異世界転生と堕天使~パーティー追放された俺の前に現れた天使は無能でした

創紀

第1話 異世界転生って路地裏で事件が起きるよね

「おい、おまえもうパーティーから抜けろ。」


 いつものように今日のダンジョン攻略に向けて準備をしている最中のこと。ありえない言葉に耳を疑う。


「突然何言ってんだよ。」


「突然ではないだろ。お前がパーティーに入ってから災難続きなんだよ。」


「ごめんなさいね。でも疫病神を置いとくのもそろそろ限界よ。」



 こうして通算50回目のパーティー追放を達成した。





「くそっ! なんでこんな目に合うんだよ。俺は転生者だぞ!! もっと、こう、おれつえええとか、一目見て惚れましたスキです、みたいなのがあっていいはずだろ!」


「お困りのようね。 汝、われの救いを求めますか?」


 暗がりの路地にたたずむ銀髪の女性。降りしきる雪と相まってとても幻想的に見える。

 そうだよな。そろそろそういうイベントが起きてもおかしくない頃だと思ってたんだよ。


「いや、やれやれ、またなんかやっちゃいましたか、俺?」


モテる男は相手に告白されるのを待つ。これはキマッたな。


「げぇぇぇぇ……勘違い男きもいわね。」

(望むなら私があなたの目的に手を貸しましょう。)


「逆だぁぁ!! 本音と建前がぁぁ!!」


「あらいけない。少し間違えちゃったわ。」


くそ、またおかしなやつに絡まれてるのか。路地裏は変な奴に絡まれるから嫌なんだよ。


「私は天使です。あなたは幸福ですか?」


 前言撤回。変な奴じゃなくてやばい奴だ。


「ちょっと、なんで逃げるのよ!! 少しは話を聞きなさいってば!!」


「うるさい!! 天使を自称するやつなんてのはよくて宗教勧誘だろ!!」

 

 必死に路地裏から大通りに出ようとする。人が多いところならいくら頭がおかしくても露骨なことはできないだろう。


「泉拓斗。」


名前を呼ばれ反射的に足が止まる。


「年齢は20歳。17歳の時に異世界転生されるも特に能力も与えられず現在は数多くのパーティーを追放されながら日銭を稼いでいる。」


「おまえ……もしかして……」


「えぇ、そうよ。私が大天使ミカエル。天使の中でも第6席に位置するミカエルだとようやく……」


「俺のファンなのか?」


「なんでっ! そうなるのよ!! 今のは『俺しか知らない情報を知っているならこの人は神様かなにかに違いない。』みたいなところでしょ!」


「それはそうだけど、それはただの個人情報だろ!!やるなら『初めて飼ったペットの名前は』とかにしておけよ!!」


 出身地の雑談になった時に『異世界から来た。』とか言ったらモテるだろうとか、そんな考えは一切なかったはずだ。なぜならそんなことをしなくてもモテるつもりだったから。


「ぐぬぬ……それじゃあどうすれば分からせられるのよ……」


 分からせ……いい響きだな。


「別に、壺とか水とか売りつけないんだったら、話くらい聞いてやってもいいぜ。」


 変なやつだが見てくれは悪くない。転生から3年。ゼロから異世界生活が始まるってのはこういうことなんだな。



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「それで、私は大天使。あなたを助けに来たの。ここまでは分かった? って話聞いてる?」


 冒険者ギルドの隣の居酒屋。まだ昼間だがやることは一つ。


「すみませーん、焼酎追加でー」


「話聞いてないじゃない!!」


「聞いてるって、聞いてるって。うんうん、それは彼氏が悪いなぁ。あ、やっぱりハイボールも追加でお願いしまーす。」


「やっぱり何も聞いてないじゃない。」


 そう言いながらも自称天使は既に定食3人前を平らげているのは見逃さないぞ。


「分かった分かった。君は天使で、俺を助けてくれると。それでおk?」


「大体あってるわ。私はあなたの福音をためて、もう一つお仕事をしたら天界に帰れるの。だからあなたは私に協力なさい。あ、A定食追加で。」


 こいつ、ついに本性を現してきたな。俺のシックスセンスが告げている。こいつはやはり宗教勧誘員だ。ノルマ達成のためと明言しやがったな。


「それにしてもごちそうになって悪いわね。下界の食事もなかなか悪くないんじゃないの?」


「え、俺は今一文無しだぞ。」


 気まずい沈黙が流れる。


「ちょっと私、お手洗いに行きたいんだけど……」


 席から立ち上がる自称天使の腕をつかむ。


「俺もたった今尿意と便意が激烈に襲ってきた。先に行かせてもらうのは俺だ。ちなみにすでに半分漏らしている。」


 理由をつけて帰ってこな計画だろう。油断も隙もあったもんじゃない。これは経験者じゃなきゃ見抜けないね。


「もう漏らしてるならもう半分も漏らしなさいよ! 私が! 先に行くわ!」


 ちくしょう。こいつもなりふりかまってらんないってか。なかなかのやり手だな。これを切り抜けられたやつはこの3年間でいなかったのに。


「あの、すみません。他のお客様のご迷惑となりますので、お済みのようでしたらお会計をしてもらえますか?」


 柔和な表情のウェイトレス。しかし厨房には巨人族と見間違えるような大男が荒くれ冒険者を叩き潰したくてうずうずしているのを知っている。


「どうするのよ、これ。謝ったら許してもらえるの?」


 小声で聞かれる。答えはNOだ。それは既に先輩冒険者たちで実証済みだ。


「……おまえこそ、天使ならこの状況を助けてくれよ!! 俺は今人生で1、2を争うくらい困ってるぞ!」


「なるほど……確かにこれは私が天使であるのを示すいい機会かもしれないわね。」

自信満々の表情で右手を前に差し出し、左手を添える。


「大天使、ミカエルの名において命じる。この場に料金分の金貨を。」


 その瞬間、魔法陣が浮かび上がりその中央から金貨が3枚出てくる。


「どうよ、これで私のことを少しは見直したかしら?」


間違いない。何もないところから物質を生み出す魔法なんて聞いたことがない。ならこいつは頭がおかしいんじゃなくて……



無事に支払いを終えて居酒屋を出る。まっとうに店員に見送られながらこの店を出たのは久々だな。


「わぁ! もう3つもスタンプ押してある。」


「なんだ、その手帳みたいなのは?」


「あなたの福音よ。あなたが幸せを感じるとスタンプがたまっていくの。これを100貯めるのが私の仕事の一部なの。」


「でもなんで俺なんだ? 他のやつじゃダメだったのか?」


 その質問を聞いてミカエルは固まる。


「なぁ、おい……」


「べ、べつに? わたしがちょっとステータス配分間違っちゃって? みたいなの責任なんかじゃ決してないんだから!!」


こいつ、すぐ自白したな。コ〇ンでも金〇一でももっと犯人は粘るだろう。


「まぁいいさ。ミスは誰にだってある。そんなことで怒ったりしないさ。」


「タクト……あなたいい人ね……」


 こいつがいれば何もしなくても大金持ちは確定。これから始まる富豪ライフのための準備期間だったと考えれば安いものだ。


「それでさ、少し相談があるんだけど、安宿にこんな可憐な天使様を泊らせるわけには行かないと思うんだ。だから家を買う費用をさっきみたいに出してもらえるか?」


 またしてもミカエルが固まる。いや、固まってるだけじゃなくて少し震えてるのか?


「……つかっちゃった。」


「私下界で1回しか天使の権能使えないのに……もう使っちゃった。ねぇどうしよう?」


 前言撤回。こいつは絶対に許さない。






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