第37話
教授との
そして今後の計画を説明すると、彼女らとともに街を出た。
いまは王都に向けて、三人の少女たちとともに街道を歩いている。
よく晴れた青空の下、午前中のほど良い日差しのもとでの旅路であった。
「でさウィル。いまさらなんだけど、一つ聞いていいか?」
ふと前を歩いていたサツキが、俺のほうを振り返り聞いてくる。
「ああ。何だサツキ」
「あのさ──あたしたちって、何で王都に行こうとしてんの?」
「本当にいまさらだったです……」
サツキの横でミィがため息をついた。
見ればシリルも、あきれたというように肩をすくめている。
「ふむ。出発前に説明したと思うが」
「いやぁその、なんつーか……話が難しくて、途中から聞いてなかったというか……」
サツキが歩くペースを落として俺の横に寄りながら、たははとバツの悪そうな笑顔を見せる。
俺としてはそんなに難しい話をしたつもりはなかったのだが……まあ、理解できなかったのであれば仕方がないので、一から説明しなおすことにしよう。
「では、まずアリス・フラメリアだという人物についてだ。彼女は三年前に魔術学院を卒業し、ゴルダート伯爵付きの宮廷魔術師になった。ここまでは大丈夫か?」
「あ、うん、その辺は覚えてる。確かそいつの『ソツロン』とかいうのが、アンデッドについて書いたものだったんだろ。──三年前に卒業したってことは、ウィルより三つ年上ぐらいだとして、いま二十歳ぐらい?」
「おそらくはな。歳をとってから魔術学院に入学する者もいるから、断言はできないが」
「ふーん。けどそんな歳で貴族の側近になれるんだな。魔術師ってやっぱすげぇのな」
サツキがそんな感想を漏らす。
俺はそれを聞いて、なるほど面白い見方だと感じた。
確かに、市井の二十歳にも満たない若造が権力や政治の中枢にほど近い場所に立てるというのは、なかなかに稀有なことなのかもしれない。
魔術学院で様々な勉強をした魔術師は、領地運営などに関する助言役、補佐役としても適任である。
その上、当然ながら魔法が使えるため、様々な状況下でいろいろと役に立つ。
ゆえにある程度経済的に余裕のある貴族であれば、自分の手元に宮廷魔術師の一人ぐらいは確保しておくのが一般的だ。
そして有能かつベテランの魔術師となればすでにどこかの貴族に仕えているのが普通であるため、その手の人材として主に狙われるのは、学院を卒業したばかりの若い導師ということになる。
「──で、そのアリスって宮廷魔術師が一体何だっての? そいつが黒幕? そいつ斬りゃいいの?」
サツキの思考回路は、今日もシンプルだった。
善か悪かの二元論。
気持ちの良い人柄ではあるのだが、少し心配にもなる。
放っておけないタイプというのは、サツキのような者のことを言うのかもしれない。
誰かが常に一緒についていてやらないと、危なっかしくてしょうがないという気分にさせられる。
将来、彼女のそばに一生寄り添うことになる見知らぬ誰かの苦労を想像して、俺は思わず苦笑してしまう。
「その辺りはまだ分からない。だがアリスが元凶である可能性は高いな」
「んー……でもさ、だったらそのアリスとゴルダート伯爵を倒しにいくんじゃねぇの? ゴルダート伯爵領ってこっちとは逆方向だろ? アリスって王都にいんの?」
そのサツキの発言には、シリルがあきれたオーラを放ちつつ突っ込みを入れてきた。
「……サツキ、あなたね。まさかとは思うけれど、貴族の屋敷に物理的に殴り込みをかけるつもりだったんじゃないでしょうね?」
「そんなことをしたら、ミィたちは一躍下級冒険者からお尋ね者に大変身です。殴り込みとか、普通に考えて犯罪です犯罪」
ミィもシリルに追従する。
だがサツキは依然として納得いかないといった様子だ。
「……えー、でもさぁ。犯罪っつったら、そのゴルダート伯爵とかアリスとかだってフィリアの村の村人たちを山賊に殺させたんだろ。超犯罪者じゃん」
「だから、そいつらがそれをしたという確信と証拠がないです」
「証拠って、あの山賊の館にあった紙じゃダメなの?」
「ダメとは言い切れないが、それを誰に渡したらどういう結果になるか、ということは考えておく必要がある」
俺がミィのあとを受けてそう説明すると、サツキはぐしゃぐしゃと頭をかきむしった。
「あー、もう! やっぱり難しくて分かんねぇ~!」
「……これ以上はサツキには無理そうね。まあいいんじゃないの? サツキが考えなくても、うちには頼れる導師様がいるわけだし」
シリルがそう言うと、頭をかきむしっていたサツキがぴたりと動きを止めた。
「だな。よし、考えるのはやめ! そういうのはウィルたちに任せた!」
そう言ってサツキは、あっはっはと笑った。
俺としてはやはり苦笑を禁じ得ない気分ではあったが、確かにシリルの言うとおり、これ以上サツキに説明しても詮無いだろうとは感じる。
と、そう考えていると、今度は当のシリルが俺に疑問をぶつけてきた。
「でもそれはそうと、大丈夫なの、ウィリアム?」
「大丈夫とは何がだ?」
「王都に出向いたところで、私たち一介の冒険者の言うことを信じてもらえるかしら、っていうこと。ウィリアムの導師の地位や私の侍祭の地位を出せば、話ぐらいは聞いてもらえるかもしれないけれど……」
なるほど。
その点に関しては、まだシリルたちにも話していなかったか。
「ああ、そこに関してはおそらくどうにかなるだろう。王都には知人がいる」
「王都に知人? ……その口ぶりからすると、有力者に渡りをつけられるだけの人物っていうことよね?」
「まあ、そういう言い方をすればそうなるな」
俺がそう答えると、シリルは大きくため息をつく。
「……はあ。相変わらず凄いのねウィリアムは。容姿端麗、能力は頭抜けていてその上に人脈まで。どこの物語に出てくる王子様よあなた?」
「別に人脈は俺が築き上げたものというわけでもない。たまたまその『王子様』のポジションにいる人物が、知り合いにいるだけだ」
「ふぅん、王子様が知り合いにね……。──って、何ですって?」
本当のところを言えばもう一つ人脈の筋はあるのだが、そちらはできる限り頼りたくない相手だ。
まずは別の筋に渡りをつけることとしよう。
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