第28話 まずはお手並み拝見
試験から一週間が経ち、依頼で王都に来ていなかったサラも合流し、三人は合格発表の紙が貼られるというので見に行った。
「うん、そりゃ人はいっぱいいるよね」
学園の掲示板のところにどデカく貼られた紙に人が群がっている。カズキは列に入り込もうとするのだが、まるでバーゲンセールの主婦の集まりかのように弾かれる。
「カズキが弾かれるなんて凄いわね」
「いやそこ突っ込むところじゃないだろ……」
もちろん合格発表の書類を送ってもらうこともできたのだが、どうせなら見に行きたいと思って来てみると、同じ考えの人が多くて全く数字が見えない状況である。
「ちょっと乗るで」
カエデが軽く跳んてカズキの肩に乗る。
「……あかん、そもそも数字が見えへんわ」
空を飛んて見に行くのも、数字からカエデに注目がいってしまうので断念する。
「ここは俺に任せろ」
「どうするん?」
「『
カズキは『
「えっと……1920と1921……」
合格者の欄の数字を隅から隅まで見ていく。だが、カズキとカエデの数字が見当たらない。
「……無いんだけど」
「えー、そんなことないやろ」
少し不安になり、焦りつつ今度は紙全体を見ていくと、合格者とは別のところに特別特待生資格という欄に三つの番号があった。
「あ……あったぞ。なんか特別特待生資格ってやつ」
「なんか資料にそんな感じの事書かれてなかった?」
合格発表を見るだけと思って資料を持ってくるのを忘れていた二人。そこで疑問の答えをくれたのはサラだった。
「学費とか全部タダになるやつよ。二人なら当然よね」
「おお、ここの学費馬鹿ほど高いからありがたいな」
「でも試験だけで決まるわけじゃないわよ? 教師との試合で実力を認められないと」
「あっ、そうなんだ」
受験者が不合格でガックリとしている人もいる中で、カズキとカエデは特に気にすることなくあっけらかんとしている。
「カズキくーん! カエデさーん!」
聞き覚えのある声が聞こえたカズキとカエデは、声のした方を見る。
「やっぱりいた。別に入学前なんだけど、今来てるなら好都合だね」
「その言い方だと今日試験をする感じですか?」
「そうだね。クレアさんも来てるから、三人でやっちゃおうか」
(へぇ、やっぱりクレアさんも特待生なんだ)
本来は入学一週間前に特待生の試験は行われるのだが、アイクが合格発表されている場所にいくとクレアを見つけ、ガリエルから試験は早い方がいいとも言われていた為、どうせならということでカズキとカエデを探していたのだ。
「クロエさんはもう闘技場に来てるから行こうか」
アイクの案内で闘技場に連れて行かれる三人。その時にサラとアイクは挨拶と済ませた。
「いや〜、サラの言ってた通り凄い二人だね」
「そうでしょ。カズキは自慢の彼氏ね」
「へえ、二人は付き合ってるんだ。カエデさんとも付き合ってるようだし、若いのにやるなぁ」
褒められているのかからかわれているのか分からない言い方に、カズキは反応に困って無言になる。
「サラはおっちょこちょいなところがあるからね。カズキ君、サラのことはしっかり見てやってくれ」
「それは任せてください」
「もう、おっちょこちょいなんて失礼よ」
サラはこう言っているが、料理をする時に塩と砂糖を間違えたりすることがあるので、あながち間違いでもない。カズキが間違えないように入れ物に名前を書くぐらいだ。
「あ……」
闘技場の中にカズキ達が入ると、髪をポニーテールにしたクロエが剣の素振りをしながら待っていた。クロエも教師との試合ということで、気合が入っているのだ。
「えっと……クロエ様って呼べばいいですかね?」
「いや、かしこまらなくても大丈夫だ。この学園は階級差別はないわけだし、敬語もいらないし、普通に呼んでくれていい」
そう言われてカズキは肩の荷が下り、体に入っていた力を抜く。
「そうか、それはありがたいわ。礼儀作法とかあんまり分からないもんだから」
「ふふっ、君達の試験を見ていたよ。私じゃとても敵いそうにないな」
楽しそうに言うクロエだが、カズキは単純に力の差が分かっていることに感心した。
(やっぱり受験生の中でも頭一つ抜けているな。鍛えればもっと伸びそうだ)
「じゃあ試験を始めようか。まずはクロエさんからやろう。二人の相手はその後で」
まずはクロエからということで、カズキとカエデとサラは闘技場のフィールドの入り口付近に移動した。
「さて……二人のお手並み拝見としようか」
アイクとクロエは共に長剣を構えて対面している。ピリピリと張り詰めた空気の中、二人は同時に動き出し、フィールドの中心で剣と剣がぶつかる甲高い音が響き渡った。
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