第15話/ダンジョン部門で金賞(おばけちゃん調べ)~こんなダンジョンは嫌だ部門~



 さてさて。まずは鬼ごっこエリアのルールを確認しよう。


1、鬼を捕まえて鍵を手に入れてね!

2、捕まえるためにはカードがいるよ! カードのお代は採掘ポイントで稼いでね!

3、手に入れた鍵は、専用の鍵穴があるよ! 同じコードの鍵穴に差し込んでね!



 これくらいはバルガスたちを使って、事前に知っていてもおかしくない。だけどここから先の情報は、未公開情報だ。


4、カードの呪文は声が大きいほど、演技が真に迫っているほど効果時間が伸びる。

5、カメラ(イビルヘッド)の映りが悪い場合、効果が発動しないことがある。

6、カジノエリアと鬼ごっこエリアを繋ぐ扉が開いている限り、鬼ごっこはループする。このループ状態のことを“チュートリアルモード”カジノエリアと鬼ごっこエリアを繋ぐ扉が閉まっている状態を“本番”とする。

7、チュートリアルモードと本番では若干ルールが異なっている。


 時間が経てば気づくと思うけど、それでも数日はかかると思う。特に6番目は1週2週で気づくのは困難になる“仕掛け”を施した。

 仕掛けというのは、鍵を300個開けたら、十字路の最端の空間に新たなリドルが出現するというものだ。

 このリドルは人数が多ければ、一人くらいミスしていてもおかしくない、というものを選んだ。

 例えば、ジェスチャー伝言ゲームとか、足し算引き算のテストとか。そういうの。この世界の識字率はあんまり高くないので、計算問題とかはイラストを使ってわかりやすく書いた。

 足し算なら、お皿にパンが5個、隣のお皿にパンが3個。矢印、大きなお皿に“?”を乗せる。引き算ならパンが5個、人間が3人。矢印、お皿に“?”みたいな感じ。

 これなら字が読めなくてもわかると思うし、例題も書いてあるので大丈夫。

 そういうリドルを解き終わると、鍵がリセットされてもう一回遊べるドン! もちろん、全問正解していようといまいと、鍵はリセットされる。これで侵入者は正解してリセットされたのか、それとも間違えてリセットされたかわからなくなる。

 まぁ、侵入者の皆様はそんな情報持っていないので、最初のうちはリセット=先に進んでいると考えて、端にある問題をすべてクリアすれば、次に進めるに違いないと、攻略を続けるだろう。

 なにかがおかしいと気づいても、誰かがミスをしたから失敗しただけかもしれない。そういう余地を残してあるので、先に進むために、全員成功するまで挑戦を続けるだろう。

 がんばれ! チュートリアルモードである限り、意味ないけどね!




 マズダたちが鬼ごっこエリアに侵入してから、そろそろ3日経つ。その間も攻略は進められていて、秘匿された情報も少しずつ読み解かれていた。

 もちろんチュートリアルモードであることは全然ばれてないけど、声の大きさと演技力がカードの効果時間に影響することは気づかれている。最近はカメラの映りが悪いと効果が発動しないことに気づき始め、カメラの位置を気にするようになってきた。

 いい傾向だ。おかげで、仕事がしやすくなる。


「おばけちゃん、いったい何を企んでるの? わりとピンチだと思うんだけど」

「ん? ぜんぜんそんなことないよ? むしろ、相手がマズダみたいな人でよかったって思うくらい」

「?」


 マルガが不思議そうに首をかしげる。まぁ、無理もない。この辺はマルガにも教えてないし。


「ねえ、いい加減教えて。何を企んでるの?」

「ヒミツ」

「マズダが多くの冒険者を引き連れて、鬼ごっこエリアの解明も進んでる。この状況をピンチでないって言える根拠が欲しいって言っているの」


 まぁ、マルガはうちの後援者だからね。うちの広報や商品の監修とか任せてるし。私のダンジョンがやられないか、心配なのだろう。


「ん~今は信じて、としか言いようがないかな」

「……信じるわよ」


 いくらマルガが相手でも、今は教えるわけにはいかない。もうちょっと準備が足りてないし。


「ホント、頼むわよ。実家に啖呵切って、大金借りたんだから」

「まぁ、商品の見本もできたし、一度街に戻ったら?」

「おばけちゃんが心配で、戻れないわよ。せめて大丈夫、ってわかるまでは!」


 ごめんね。今は言えないんだよ。


「それより、新しい商品の開発なんだけど」

「そんなに開発して大丈夫なの?」

「うん。冒険者の皆さんが働いてくれるからね。おかげさまで」

「ならよかった。“オルゴール”っていうのもよかったけど、今度は何を作るの?」

「お風呂場に設置した石鹸あるでしょ。あれに花の香りを付けてみようかなって」

「あの石鹸に? いいわね、それ、絶対売れるわ」

「試作が3つあるから、実際に使ってみてよ」

「ええ。ついでにお風呂でゆっくりしてくるわ」


 というわけで、マルガをお風呂に送る。

 マルガと別れた後、周囲を見渡すと、一匹のネズミがこそこそと立ち去るのが見えた。この辺ではよく見る茶色いネズミだけど、私はあれが冒険者の持ち込んだネズミだと知っている。

 首筋にコブのようなものがついていて、それを介してネズミを操作、五感の共有などができるらしい。現代風で言うなら、ネズミラジコンってとこかな。脳に電気を流して操作する感じ。

 あれを介して、ずっと私とマルガを監視していたのだ。

 私がうっかりダンジョンの仕掛けを喋らないか、見張っていたのだ。生憎、うちのダンジョンに潜む生物は、すべて位置を把握している。だからバルガスがマルガの服にネズミを潜ませたのも、こそこそ鬼ごっこエリアを調べていたのも知っている。

 そもそもマルガがダンジョンツアーのことを知ってうちに来たのだって、彼らの策略だ。

 でなきゃ、ダンジョンコアが手に入るかも! なんて普通言いふらさないよ。手に入ったならともかく、その前なら、競争相手が増えるリスクがあるし。それをわざわざマルガに伝わるように仕向けたのなら、私とマルガの仲を利用してやろうと考えたんだろうね。

 マルガを利用しようとさえしなければ、私ももう少し穏便に進める予定だったんだけどね?

 おかげで、遠慮なくとどめをさせる。


「さーて、忙しい忙しい」



 それからさらに1日が経過した。鬼ごっこエリアでは、ようやく5回目のリドル挑戦が始まっていた。まだまだチュートリアルモードのことはばれていないみたい。

 だけどマズダたち参加者のいら立ちは、少しずつ溜まっている。

 リドルは成功しても失敗しても、必ずリセットされるので、彼らの視点では現状うまくいっているのかいないのかがわからない。単にリドルに失敗して進めていないのか、それとも回数が足りていないのか。あるいはなにもかも間違っているのかもしれない。

 その不安感が、彼らの神経を逆なでる。

 マズダは食料が少なくなっていることから、このやり方で貫き通す方針でいるようだ。


 その一方、カジノエリアにて。


 待機組の皆様が、なんとかして鬼ごっこエリアに物資を持ち込めるようにと試行錯誤を繰り返している。長いロープを準備したり、梯子を作って立てかけたりと、何とか行き来できるようにしよう。

 まぁ、こちらとしては、どうぞ? としか言いようがない。そんなことしたって、時間の無駄だし。

 物資と人間がせわしなく行き来する中、暇そうにしている集団がいた。いうまでもなく、バルガス達……うちの従業員だ。

 彼らは私の支配下にあるので、作業に混ざれないのである。まぁ、私が妨害するように言ったら、従っちゃうからね。

 そんなわけでバルガス達は、やることがない。退屈そうに部屋の隅にたむろしていたので、ちょうどよいと、バルガスたちに声をかける。


「おーいバルガス」

「あんだよ」

「この部屋に設置したいものがあって。ちょっと手伝ってよ」

「へいへい」


 バルガスたちが、めんどくさそうに立ち上がる。どことなくそっけないのは、彼らがダンジョンを窮地に陥らせたという負い目があるからかな。

 まぁそれなりの時間、一緒にいたからね。そういう感傷もなくはないんだろうなぁ。

 別に大丈夫だけどね?


「それじゃ、この椅子とテーブルをいい感じに並べといて」

「適当だな。どういう目的だ?」

「ん? 休憩用のスペース作りだよ」

「……なにを企んでいる?」

「やだな。善意だよ? 一生懸命働いているみんなのために、私からのプレゼント」

「そういうたまじゃねえだろ、お前は」

「まあね。でも、約束通り、彼らに危害を加えるものじゃないよ」

「胡散臭い」


 まあね。



 それから数分後。

 4人掛けテーブルと椅子のセットが、砂時計型のオブジェ(通称;貯金箱)の横に配置される。ルーレットとかが置いてある範囲から少し離れして作ったので、休憩スペースみたいな感じになった。


「よしよし。いい感じだね」

「で? ここからどうするんだ?」


 バルガスが好奇心+情報収集で問いかけてくる。周りで作業していた冒険者の一部も、こっそりと耳を澄ませているようだ。

 うんうん、いいね!


「ちょっと待っててね」


 ダンジョンの機能を使って、映像を映し出すためのディスプレイを用意する。

 一つ目は休憩スペースからよく見える、少し高い位置に。もう一つはカジノエリアから見やすい位置に、それぞれ設置する。

 実際に設置してみると、なんだか待合室のテレビみたいだ。

 冒険者たちが何事かと警戒を強める中、私は今日までで一生懸命準備した、“秘策”を発動する。

 ディスプレイに光が点り、映し出されるマズダの顔。そして彼は決め顔で言った。


『前後おおおん!』


 腰をくねくねさせながら絶叫するその姿は、さながら変態。しかし彼はきわめて真面目である。


『前後、前後、前後おおおおん!』


 と卑猥な腰つきでターゲットに接近する姿は、現代日本でなくても通報ものだった。

 こっそりこちらを監視していた冒険者はもちろん、作業中の冒険者までもが呆然とその映像を見入っている。


 よしよし。成功だ。

 これぞ、マズダさんのちょっといいとこ切り抜き動画!

 ふふふ。ここ数日の間、監視カメラで収集した、冒険者たちの面白シーン、感動シーンを集めに集めて、いい感じにカット編集していたのだ。

 もちろん、ほかの冒険者の切り抜き動画もあるよ!


 さて、冒険者の皆様。

 うちを攻略するなら、もれなく活躍シーンを公表してあげるよ。

 何人の心が折れるかな?

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