第2話

 学院がある魔術都市レクトールの冒険者ギルドでは、友人が言っていたように、学院の落伍者が多数冒険者として活動している。

 そのような場所で活動をしても、魔術師の需要はあまりないだろう。

 そう考えた俺はひとまず魔術都市レクトールを離れ、乗合馬車で一週間ほど揺られた先にある都市アトラティアへと向かった。


 都市アトラティアは、特に変哲のないごく一般的な中規模程度の都市である。

 工業、商業ともほどよく発展していて、冒険者ギルドもまた同様にそこそこの規模であった。

 俺はアトラティアに入ると、早速冒険者ギルドへと向かい、その入り口をくぐってゆく。


「冒険者登録の窓口は……ふむ、あれか」


 ギルド内全体の様子を見渡して、それらしき窓口を見つけたのでそちらへと向かう。

 そこにはカウンターがあり、向こう側に若い女性職員が一人いて何やら書き物をしていた。


 女性職員の年の頃は、俺と同じぐらいだろうか。

 彼女は俺が窓口の前まで行くと、それに気付いて顔を上げた。


「こんにちは。初めての方ですか?」


 満面の笑顔で聞いてきた。

 営業スマイルと分かっていても、なかなかに魅力的である。

 だが俺はここに恋人探しをしに来たわけではない。


「ああ。冒険者登録をしたい」


「かしこまりました。じゃあこちらに、お名前と年齢、種族、出身地などをご記入くださいね。文字が書けない場合は、言っていただければ私のほうで代筆しますので」


 彼女はそう言って、記入欄の用意された羊皮紙を一枚、それにペンとインクを渡してきた。


「大丈夫だ。文字は書ける」


「ですよねー。……失礼ですけど、魔術師(メイジ)の方、ですよね?」


 彼女は俺の姿を下から上までまじまじと見て、そんなことを聞いてくる。


 俺が身につけているのは濃緑色のローブで、手には身の丈ほどの長さのねじくれた木の杖を持っている。

 これらは学院の制服のようなものなので、この姿を見れば魔術師(メイジ)と思うのは当然のことだ。


「まあ、そんなところだ」


「やっぱり! あとお兄さん、イケメンだってよく言われません?」


「どうだかな。その仏頂面をどうにかすればモテるのに、などと言われたことは何度もあるが、世辞なのか批判なのか、あるいは別の意図があるのかは分からん」


 俺は自分の容姿に関しては、まったくもって平凡な十七歳男子のそれだと認識している。

 多少長身なほうではあるが、特に太っているわけでも痩せているわけでもない。

 髪の色はありきたりなブラウン、瞳の色も同色。

 特徴がないことが特徴と評するべき容貌だろう。


「書き終えた。これで大丈夫か?」


 渡された羊皮紙に必要事項を記入して返す。

 受付の女性職員は、それに一通り目を通していった。


「はい、必要事項の記入はバッチリです。念のため確認しますね──ウィリアム・グレンフォードさん、種族は人間で、年齢は十七歳、出身は魔術都市レクトール──でよろしいですね?」


 その女性職員の確認に、俺はうなずく

 女性職員は手元にあった印鑑で、ぽんと判を押した。


「はい。それではウィリアムさんは、この都市アトラティアの冒険者ギルドで冒険者として登録されました。冒険者活動に関しての細かい説明はあちらに書いてありますが、口頭での説明は必要ですか?」


「いや、自分で確認するから大丈夫だ」


「かしこまりました。冒険者になったばかりのウィリアムさんは『Fランク』の冒険者となります。冒険者ランクはクエストを何度か成功させることで徐々に上がっていきますので、高ランク目指して頑張ってくださいね」


「ああ、ありがとう」


 俺は営業スマイルで見送る女性職員に礼を言って、冒険者登録用の窓口の前から立ち去った。

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