第3話 招集

アリューンと美女(スライム)は洞窟を歩き数十分。


「さて、そろそろやな」


「…ねぇ、私多分だけど死んだことになってるんだと思うんだけど大丈夫かしら?」


「あー、多分なんとかなるやろ」


「そんな投げやりな…」


「なんなら私の『中』に入るか?」


「へ?中?どうやって?」


「文字通りゴボッと」


「…寒気がした」


「まだ夏やで?」


「精神的に」


「わかっとるわ、ただのボケや」


(なんというか、この魔物の感性がわからない)

「…てか長くない?」


2人は話しながらも歩いてはいるが、もう1時間が経過している。


「そらぁ、王国から洞窟まで普通は馬で来るような道のりやからな」


「それを今歩いてると?」


「そゆこと、だからあと1〜2時間は歩くで」


「…着いた頃には足がとんでもないことになってそうね」


「ええやん、温室育ちには丁度ええ運動ちゃう?」


「丁度良いどころか過度よ」


「ま、しんどかったらいつでも言いな、『中』に入れたるから」


「う、最終手段で」


そんな会話を続けながら歩いていると。








「よし、もうそろそろや」


「う~ん、出たくない」


「…あんだけいやいや言ってた奴が一度入るとこれかいな」


そうアリューンは道なかばで力尽き最終手段であるスライムの『中』にて休憩中だった。


「にしても、結構快適なのねぇ〜」


「…そろそろ出てくれへん?」


「わかった」


ズロロロロと音をたてながらアリューンがスライムの体から出てきた、しかし身体は濡れていなかった。


「さて、この上や」


見上げると木で出来た板があった。


「よっこいしょ」


スライムは板を退かし上に上がった。


「ほれ」


「ありがと…ってここ酒場?」


そこは酒の匂いが充満しており居るだけで酔ってしまいそうなほど。


「ま、貯蔵庫やな」


「…ここに貴女の仲間が?」


「そ、この酒場のマスター」


スライムは扉を開ける。


「よ!元気か!」


「ん?…って姐さん!?」


その女性はスライムを見た途端驚く。


「姐さん?」


「その話はまた今度」


「ど、どどどどどして姐さんが!?」


「いやぁ、ちょっとこの国に用があってな」


「そうでしたか、それとそちらのお嬢様は?」


「お、こいつは…」


「はじめまして、私アリューンと言います」


「はじめまして、この酒場の看板娘で、名を『カスミ』と言います」


「なぁカスミ、マスターは居らんのか?」


「あ、マスターならこちらに」


カスミに連れられて2人は奥の部屋に。


「マスター!お客様ですよ」


「あ?物好きもいたもの…だ?」


マスターと思しき女性は扉を開けた途端何も言わなくなった。


「おーい、聞こえとるか?」


「…ハッ!?どういった御用でしょうか!?姐さん!」


カスミと同じ反応するマスター。


「この国に用があってな、招集頼めるか?」


「はい!恐らく3日あれば集まると思います!」


「よし、それまで私ら匿って欲しいんやが?」


「はい!使ってない部屋が1部屋ありますので」


「おおきに、さてアリューン行くで」


「え、えぇ」






アリューンたちはマスターに部屋を借りた。


「にしても姐さんって」


「まぁ、昔はヤンチャしとったからなぁ」


「いや、昔って今でも姐さんって呼ばれてるじゃない」


「そらまだ足洗ってないからな、スライムやから!!」


「…ってことは私、犯罪者と共に国盗りを?」


「…ボケには無視かいな、まぁ何者でもええやないか」


「そういえば貴女の名前聞いてなかったわね」


「…名乗らなあかん?」


「これから人が増えるんでしょ?それにスライムって種族名じゃない」


「…わかった、私の名前は

『スズラン』って言うんや」


「いい名前じゃない」


「ありがと、あっそれとマスターの名前は『サザンカ』って名前や」


「マスターって意外と厳つい名前ね」


「そう言ってやんなや、結構気にしとんねんから」


「そうだったのね、そういえば仲間ってスライム?」


「そやで、ちなみにサザンカとカスミもスライムだったりする」


「へぇー、うまく化けてるのね」


「さて、これから3日間はここで過ごすことになりそうやけど、外見に行くか?」


「そうね行きたいわ」


アリューンは皇女として育てられた身、外の世界どころか城の外へもろくに出たことがなかった。


それゆえかアリューンは齢17歳にして子供のような好奇心が湧いていた。


「1つだけ約束がある」


「何?」


「絶対何があっても、たとえ気になるものがあっても私の側から離れないこと」


「?わかったわ」


「よし、それじゃ行くか」


「うん!」


「…ホンマにガキンチョみたいなテンションやな」




下町にて。


「わぁ〜!すごい」


「…」


「ねぇ、コレなに?」


アリューンは道で売られている物に興味を示しスズランに問いかけた。


「コレは…剣やな」


「へぇ、変な形」


「お、嬢ちゃんその剣気になるかい?」


見かねた店主がアリューンに話しかけてきた。


「はい!」


「これは銃剣って言ってな、銃の先端に付けて使うのさ」


「敵を刺すんですか?」


「そ、近づかれた時に使う」


「へぇ、でも銃は売ってないですよね?」


「ん?あぁ俺は戦場から武器を拾ってくる仕事をしていてな、拾ってきたはいいものの使えない武器を売ったりしてる」


「…でもこれ使えそうですよ?」


「あのな嬢ちゃん兵士ってのは完璧な武具じゃないと使わないんだ、少しでも欠陥すると捨てちまう、贅沢な野郎共だ」


「なら店主よ、その『使えない』武具は誰に向けて売ってんねや?」


スズランは店主に問いかけた、その問はアリューンが思っていたことでもあった。


魔物や敵国の兵士たちと戦う兵士が使わないなら誰に向けて売っているのかと。


「冒険者さ」


「ほう」


「冒険者?」


店主が売っている客は冒険者だと言う。


冒険者とは魔物の討伐や、採取採掘栽培など様々な分野で仕事をしているいわゆる『なんでも屋』に近い職業だ。


「まぁなんでも屋みたいなもんや」


「へぇ~、ねぇスズ…むぐ!?」


スズランと呼ぼうとした次の瞬間スズランはアリューンの口を手で塞いだ。


「すまんなぁ〜店主、繁盛するとええな〜」


「おっ、おう」


スズランはアリューンを連れてすたすたと店を後にした。

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