驟雨

 家を出て、最初に目に入ったカフェに僕は足を運んだ。


 インテリアが映える可愛らしい店内に心をおどらせ、

 ああ、君も誘えばよかったな、と、若干後悔した。


 おすすめはなんですか? と店員に聞けば、

 いちごのケーキタルトとコーヒーのセットだという。

 僕はそれらを注文して、一番窓際のテーブル席に腰を掛けた。


 注文した品がテーブルに置かれる。

 どちらも美味しそうだと再び心が躍る。


 ケーキタルトの上に輝くいちごは淡い赤。

 まるで君の照れた顔のようだ。

 コーヒーはほろ苦く甘さが隠れていた。

 今の僕には必要な適度な甘さだった。


 ぽたり。

 窓を見ると、晴れているというのに雨粒が付いていた。

 おかしいな。

 今日は一日快晴だと天気予報では言っていたはずなのに。


 ……ああ、

 この淡い赤色が、君を思い出させるから。


 ……ああ、

 この苦みが、僕の心を締め付けるから。


 窓はこんなにも、濡れてぼやけてしまっているんだね?


 傘を買って帰ろう。

 雨に濡れてしまわないように。


 店内をあとにするまでに、

 この驟雨しゅううが止んでくれるとは、

 到底、思えないけれど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る