第46話

 アイリーンは城門まで俺たちを見送ると、城館へと帰っていった。

 残る俺とサツキ、ミィ、シリルの四人は城門をあとにして、暗くなった王都のストリートを歩み始める。


 時刻は夜。

 夜の帳が下りる中、ストリート脇の等間隔に配置された街灯が放つライトの呪文の灯りが、幅広の道をほどよく照らしていた。


「いやぁ、にしても王都まで来てよかったよな。金一封ももらえたし万々歳だぜ。これであとは、ナントカ伯爵がきっちり成敗されてくれりゃあ申し分なしだ」


 サツキが先頭をぷらぷらと歩きながら、そんなことを口にする。

 そこに突っ込みを入れるのは、いつものミィの仕事だ。


「ゴルダート伯爵です。あと宮廷魔術師のアリスもです」


「そう、それそれ。……まあホントのトコ言うと、あたしの手でぶっ飛ばしてやりたかったけどな」


「仕方ないでしょう。私たちは一介の冒険者なんだから、貴族なんて相手にできないわ」


「……まあな」


 シリルに嗜められて、サツキが少し声のトーンを落とす。

 フィリアと体を共有していた分だけ、この件に関するサツキの想いは強いのかもしれない。


 俺はそのサツキに向けて、一つの方針を提示する。


「その話だがな。俺はこれから、この王都の冒険者ギルドへ行こうと思う」


「へっ、何で? ──ああそっか。王都からアトラティアに移動するついでに、受けられるクエストがあるかもしれないしな」


 サツキが言っているそれは、冒険者がよく使う常套手段だ。

 商隊の護衛や荷運びなど、街から街へと移動する際に「ついで」で受領できる簡単なクエストを運よく見つけられれば、それを利用することで金回りの面で無駄のない移動が可能になる。


 そういった意味で、サツキの考えは一般的には妥当なものだ。

 ただ今回に限っては、俺が意図しているものはそれではない。


「いや、冒険者ギルドに行くのは『指名クエスト』に関する受付をするためだ」


「へっ……『指名クエスト』ぉ? それってアレだろ。高ランクの冒険者パーティが、依頼人から名指しでクエストの依頼を受けるっていう」


 サツキのその言葉に、俺はうなずく。


 冒険者ギルドにある一般のクエストは、依頼人が冒険者ギルドを通して不特定多数の冒険者に対して仕事の依頼を提示するものである。

 そしてクエストの貼り紙を見た冒険者のうちのいずれかが、その依頼を受領するという形になる。


 だが例外的なクエストの形式として、依頼人が特定の冒険者やパーティを指定する「指名クエスト」という制度も存在する。

 これはサツキの言う通り、ある程度以上の信頼と実績を重ねた高位の冒険者パーティに対して提示されるのが一般的であるのだが──


「『指名クエスト』制度に、高ランクの冒険者パーティに限るというルールはない。依頼人が名指しで指名をするという条件さえ整えば成立するものだ。……俺はフィリアが関わったこの件、自身の目で最後まで見届けたいとずっと考えていた。それが叶うかどうかは微妙なところだったが──先ほど、すべての条件が整った」


「えっ……ってことは……」


 俺の言葉に、サツキが振り向く。

 その瞳には、一度あきらめた想いに対する、捨てきれない希望が乗っているように見えた。


「じゃあ、あたしたちの手で、最後まで……?」


「ああ、そういうことだ。俺が一人で勝手に話を進めてしまったが、その指名クエスト、受けるということでいいか、みんな?」


 俺は道端で立ち止まり、三人の少女を見渡す。

 すると夜空の下の少女たちは、一様に嬉しそうな笑顔でうなずいた。


「ああ、もちろん!」


「ミィも賛成です!」


「願ってもない話だわ」


 少女たちの反応を確認して、俺も一つうなずく。


「では、この件最後のひと仕事クエストを受けに行くとしよう」


 俺は仲間たちに向かってそう言って、王都の冒険者ギルドへの道を歩き始める。


 満天の夜空を見上げれば、そこにある月は穏やかな光を落としながら、俺たちの姿を見守っているようだった。

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