誕生日の教え

僕の仕事は君を無から創りだすことだ


手順はそのときどきだが まずは考える

まずは君が立つ舞台の構造について考える

箱の大きさは 客席は 設備は 花道は 

君の存在が引き立つ場所がどこにあるかを

そうして最善の条件がそろったときに


ようやく君を産み落とし動かすのだ


まずは人形のように無機質な目をした君に

役割と生きる目的を与えるところから始めよう

毎日さまざまな人間になるから大変だろうが

ひとつだけ 僕と君との 約束事がある

決して破ってはならない 硬く確かな掟だ


それは面白くあらねばならないと言うことだ


ただし僕の指示に必ずしも従う必要はない

君が面白いと思うことをしてくれればいい

そうしてその結果、君が面白くなかった時は

僕が即座に君を殺してやるから安心しなさい


だからといって


僕の命令にすべて従っているのもダメだ

僕が欲しいのは糸で操れる傀儡人形ではない

そんなくだらないものは要らないんだ


心を持ち その肢体を滑らかに動かし

ときには涙を流し ときには慟哭に呑まれ

獣のような咆哮をあげるような人間なんだ


僕の脳みそでは 足りない部分を

かたちにするのが 君の大切な役割だ


達成できたら相応の褒美をとらせよう

これまで得たことのない幸福と空虚な心に

満ち溢れるほど強い快楽を与えてあげよう


そう 僕は嘘は吐かない 約束だよ

だから 君はしっかりと励みなさい

それができなければ その場で殺す

そうさ 単純明快で当然のことだろう 


僕の命令に歯向かったばかりでなく

その結果が面白くもないだなんて!

もはや、虫けらほどの価値もない!


この世で一番無価値な存在に成り果て

穢らわしい鳩の食い残しのパン屑より

無価値な存在としてこの世に生きるなど

恥ずべき愚行だ そう 耐えられないだろう

羞恥を浴びて可哀想だ 即刻殺してやろう


わかるだろう わかるだろう 君は聡い子だ

なぜなら 僕の子なのだから 愛すべき子だ


さあ、その純白のベールを脱いでみせてくれ

恥ずかしがらず僕の前にその姿を表すといい

僕がつくった新しい君の誕生日が今日だ

このアトリエに たった今、君は生まれた

喝采と敬意を君に贈ろう 僕だけが祝うのだ



おめでとう 僕の美しい作品よ 


せいぜい 命日にならぬよう励め

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