アンドロイドは世界平和の夢を見るか?〜迷宮の底で出会ったのは世界を救うため作られた機械でした〜
森川 蓮二
プロローグ 地下街の攻防
頭上の太陽に照らされ冷たい風が吹きすさぶ廃墟群。
人の手が入らなくなった建物は経年劣化とともに荒れ果て、無残な姿を晒している。
その下――かつて繁栄を極めた人類の痕跡として蜘蛛の巣のように張り巡らされた地下街。
電気も絶たれて久しい薄暗い道を一人の少女が走っていた。
周囲に視線を巡らせながら、時折ステップを踏むように不規則な足取りで走る少女。
地下街は長年の雨風その他の浸食によって老朽化が進んでおり、外壁や柱の崩壊具合からそれが見て取れる。
酷い所では大雨による浸水で通れなくなっていたり床が抜けることも珍しくはない。
だがそんな場所を少女は迷いなく走り抜ける。
ここは何度も足しげく通い探索を進めてきた。
ゆえにどの場所をどう歩けば無事に通れるかは熟知していた。
彼女にとって誤算があったとすれば、地下街の最深部にあれがいたことくらいだろう。
車がすれ違えそうな広さの場所まで出てくると曲がり角を右へ飛び込む。
そこは崩落した天井から光が差し込む場所で、目の前には地上から瓦礫と共に落下してきたトラックが鎮座していた。
その上部に飛び乗ると、スリングで背中に背負っていた物体――ゴツゴツとした無骨な
このままじゃジリ貧だ。
ここで仕留める。
心の中で呟きながらトラックの上に伏せ、スコープの両端にあるワンタッチ式のカバーを外し、息を殺してあれが現れるのを待つ。
しばらくは何も起こることはなく静寂だけが場を支配する。
だが僅かな物音が聴こえて気を引き締めた直後、曲がり角から何かが飛び出し少女は引き金を引いた。
しかしスコープのレティクル越しに見えたのは瓦礫の破片で、狙撃によってそれは粉々に砕け散る。
「なッ、ヤバッ……!」
少女がしまったと思った直後、真上に影が差し、地面が爆発した。
「くッ……!」
そして晴れない土煙を無言で睨んだ。
少しずつ土煙が晴れてくる。
さっきまでそこにあったトラックは真っ二つになっており、その中心でゆらりと人影が動めく。
そこにいたのは人形のように恐ろしく整った短髪の男だった。
その左手には生身の人間には到底に持てそうにもないガトリングガンが装備されている。
アンドロイド――十年以上敵対し、人類を滅ぼさんとする人工物。
この地球上で人類の天敵といえる唯一の存在。
そんな人間の形をした最悪の厄災は人間離れした身体能力で煙を突っ切って急接近してくる。
目で捉えきれないその動きに苦虫を噛み潰したように顔を歪め、当てずっぽうで引き金を引く。
音速で飛翔した弾丸は偶然にもアンドロイドを捉え、胸部部分にある動力源――
それを確認することなく少女は背を向けて脱兎の如く、別の道へと逃げ込んだ。
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