こうして俺達の部活は本格的に始まった

 窓から強い日差しが降り注いでおり、廊下の床には陰と光のコントラストが作られている。

 俺は今、盛岡と水野さんと一緒に廊下を歩いている。今しがた部活が終わったのだ。

 今日は凄い疲れた。夏休みから本格的に演劇の練習をするということで後藤が始めから指導するようになったのだ。

 後藤はゴツい見た目をしているが英語教師である。入学した当初はギャップに驚いたものだ。

 そして、高校時代は演劇で全国大会にも出ていたらしい。なんかもう、色々と意外すぎる……。

 そんな後藤だが、かなりスパルタだ。基礎練は運動部並みのことをやらされて、発声練習も、口うるさく小言を言ってくる。

 なんか、本当に力入れて部活してるなあ、と他人事のように思えてしまう。

 そもそも俺は演劇なんて興味ないからな……。


「私達も出演するんですね……。初めてだから本番までまだまだなのに今も緊張しちゃってます」


 窓側にいる水野さんがそう言って、頑張らないと! と拳を作り、自分に喝を入れる。

 俺はそんな水野さんが、なんだか眩しくて目を逸らした。俺みたいになんとなくで生きてる人間からしたら頑張って生きてる人は眩しく見えてしまうのだ。

 そんな俺の心境を悟られないように俺は話題を持ち出す。


「演劇って何するんだろうな。オリジナルか?」

「ロミオとジュリエットだと思いますよ。先輩達が好きで、神校祭でしたいな、と言ってましたから」

「ふーん」


 ロミジュリね。流石に俺でも知ってるぞ。

 ただあれって演出難しくないんかな。ジュリエットのバルコニーのシーン、どうするんだろ?


「何だそれ?」


 教室側にいる盛岡が話に入ってきた。陰が盛岡のすかした顔を覆って暗くしている。


「知らねえの? あ~ロミオ、あなたはどうしてロミオなの。って言うやつ」

「知らんな」

「えぇ……」


 流石にロミジュリは常識でしょ……。言うて俺もあのシーンしか知らんが。


「あーでもロミオとジュリエットじゃないかも知れないので。まあどっちにしても私達も出るんですからちゃんと練習しないとですね」

「あぁ……そうだな」


 頑張ってる人もいるのだ。その想いを無駄にしないためにも、俺もちゃんとやろう。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 校門の前に眼鏡をかけた痩せ型の、見覚えのある男がいた。


「白井、お前なんで学校におるん?」

「部活辞めた。夏休みに午前中、学校で勉強することになった」


 お、おぅ。気力が全く無いのが目に見えて分かる。というか部活辞めたんか……。


「助けて! ミユえもん!」

「こう考えるのです。嫌な部活を辞めたら勝手に学力が上がった!これで留年も心配なしだ!と」

「そんなことより秘密道具出してよ!」

「は? 何お前?」

「おぅ……急に辛辣ぅ」


 白井が腹を抱えて狼狽えている。お腹壊したんかな?


「トイレは我慢するもんじゃないぞ」

「え、急に何?」


 おっと、違ったか。これは失敬。

 そんな馬鹿なことを頭の中で言いながら俺は学校から出た。

 相変わらず馬鹿みたいに暑い日照りの中、俺は白井と帰路に就く。

 家に帰るまでが遠足というがこれは些か地獄過ぎないだろうか。

 下校が憂鬱とかどうかしてるよ……。

 助けて!ドラ○もん!

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