とびうお

 きっかけは誕生魚診断だった。

 SNSでたまたま見かけた誕生魚診断。信じているわけではないが、面白そうなので魚座の私は誕生日を入力してやってみた。

「あなたの誕生魚は浜飛魚(ハマトビウオ)です!(中略)誕生魚を食べてみよう!」

 誕生魚と言いながら即食べることに結びつくシュールさはさておき、とびうおは果たして食べられる魚なのか……?食べる魚として見たことのなかった内陸育ちの私は診断結果をその疑問込みでSNSに呟きを流した。

「とびうおって食べられるの…?」

 しばらくすると海沿いに住む相互さんから水飛沫と共に……というのは冗談だが、リプが飛んできた。

「たべれるよ」

 食べられるんだ! そして実際に売っているのか!! 私は衝撃を受けた。そしていつか食べたいと思いながらリプを交わしていた。


 To be continued……


 約1週間後、私は買い出しのためにスーパーに出かけた。夜の7時ごろにスーパーに行くと魚に半額のシールが貼ってあり、お得に買えるためその時間帯に行くようにしている。もはや学生ではなく主婦である。今日の魚は……。大体買うのはさばとぶり、もしくは鮭。だが私はある一点で目を止めた。

「これ、とびうおじゃん!」

 内心で叫んだ。しかも奇しくもリプで会話をしていた相互さんのいる土地でとれたとびうおだ。これは買うしかないだろう。私は半額になっていることをいいことに迷わずカゴに入れる。そして何種類かの魚とその他食料を買い込み、家に帰った。


 その日はもともと炊き立ての白いご飯で魚を食べようと思っていたため、炊飯器にご飯をセットしてあった。

「よし! 今日はとびうおを食べよう」

 だがしかし、私はここで重大なことに気がつく。いつも買っていたのは魚の切り身だ。目の前にあるのは、長さ20cm以上はあるとびうお丸一尾。捌かなければいけない。随分前に実家で魚を捌いたことはないこともないが覚えていない。一人暮らしをしてからは鮭か鯖かぶりの切り身を食べていた。何を隠そう、いや全く隠しきれていない。私はグロや動物の解剖などが大の苦手だ。それでも、私は意を決して包丁を構えた。


理想の私:魚を捌く用の包丁で華麗に捌く

内心の私:「多少うまく捌けてなくても食べる時に取り除けばいいよね」

実際の私:子供用の包丁を手にして涙目、へっぴり腰


 包丁と手と蛇口が、怪我をしたんですか?というような惨状になりながらも魚の内臓を取り終えた私は、魚を焼けるお皿にとびうおを乗せて電子レンジに突っ込んだ。

 無事にとびうおとサラダ、白いご飯が食卓に並び、私は真っ先にとびうおに箸をつけた。淡白な白身魚で食べやすい。


 推定食べられ時刻20時。とびうおは私のお腹の中へと消えていった。

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