第126話
さらりと、誰かに前髪をなでられたような気がした。
「んっ……」
目を覚ますと、部屋の天井と、俺をのぞき込んでいる金髪の少女の姿が見えた。
どうやら俺は、ベッドに寝かされているようだった。
「──っ!? あ……お、おはよう。体調はどうかしら?」
慌てて退く神官衣の少女に、俺は声をかける。
「シリルか……ここは……?」
「あ、あなたの部屋よ。サツキの馬鹿力にノックアウトされたあなたを、ここまで運んできたの」
「そうか……」
俺は頭を振って意識を覚醒させ、上半身を起こしてあたりを見渡す。
そこは確かに、俺の宿泊用にとった宿の部屋の中だった。
部屋は一人用ながら広々としており、俺が寝ているベッドのほかに、テーブルや椅子などが配置されている。
部屋の奥の大きな窓には透明のガラスが嵌められており、そこから鉱山都市ノーバンの夜景が一望できる構造になっていた。
贅沢な作りだ。
普段使いの安宿の、両手を伸ばせば壁から壁についてしまいそうな狭苦しい部屋とは大違いである。
今回は特別に高級宿に宿泊したからこんな部屋だが、いずれは日常的にこういった部屋で暮らせるようになりたいものだと思う。
その部屋にあって、シリルは俺のいるベッドの傍らに椅子を移動させ、そこに座って俺を看ていてくれたようだ。
「シリルは意識を失った俺を看ていてくれたのだな。ありがとう。……サツキとミィは?」
「あ、え……まあ、一応、そうね。……サツキとミィは私たちの部屋にいるわ。サツキはウィリアムのことを看ていたいって言ったんだけど、今のあなたは重たいから私がダメって言ったの。だから怒らないであげて。ちなみにミィはサツキのお目付け役」
「そうか。シリルたちにはいろいろと気を遣わせてしまったな」
「あなたが気にすることじゃないわ。……その代わりに、役得もあったし」
「役得……?」
「う、ううん。何でもないの。気にしないで」
なぜか頬を朱に染め、慌てた様子で取りつくろう神官衣の少女。
先ほどから妙な仕草が多い気がするが……まあ、気にするほどのものでもないだろう。
「それじゃ、体調に問題がないなら、夕食にしましょう。私もうお腹ペコペコ」
「ああ。……しかし確か、食事は部屋に運ばれるのではなかったか? 俺を待っている必要もなかったと思うのだが」
先にフロントで聞いた話だと、夕食は食堂で一斉にとるのではなく、個々の宿泊者の部屋に料理が運ばれる形式だったはずだ。
また当然ながら、宿泊する部屋は男子と女子で別々にしてある。
シリルたち三人は女子部屋で、俺は一人でこの部屋で食事をすることになるのだから、待つ必要性は特になかったように思う。
だが俺のその発言を聞き、シリルはムッとした様子で眉を寄せる。
それから彼女は腰に両手を当て、子供を叱りつけるようにこう言ってきた。
「あなたね、まさか一人で寂しく食事するつもりだったんじゃないでしょうね? あなたの分の夕食も、私たちの部屋に運ぶように宿の人に言ってあります。私たちの部屋まで一緒に来ること」
「あ、ああ……そうか、分かった」
「ん、よろしい」
シリルは俺の返事に満足したのか、今度はにっこりと笑顔を向けてきた。
美人なので、こうまっすぐに笑顔を向けられると少し心が浮ついてしまう。
しかし最近のシリルは、ときどき妙に俺の保護者面をすることがある。
もし俺に姉がいたら、こんな感じだったのだろうか……。
そんなことを思いながら、俺はシリルに連れられて自分の部屋を出て、彼女たちの部屋へと向かった。
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