episode29 希望の八人
大規模な移動用魔法陣に自衛隊の武器、戦車等が急ピッチで運ばれていく。
場を整えた岬は疲れを癒やすべく休息しており、他の者らも各自これからの戦いに備えていることだろう。
そんな中夜明け前の空模様を眺める女性が居た。
「ほれ水どうぞ」
「冷たっ!」
「どうだベタだけど憧れてたろこれ」
キンキンに冷えたペットボトルを明日香の頬に押し付け驚かす友樹のニヤけずらに殺意を覚えるも一先ずは怒りを抑え込み冷製さを取り繕う。
「一体いつの話よ」
「さぁ〜何時かは忘れたが遥か昔だったことはだけは覚えてる」
「あっそ、殴っていい?」
「そう聞かれて良いぞって答えると思うか」
「思わないわね。寧ろまだ殴ってないのに反撃と称して先に拳を振り下ろされそうで怖い怖い」
腕を組み身体を縮こませわざとらしく警戒する姿に勝手に加害者扱いされてしまった友樹は悲しくため息を吐く。
「そんな横暴するわけ無いだろ」
「ちぇここで乗ってこないなんて新田くんも大人になってつまんないわ」
不貞腐れた明日香は目に入ったペットボトルを強奪しがぶがぶと一気に飲み干す。
「それより呼び出しておいてこの仕打ちは酷いだろ」
「…………………、右腕の怪我大丈夫なの?」
「大丈夫だほれこの通り!」
「意地張らないで見せなさい」
いきなり本題をぶっこむ明日香に、どうせそんなことだろうと予期していたが、右腕をぶん回し誤魔化そうとするも観念した友樹は着ていた服を脱ぎ上半身裸になる。
見た目右腕は問題ないようだが、触診してみると常時魔気が流れ身体強化が施されている状態だ。
福岡の戦いでは
その事を吹聴こそしなかったが、自衛隊が参加せず、しかもそもそも長崎、沖縄を守る者らで
そして友樹は明日香を庇い大怪我を負った。
「やっぱり…」
「今日は大暴れしてやるから安心しろ」
「そんな答えを聞きたいんじゃないんだけどな……。ふん、心配して損した!」
「心配してって話なら、アレどう思う?」
友樹が指差す先に示すのは、自衛隊がせっせと準備する様。
明らかに話を逸らされた明日香だったが彼女もまた違和感を覚えていたのは同義だ。
霜山から聞いた話だと作戦開始は午後一時開始。なのに今にでも出撃するとばかりの勢いが感じられた。
「ちなみに他の地域の移動用魔法陣は、この六日間の間で密かに作ってたらしいぞ」
「あの女のことだからやはり私達にだけ別の時間を伝えたのが妥当な線かしら」
「大正〜解!よく気づいたわね」
「女狐めいつからそこに」
「ちょとぉ〜女狐なんて失礼よ新田くん。大人な男女がなにやら恥ずかしげもなく青春っぽいことをしてたから、茶々を入れようと今来たところよ」
「どうせ聞いていたんだろうがもう一度言う。作戦開始は何時だ?勿論、俺らに言った嘘の時間じゃないので頼むぜ」
「午前十一時」
「やっぱりな。なんでそんな嘘をついた?」
一致団結して臨むべき大戦。それを一番理解している筈の霜山自身がわざわざ嘘をつく理由がどうにも解せない。
「ひとえに貴方たちを温存させるためそれに尽きるわ。どうせ八人とも、自分たちが先頭に立ち引っ張るとでも勇んでるんでしょうが勘違いすんじゃないわよ。これは人類皆の戦いなの!」
「そんなこと分かってるだからこそ俺らが前に立ち戦う必要がある」
「いいや分かってない。この戦いの勝利はなんだと思う?」
「それは全悪魔の撲滅だろ」
「ハズレ。正解は
何故現代の世に悪魔が現れたのか?
答えは簡単だ。代々接続者たちの手で秘密裏に守られ封印されてきた冥界門が決壊したからである。
当初再封印を試みたが溢れんばかりの悪魔の大軍に押し負け、結果的を起点に広がった。
「つまり敵の戦力を削ぐため特攻にも近しい行動をするってことか。よく自衛隊がその作戦を支持したな」
「確かに接続者と自衛隊の仲は芳しくない。でもね、国民を守るその想いを胸に戦うそれは私たちと変わりない。間近で何度も手を取り合い戦ってきたからこそ、アンタたちを人類の希望と信じて戦えるのよ。つぅ〜わけで大人な二人が、他の六人の説得お任せするわね。ばいばーい」
言う事だけ伝えた霜山は、即座に踵を返し立ち去りぽつんと友樹と明日香の二人は取り残された。
「仕方ないわね新田くん。ここはお兄さんの出番よ頑張って!」
「はぁ〜どうして俺が」
このあと互いに押し付け合い問答があったらしいが、結局のところ新田の口から六人に説明し案の定文句が出たもののなんとか収まったのは余談であった。
※※※
決戦当日。
自衛隊が作戦を開始してから三時間が経過、
予想通り敵の猛攻は激しいものだったが、一点突破を計った全戦力による戦いはこちらに軍配が上がり善戦していると呼べる状況であった。
しかしそこに戦場を一変しかねない急報が飛ぶ。
「敵、
「大丈夫既に彼らが動き始めました」
作戦本部に立つ霜山に不安は皆無。
そして心の中で呟く。
「頼んだわよアンタたち」
※※※
業火獣の雄叫びが木霊する。
どうする?
自衛隊、
「さぁ〜いっちょ派手にやろうぜ!てなわけで合わせて下さい友樹さん」
「任せろ」
ミサイルの上には八人の接続者が乗る。
全長十メートルを超える体格にミサイルが衝突する直前それぞれ空中に逃げた。
「
「接続、『魔鏡』!“神糸纏”」
真っ先に飛び出した蓮と友樹。
互いに接続し友樹の
阿吽の呼吸でタイミングを合わした二人の蹴りは前のめり気味の業火獣を後退させた。
『グッ……』
負けじと空中に舞う人間を燃やし尽くさんと当たれば戦車の装甲等一発で溶ける火炎弾を放つ。
「接続、『聖者の盾』」
全体が見える俯瞰した位置に飛んだ明日香は自身の接続兵器を召喚する。
小楯の中央に施された天使の意匠が光り輝く。
火炎弾が直撃する位置にいた蓮と友樹の前に黄金の巨大楯が瞬時に現れ防いだ。
「舞菜、私たちもやるわよ!岬っお願い」
「はいっす!」
「了解。行くよ〜」
転移門が無数に開き舞菜と友美が飛び込む。
舞菜が飛んだ先は業火獣の足元。
急な転移で警戒していた二人を見失い目の前にいる岬に標的を切り替え尖った爪で斬り裂こうと前進すべく足を前に出そうとする。
「接続、『鳳凰の篭手』。“
前に出した右足をガッツリ離さないように掴むと背中から焔を噴出。
その力を推進力とし走った。
結果勝手な動きを見せた右足は行き場を失い空蹴りした形となり、しかもバランスを失ったことで空を仰ぐように倒れていく。
倒れる先。背中側で見えなかったがその矛先には電力を溜める友美の姿があった。
「“無窮轟雷”」
立ち込める雷雲。
その規模は業火獣を凌ぐほどに。
轟雷以上の力は落雷の方向性を制御することが難しく、本来無差別に落ちる無窮轟雷だが終点を一箇所に固定すれば問題は解決する。
だが指向性を持たせるのは至難の技で正直十全な威力を誇ることは難しい。
まぁ、友美に云わせればそこに至る手段もあるのだが……。
今余計な力を使うわけには行かない。
ゆえに転移で死角に入り込みさえすれば終点の完成だ。
全ての落雷が業火獣の真下に居た友美目掛けて落ちた為、そのダメージは狙った獲物に下る。
地面に倒れ込む前に再び開いた転移門で移動する友美。
『小癪な人間どもめ』
「人間舐めんな」
ドスの効いた声で騒ぎ立てながら起き上がろうとすれば、毎度決着こそつかなかったが、過去幾度として死闘を制した因縁深き相手が待ち構えていた。
『大空ヤマトっ!神楽ひのみっ!』
「
「接続、『天の鞘・守』」
接続兵器『天の鞘・守』の力は、悪魔を封印するだけの力に非ず。その力は他者の強化をも実現させる。
ひのみの武器から発する光の輝きが、僕の身体を包み込み一気に『神水』に収束していく。
「“水龍”」
黄金の煌めきを纏った水のみで形どられた龍が業火獣を丸呑み干し、跡形もないほど何も残さず消え去った。
たった数分の攻防だったが、人類側の攻撃を更に勢いづかせる要因となったことは言うまでもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます