第54話 騒ぎ

彼女は久々出社したことが、オフィスではちょっとした騒ぎになった。


元々異例の出世で注目された彼女は、今回のロンドン転勤、そして噂の昇進でさらに話題の人になった。彼女はこういう熱い視線と過熱な関心には慣れないだけど、周りからの好奇心による質問を無視するわけにもいかないし、態度が前と変わったら必ず裏で批判されるし、できるだけ今まで通りにみんなと接していた。彼女の快挙にあまり面白くないと思う人もいるから、自分を守るために余計に気を遣っていた。


こういう大変な時、よりによって彼と破局危機の真っ最中って、タイミング的には最悪だった。


彼女は出社してすぐ、立て続けに会議があって、彼と会うことはできなかった。ようやく、水曜日に給湯室で偶然会ったが、彼の隣には新人後輩ちゃんがいて、話しかけることができなった。明らかに彼はまだ怒っていたから、挨拶どころか目すらも合わせなたくなかった。


彼は彼女を見かけたが、まだ彼女と話をする気はなかった。今度こそ、自分が本気で怒ったことを伝えなないと、彼女はまた自分好き勝手のことをする。


だけど、二人の関係にとどめを刺した出来事が発生してしまった。


金曜日の朝、オフィスにいる人たちは何だがソワソワしたみたいで、彼は不思議そうに周りを見ていた。そしたら、新人後輩ちゃんが彼のところにやって来た。


「先輩、おはようございます。」

「おはようございます。何かあったの?みんなはちょっと変だな。」

「まだ知らないみたいですね、今朝のビックニュース。」

「知らないね、会社に着いたばかりだから。」

「じゃ、私たちのSNSチャットグループをチェックしてください。」


そう言われた彼は、自分のSNSページを開いた。チャットグループの中にある動画がシェアされたみたいだ。その動画を再生すると、彼は驚いた。


中身は彼女と三無さんが結婚式でのパフォーマンスだった。


二人だけのパフォーマンスじゃないけど、隣にいた他の住民もいたが、なぜか撮影した人は二人だけにクローズアップした。新郎新婦への祝歌を歌っているのに、この二人はまるで自分の世界にいるように、ラブラブな雰囲気に包まれた。お互いの目を見つめながら、英語のラブソングを歌っていた。そして、歌い終わった時、三無さんが彼女の顔に近づき耳元に何かをささやいた瞬間もばっちり捉えました。彼女のあの恥ずかしいそうな表情から見れば、三無さんが言っていたことはただの友達が言うことじゃないって明白だ。


彼はその動画を見終わった時、新人後輩ちゃんがこう説明した。


「この動画は彼女がロンドンにいたころ撮影したものだそうよ。どうやら結婚式に参加した人が撮ったもので、しかもキャプションは "This is what being in love looks like." (これは恋をしている人たちの模様だ。)だって。この動画は4月ごろからアップして、いろんな人がシェアされた。最近ロンドンにあるスタッフがこれを偶然見つけて、後に会社内で拡散され、ようやくここにも届いた。

やっぱりあの二人は本当に愛し合っているみたいですね。だって彼女がこういう女らしい表情を見せるのは初めてでしょう?いつも、無表情だからさあ、でも人って恋をしているだからこそこんなに柔らかくなれたかもね。」


彼は沈黙したまま、何も言わなかった。


「相手の人が誰か気になりません?」


彼はこの答えを知りたかった。


「知ってるの?」

「まあ、噂によりますと、そのイケメンは韓国人らしいですよ。現地で何年もいたみたいで、コンサルタントの仕事をしている。一番重要のポイントは今だに独身だって。」

「どうしてそこまで知ってる?」

「まあ、その人の知人らが情報を提供したみたいだ。今まで浮いた話が一度もなかったから、その知人たちもこの動画を見て、不思議に思ったそうだよ。オリジナルの動画を見れば、そういうコメントがたくさんあった。」

「でもこの動画だけで、二人は恋愛関係があるという証明でもならないだろう?」

「その動画が出回って以来、二人が一緒に出掛けることを頻繁に見られたそうですよ。それに、もっと衝撃なのは、二人は同じマンションで住んでいたみたい。だから、距離があんなに早く詰めるじゃない?

まあ、これで彼女はロンドンに残る可能性が高くなるじゃないですか?昇進の話もあるし、その人と一緒にいたいなら、日本に残らないでしょうね。」


これを聞いた彼は物凄く怒った。極力その怒りを周りに気づかないように、彼は必死だった。


だからロンドンに残りたいだ。

だから結婚したくないだ。

だから別れ話まで出たんだ。


彼女は他の男と浮気したから。


これですべてが説明できた。彼女の心もう自分のところにはないから。


彼はすぐ彼女にメールをして、今夜どうしても会いたいって書いた。彼女は彼の心境を知らずに、約束通り待ち合わせ場所で彼を待っていた。

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