エピソード6:悪徳貴族と女導師(後編)
第62話
屋敷の事後処理をしながら、俺はミィとつないだ
『ミィ、こちらは片付いた。アリスの様子はどうだ?』
『え、もう終わったですか? ……こっち、アリスのほうはだいぶ前に街の外に出たです』
ミィに報告されたアリスの動きは、事前に得ていた情報通りのものだった。
俺はミィに確認する。
『ミィ、アリスが街を出てからは、追いかけたりはしていないな?』
『大丈夫です。
『よし、さすがミィだ。これから合流するから、そこで待っていてくれ』
『えへへー。分かったです』
ミィの嬉しそうな思念が返ってきたのを確認して、
そして俺たち一行は、屋敷の後始末を終えると、ミィが待っている街の正門へと向かうことにした。
ただアイリーンだけは、ゴルダート伯爵の見張りとして残った。
すでに
アイリーンが抜けるのは戦力的には痛いが、人材の適正配置を考えるならば、これが妥当な配分だろう。
俺はアイリーンと別れ際、ゴルダート伯爵の屋敷の前でがっちり握手をする。
「……ウィル、一応言っておくよ。キミなら大丈夫だと思うけど──無茶だけはしないでね」
「ああ、その点に関しては信頼してもらっていい」
それからアイリーンは、俺の後ろをひょこっと覗いて、そこにいる二人にも声を掛ける。
「サツキちゃん、シリルさん。ウィルのサポートは頼むね」
「ああ。姫さんに言われるまでもねぇ」
「私もできる限りのことはします」
アイリーンは俺と握手を終えると、サツキ、シリルとも握手をする。
それから俺たちはアイリーンと別れて、ミィが待っている正門へと向かった。
***
「──あ、ウィリアム。こっちですこっち」
正門近くまで行くと、そこで手を振るミィと合流。
それから正門を出て街道を歩き、やがてミィの先導に従って街道脇の森の中へと踏み込んでいった。
「アリスはこのあたりで茂みに入っていったです。足跡を追ってみるです」
ミィは地面を注意深く見て、道なき道を進んでゆく。
俺はその間に
するとミィが進んでいく方向の先に、木々の上方にまで広がった赤い半球状の光が見えた。
あの半径五十メートルほどの魔力の光は、
距離は俺たちがいまいる場所から十分ほど山道を登っていったあたりだ。
相手が
もっともアリスもそのぐらいのことは分かっているのだろうが、彼女はそもそもこちらの存在を認識していないはずだ。
犯罪者心理として追跡者の存在までは警戒しても、そこに魔術師がいる可能性までは視野に入れないのも無理はない。
そうして俺とミィ、サツキ、シリルの四人は、魔力の光の在り処とミィの足跡追跡を頼りに山道を分け入って進んでゆく。
やがて俺たちは、アリスが張ったものであろう
「……ここまで来てみたですけど、どうするですかウィリアム? これ以上近付くとアリスに気付かれるのですよね?」
ミィがそう聞いてくる。
それに俺の横を歩いていたサツキが答える。
「そんならもう突っ込んじまえばいいんじゃねぇの? 五十メートルなら走って上がればすぐだろ。相手が魔術師一人なら何とかなるって」
サツキが楽観的な見解を示す。
確かにある程度の思いきりが必要な局面であるから、必ずしも間違った意見とは言えないが……。
一方それに対し、慎重な見解を示すのはシリルだ。
「でも相手はウィリアムと大差ないぐらいの使い手なんでしょ? 何をされるか分からないだけに、楽観はするべきじゃないわ」
「うっ……そりゃそうだけどさぁ。じゃあどうすんだよ」
サツキは「ウィリアムと大差ない実力」と聞いて、少し尻込みしたようだった。
そして全員の視線が、俺に集まる。
「……万全と言える手ではないが」
俺はそう前置きして、すでに効力の切れた
通常の効果通り、サツキたちも巻き込む範囲で使用する。
ただし
気付かれるときは気付かれるし、それは相手の注意力の高さや現在の意識状態に大きく依存することになる。
「──
俺は仲間たちにそう伝え、彼女らがうなずくのを確認すると、
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