第44話
仮面の少年は巨大な怪物へと視線を向ける。
「弱く、醜いな」
ボソリと仮面の少年はつぶやく。
……弱い?これが?彼は一体……。
ぞわり
空間が震え、背筋に冷たいものが走る。
今までに感じたことのないような絶大な力。
仮面の少年の周りに紫紺の光がきれいな模様を描きながら姿を現す。
これは……力?ここまで可視化させるなんて……。呪力でも剣気でも力を目に見えるような形に変えるのは至難の技だった。
巨大な怪物が体を震わせる。
月が隠れる。
巨大な怪物が伸びる万を遥かに超える触手が夜を覆い隠したのだ。
人工物の光がないこの場所において光り輝くのは少年が纏う紫紺の光だけ。
怪物の触手が轟き、仮面の少年を襲いかかる。
だがしかし、触手は紫紺の光に触れすべて消滅していく。
「無駄だ……我が前に立つにはあまりにも弱すぎる」
触手は姿を消す。紫紺の光へと触れ。
仮面の少年は刀を抜く。
「裂けよ」
刀がきらめいた。
空が割れ、月光が仮面の少年を優しく照らす。
「ふぅー」
仮面の少年が腰を落とし、刀を構える。
その構えは突き。突きを打つためだけの構え。
紫紺の光が螺旋を描き、刀に集まる。
「刮目せよ……」
すべてが消失する。
空間の震えも辺りを包み込んでいた強烈な力も。
「開闢の時雨」
美しい。
紫紺の光の奔流が幾重にもなる紫紺の光が巨大な怪物の触手を蹂躙し、巨大な怪物の体をボロボロに壊していく。
私は目の前に奇跡に見惚れる。
これが人間業?
その圧倒的な力からは神々しさを感じた。
「ふむ。きれいだ」
仮面の少年はいつの間にか桜の大樹の木の枝の上に立っていた。
仮面の少年は満天の空に浮かぶ月を見ていた。
「何者だ!」
お父様が声を張り上げて叫ぶ。
仮面の少年はちらりとお父様の方に視線を向ける。
「……君が知る必要も、資格もない」
バッサリと切り捨て、仮面の少年は私の方にと視線を向ける。
「満月は沈まない。輝き続ける。紅き月のその日まで」
……何を?
「備えろ。運命の日は近い」
「ちょっと待って!」
私は叫ぶ。
このままだと仮面の少年が消えてしまうと思ったからだ。
「あなたは一体何を知っているの!私に何を伝えようとしているの!」
「以前も言ったはずだ。我はすべてを知っている。そして覚えておけ。我は必要な情報はすべて伝えている」
そう言ったきり仮面の少年は姿を消してしまった。
あとに残されるのは本来死ぬはずだった私と、呆然としている倉橋家の人間。
そして、満天の空で輝く月だけだった。
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