第2話 魔王は勇者が大好き

 夕映えの雲の下、私は項垂れてトボトボと、魔王城に向かって歩いていた。


 瞬間移動をすれば一瞬で帰れるけども、私は魔法を絶対に使いたくなかった。


 だって、私はついさっきユーナにフラれたばかりだったし、彼女の天使のように可愛い顔を見たあとすぐに魔王軍の兵たちの顔見るのが、心の底から嫌だったから。


 可愛くて綺麗な花を見た後に淀んだドブを見たいと思うか? 天国から地獄へ真っ逆さまなんだけど。


 しかも、魔王軍の兵士たちの中にはゴリラみたいにイカツイのもいるし。


 ちなみに、ゴリラ顔した四天王から昔、


「ウホッ、魔王様いい男!」


 と、頬を赤く染めて言われた時には、いくら私が魔王でも青ざめたものだ。


 なんで魔王軍って、変なのしかいないんだろう。


「はぁ~……魔王城に帰りたくない」


 私はてっきり、ユーナが愛の告白を受け入れてくれると思っていた。


 けど、違った。


 ユーナは私を倒すため、レベル上げをするのに忙しいんだって。


 はぁ。


 魔王勇者ユーナが付き合えば世界的にもビッグニュースだし、穏やかな平和が訪れると思う。何より、彼女も私に好意があると思っていたんだけどな……。


「どうしたら、私はユーナに振り向いてもらえるのだろうか……」


 魔導水晶板を取り出して、私は歩きながら『勇者 好きな男 タイプ』と、スペースを空けて魔法文字を打ち込む。


 すると、画面に検索結果がいくつも出てくる。


【暗黒魔法使いルーググ】の作った検索エンジンは神だ。欲しい情報が一瞬で手に入る優れものだ。


 とりあえず、トップページ最上部の検索スレッドを開く。


 すると、画面に現れたのはかつての勇者たちのデータがズラリと並んでいた。


「えっと……ユーナ、ユーナ・ステラレコードは、と」


 私は独り言を呟きながら画面をスクロールしてユーナの名前を探す。


 ところで、今まで魔王軍というのは基本的に人族に勝てない歴史を歩んできた。


 何百年も勇者と呼ばれる者たちに打ち倒されてきて、魔王軍もようやく学習したってわけだ。


 そんな、人間たちとの戦いの傾向や対策、学習記録に新情報などを素早く察知する魔道具、【魔導水晶板】を開発したのが、暗黒魔法使いルーググ。


 魔力を消費することのないこの魔導具は、通信通話はもちろん、娯楽に至るまで機能性は多岐に渡り、開発した偉大な彼のことをルーググ先生と呼ぶ魔族すらいるくらいだ。


 さて、私は【神託の勇者ユーナ・ステラレコード】の項目をタップすると、浮かび上がった彼女のデータに目を通し始める。




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