?もう既に女子の笑い者にされてるんですか?

「えぇなんで?」

平静と無関心を装う。

「んー、何となく!タイプ近いかなって」

どうやら本当に山勘のようだ。疑惑も晴れたところで安心した俺は、コンノさんにサクライさんのポジティブキャンペーンを敢行した。

「まあ、一人でいながらあまり周囲の影響を受けることなく、かといって馴染んでいないわけでもない。あの独特の存在感は中々だせないよね」

こんなところかな…と思っているとコンノさんが少々驚いた表情を見せた。引いていただけかも知れない。

「なんか、過去一よくしゃべったね!」

これも結構なダメージを負う発言である。

一瞬考え込むコンノさんの様子をみて、自分の発言が失言になるかもしれないと予感した。

「サクライさんと班組めるようお願いしてみようか。私も一緒に組むから!」







―――ここまでは上手くいった。予定通り。

コウヘイの方は確信のようなものがあったけど、口を出すのは無粋かなと思っていた。 ただ、そのお陰でサクライさんが目に入る回数も増えた。興味を持つだけでここまで違うなんて。

今までどれだけのものを見落としてきたのか考えるとゾッとする。

クロキくんに関してもそう。一年前の自分なら、彼を誘うなんて考えなかっただろう。

あまり他人に興味なさそうな彼が、サクライさんに向けるときだけ少し違ってみえた。嬉しそうな感じ?たのしそうなかんじ?

こちらの方はほんとに勘だったから当たってくれて良かった。いや、外れた方が良かったのか。

ともあれ、大事なのはここから。こんな修学旅行は初めてで、期待と不安が入り乱れてて変な感じ。

マコとハルカには悪いことしちゃったな。

今度ロイヤルゲストのパフェでも奢って、機嫌を取ることにしよう。

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