旧・最強無敵厨二病少年の勘違い英雄譚～我は全てを知っている(๑• ̀ω•́๑)✧ﾄﾞﾔｧ（知らない）〜

第1話

　修正版を『最強無敵厨二病少年の勘違い英雄譚～我は全てを知っている(๑• ̀ω•́๑)✧ﾄﾞﾔｧ（知らない）〜』を投稿しています。

　そちらを見てくれると嬉しいです。

　引き続きこちらでも下書きとして更新は続けさせていただきます。

「はぁはぁはぁ」

　私は泥に塗れながら必死に足を動かす。

　逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ。

　必死に逃げまとう。

　だが、

「ぎぃぃぃいいいいいいいいい！」

　追いつかれる。

　化け物に、魔怪に。

　巨大な猿のような魔怪。

　脅威度はおそらく人災級。私一人でなんとか出来るものではない。

　私なんかではとても敵わない。

　そんな魔怪だ。

　私は死を覚悟した。

「ごめんなさい……」

　ごめんなさい。

　お父さん。お母さん。

　私の瞳から一筋に涙がこぼれだしてしまう。

「今宵は月が綺麗だ」

　声が、響く。

　鈴を転がすような声が。

　誰もいなかったはずのそこには少年の姿が。

　少年は私と魔怪の間に立ち、月を見上げていた。

　少年の横顔から不気味に赤く光る右目が見える。

「君もそうは思わないか」

　少年は私の方を向き、微笑む。

　作り物のような笑顔。顔。

　造形物を思わせる端正な顔立ちに私は目を奪われ、時を忘れる。

「美しい女声と眺める月ほど良いものはない。しかし、今宵は要らぬお客さんがいるようだ」

「ぎぃぃぃいいいいいいいいい！」

　魔怪が動き出す。

　突然現れた少年に恐怖した。

　その事実を否定するかのように。

　危ない！

「……っ！」

　私の口から声にならなかった何かが漏れ出る。

　私の絶叫は声にならなかった。

　だが、私の心配は全て杞憂で、魔怪の恐れは至極当然だった。

　魔怪はすぐさま逃げ出すべきだったのだ。

　ザン、ザン、ザン。

　剣閃が舞う。

　いつの間にか少年の手に握られていた刀が三度。猛威を振るったのだ。

　その剣には力も、技もなかった。

　ただ、自然だった。

　認識できない。正しく認識できない。脅威だと切られてもなお、わからない。

「フィナーレだ」

　トン。

　再度刀が振られる。

　魔怪の首が跳ね飛ばされ、私のもとに転がってくる。

　鮮血が吹き上がり、少年の顔を濡らす。

　私は何も出来ない。

　ただ心を奪われ、眺めていた。

「君には期待しているよ」

　少年が再度私の方を振り返り、告げる。

　少年の赤い瞳と漆黒の瞳が私の全てを見透かしている。

　見透かされている。

　そんな気がした。

「な、何が」

　私の口からようやくそれだけ。

　それだけの言葉が漏れ出る。

「紅き月が。紅き月が昇り、世界は転換のときを迎える」

　少年は、その少年は。

　忽然と姿を消した。見失った。

　私はしかと少年の姿をその目に写していたというのに。

　幻術か。そう疑いたくなるような出来事。

　しかし、転がされた魔怪の首がその少年の存在を証明していた。

　私は、私は、私は、

　どうやら命を失わずに済んだようだ。

　あの少年のおかげで。

　あの少年は……あの少年はいったい？