第21話 双子なのかもしれない

 カズキとカエデは王都に入り、良さげな宿を探す為に街をぶらぶらと歩いていた。


「やっぱり王都は広いな……しかも外壁何処まで続いてるんだ。こんなん作るの大変だろ」


 建物にしても道路にしても、フロストの街よりも住みやすいように整備されていて綺麗である。


「まあ土属性の人らが何人も集まって作ってるから、そこまで重労働ではないわ」


「あ、そっか」


 自分が無属性以外の魔法が使えないからか、カズキは自分目線で物事を考えてしまっていた。確かに土属性の魔法なら壁を作る事など容易だ。


「建物もフロストより綺麗だな。学園卒業したら王都に住みたい」


「それはまた今度サラと相談すればええやん。それよりお腹空いてきたからなんか食べへん?」


「そうだな。じゃああの店にしよう」


 周りを適当に見回して見つけた店を指差し、それに賛成したカエデはカズキと一緒に店に入る。

 どうやらこの店は牛肉専門店のようで、周りの客はみんなステーキを食べていた。


「えっと……牛ステーキでいいかな。あとオレンズジュースを」


「ウチもおんなじのんで」


「かしこまりました」


 店員にメニューを言い、雑談をしながら待っていると、カズキは記憶の奥底にポツリといる人物の姿を目にする。


「げっ!?」


「どないしたん?」


「俺の父親だった人だ。あと隣りにいる奴は……俺の昔にそっくりだ。マジか、改めて見ても不細工な顔してるわ」


 いきなり怒鳴り散らされ、家を追い出された記憶が浮かび上がってくる。カズキの昔にそっくりな男は、父親に似て憎たらしい顔をしている。

 

 フロストは息子を連れて偉そうな態度で椅子にドカッと座り、店の中で誰よりも大きな声を出して店員を呼ぶ。明らかに出さなくていい声量で、周りの客は嫌な顔をしていた。


「なんやのあいつ、嫌な態度やわ」


「しかし似ているな……もしかして……双子? 俺はあんな奴の双子なのか?」


 カズキは自分が双子かもしれない可能性を感じて気分が落ち込んでいく。


「どうだカイル、明日はやれそうか」


「はい、必ず特待生になってみせます」


 カイルは自信有りげに言った。どうやらカイルも明日の試験を受けるようで、その会話を聞いたカズキ達は、


「……特待って枠いくつだったっけ」


「三人やけど……」


「……あいつは無理だろ。仮に俺らが特待枠とったとして、あと一人は他の人がとる筈だ。あの態度もそうだし、実力も魔力量を見た感じ微妙だしな」


 一応カズキは自分の実力にはそれなりの自信をもっている。それ程までに自分を追い込んできたからだ。

 

 カズキは普段からできるだけ『探知ディテクション』を使うようにして、どんな場面でも魔法を切らさないように訓練をしている。

 当然魔力はガンガン減っていくのだが、それは『魔素吸収マナドレイン』の多重詠唱を可能にした事である程度の魔力の減りは抑える事ができている。そして探知魔法は今の持続させているのだが、カズキが感じている魔力の感じでそれほど実力がないと悟ったのだ。


「なんであんな余裕そうなのか不思議だ」


「いやカズキが強くなりすぎなんよ」


 カエデはため息をついて呆れながら言う。カズキは色々考えつつ、肘をついて水を飲みながら、


「んっ……ふぅ……。いや、だって怖いじゃん。俺からしたらこの世界って未知の世界だし、何があるか分からない。今はカエデとサラを守らないとだめだし」


「……」


 不意打ちを食らったカエデは珍しく顔を赤らめる。


(……なんか嫌な予感するなあ。学園で絡まれないといいけど)


 ああいう見た目と性格のやつに限ってやたら人に絡もうとする事を、カズキは地球の経験から知っていた。

 少し不安を覚えるが、カズキは頼んだ牛ステーキを食べてその不安を打ち消した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る