3.一緒に
授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った途端、隣の席の彼女が改まった顔で僕を見た。僕も彼女の方に目をやったけど、あまりの真剣な眼差しに僕は思わず視線を宙に泳がせる。
「来て欲しい場所があるの」
「え?」
初めて高岡さんと喋れた。と思ったのも束の間、彼女は勢いよく僕の手を取って立ち上がった。
「ちょ、高岡さん……待っ」
手を引かれ、教材を片していた数学の先生よりも早く教室を飛び出た僕達。
「元気だなぁ、二人とも」
明朗な先生の声を背に、僕達は廊下を駆け抜けた。高岡さんは足を止める気配すら見せずに僕を凄い力で引っ張る。どこに連れて行かれるんだと思いつつも、僕は心臓を激しく高鳴らせていた。
だって学校一、それどころか日本で一番だと言っても過言じゃ無いぐらいの美人が僕の手を握ってる。明日にでも死ぬんじゃ無いかな…とか呑気なことを考えていると、ある教室の前で彼女は立ち止まった。
「誰もいないね……入って」
部屋の中を確認した彼女は、薄暗い部屋に僕を押し込んだ。足を踏み入れるなり湿った空気が肌を撫でる。それに少し埃臭い。無造作に詰まれて置き去りにしてある廃品達に僕は顔を歪めた。学校にこんな部屋があるの知らなかった。
「…高岡さん?」
もしかして明日じゃなくて今日死ぬ?
唐突に怖くなってきた僕は彼女を振り返る。ぴしゃんと音を立てて教室の扉を閉めた彼女は、慣れた手付きで後ろ手に部屋の鍵を閉めた。
さっきまで青春していた筈なのに、今までの事が嘘みたいに妙な緊張感が漂っている。沈黙が恐ろしくて今一度名前を呼ぶと、ふっと顔を上げた彼女。
「…………」
視線が合うなり僕は生唾を飲んだ。整った鼻筋の下にあるツンと尖った唇、小動物みたく丸い瞳は僕のことを捉えて離さない。やっぱり誰が何と言おうと彼女はどこの誰よりも可愛い。
「あの…お願い事って、な」
恐る恐る尋ねた瞬間、高岡さんが勢いをつけて僕の胸に飛び込んできた。大きく跳ねた髪の毛から、ふんわりと香る石鹸の匂い。
はわっと情けない声を上げた僕は、あまりの出来事に思わず体を硬直させる。すると彼女は僕のシャツに顔を埋めて、すんと鼻を鳴らした。
「た、…たっ、たか」
あまりの衝撃に声が裏返る。そんな事などお構い無しの高岡さんは、僕の肩を掴んで鎖骨の辺りに鼻を近付けてきた。二つの丸くて柔らかい感触が、薄いシャツ越しに僕の肌をなでる。そしてまた匂いを嗅ぐように息を吸ったあと「好き」と
何が?僕のことが?話したこともないのに?頭の中で回想&推理を始める僕。すると自分の胸の中から、そっと高岡さんが視線を上げた。澄んだ黒い瞳の中に映る自分は、きっとみっともない顔をしている。
「おねがい、私と寝てほしいの」
頬を耳まで赤くした小さな彼女に、僕は言葉を失った。
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