第62話 それは時に本物よりも

*時系列忘れました。ごめんなさい。


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先輩方と一緒に帰っている時。


いつもの公園でだべることになり、私は生真面目に教科書を詰め込んだ鞄を下ろした。


幸い校則もあり、お金等の貴重品は何もないため、自由に遊ぶこともできた。


仁先輩と片想い先輩達は鞄を下ろしてすぐに公園の広場へと向かって行った。


私は先輩達の置いた鞄を整理して、とりあえず汚れないようにした。


脱ぎ捨ててある学ランやブレザーを畳んで、鞄の上に置いた。


「そこまでしなくて良いって。」


奈良先輩は、学ランを脱ぐためにボタンに手をかけていた。


金ボタンは校章が入っていて、一眼でどこの中学か分かるようになっていた。


少し緩んでいるボタンを見て、私は気になった。


「そこのボタン、緩んでますよ?私、ソーイングセット持ってるんで縫っておきます。嫌なら良いですけど。」


奈良先輩は何も言わずに、学ランを私に渡した。


「縫い終わったらそっちに向かいますね。」


「無理してあいつらに合わせなくて良いから。俺が頃合い見てくるよ。」


仁先輩達に角が立たないようにしてくれる事が、その一言で分かって嬉しかった。


走り去る奈良先輩の背中を見ながら、私はソーイングセットを出して、糸の色を決めた。


仮縫い程度で留めて置けば、先輩のお母さんが洗濯する時に気づくと思ったから。


黒の学ランには、黒の糸が良いのは分かっていた。

それでも私は先輩から学ランを預けてもらえる関係であることを少し主張したかった。


もう緩んでいる糸は邪魔になるため、ハサミで切った。一応、学ランの内ポケットに入れて。


紺の糸を針穴に通し、玉を作ってさくさく縫っていった。


大切な人のためにする縫い物は、何にも辛くない。

なんなら気持ちを込められるし…。


私はボタンの裏側に少しだけ刺繍のようなものを入れた。


しっかり見ないと絶対に分からないように。


完成し、残った糸を切って片付けた。


カラーのある襟のはずなのに、カラーが入っていないのに驚き、奈良先輩でも校則違反することに暖かみを感じた。


学ランを畳んでいると、奈良先輩のいつも通りの良い香りがした。


先輩の鞄の上に畳んで置いて、仁先輩達の方へ行こうとすると、奈良先輩がこちらへ来た。


「ちょうど良かった!!ボタンつきましたよ!」


「ありがとう。」


学ランを確認しない先輩に違和感を感じて、もやもやした。


「後で確認してくださいね。」


仁先輩達の方へ行こうとすると、手首を掴まれて動きが止まった。


「ちょっと待って。」


「なんですか?」


「目瞑って。」


「えっ、こんな人目のあるところで??」


「バカ、そんなわけないだろ。いいから目瞑って。」


思っているような行動ではないことが分かり、安心した反面少しだけ、ほんの少しだけ期待した自分が嫌になった。


「目開けて。」


目を開けると奈良先輩。なんら変わらないいつも通りの奈良先輩。


何が変わったのか全く分からず、頭の上にクエスチョンマークが飛び出した。


奈良先輩は微笑みながら、頭を撫でた。


「髪の毛、少し緩んでるよ。確認しな。」


手鏡で確認すると、桜の花びらが可愛らしく髪の毛に飾られていた。


「可愛い、これ持ち帰る。」


「本物やるから、持ち帰るな。」


「嫌、絶対持ち帰る。」


「本物のアクセサリーの方が良いだろ。」


「これが良い。先輩が嫌なら辞書の栞にする。」


そこまで言うと奈良先輩は降伏してくれた。


「君は誕生日が4月だからな。」


「覚えててくれたんですか?」


「当たり前だろ。」


「今年は一緒に桜見れましたね。」


「だから誕生日プレゼントにって思ってアクセサリーでもって…。」


「気持ちだけで良いです。そのかわり、これからもよろしくお願いします。」


奈良先輩に改めてお礼を言うと、先輩はいつものポーカーフェイスをしながら返事をしてくれた。


「君のせいで、きっと桜は忘れないだろうな。」


本物はいらない、だから一緒にいて


卒業しないで


どこにも行かないで


なんで年下に生まれたんだろう


同い年なら


同じ高校に行って



そんな私の気持ちがバレていたようで、奈良先輩は帰りの歩くスピードを遅くしてくれた。


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