あえて「王道じゃない」戦型を選ぶメリット

 卓球における王道の戦型と言えば、おそらくは裏裏シェークの前陣速攻型(シェークの握りで両面に裏ソフトラバーを張り、あまり下がらずにプレーする戦型)でしょう。もちろん個々で得意なプレーは違うとは言え、戦型で分類すると、トップ選手なら張本智和選手や丹羽孝希選手、石川佳純選手、平野美宇選手、早田ひな選手などが前陣速攻型。馬龍選手や樊振東選手など、海外の選手も多くが前陣速攻型。中高の学生レベルであれば、チームに前陣速攻型しか居ない、なんてこともあるかもしれません。それくらい、今は裏裏シェークの前陣速攻型が主流だと思います。特に最近は県大会でもある程度勝ち上がる選手はチキータを使って台上プレーから攻撃することが多いでしょうし、両ハンドでドライブ出来るのが当たり前、という感じになっていますから、それに伴って回転を掛けやすい裏裏のセッティングに、というのが主流になってきたのでしょう。


 さて、このエッセイの紹介文にも書いていますが、私自身の戦型はカットマンです。しかも裏裏カットマン。少数派の中でも、さらにマイナーな戦型です(カットマンだとバック面は粒高か表ソフトを使う選手が多い)。まぁ、裏裏を使っているのは攻撃的にいきたいというのと、単に異質ラバーを上手く使えなかったというのが理由なので、ひとまずここでは置いておきます。


 それでは、本題の「あえて『王道じゃない』戦型を選ぶメリット」について。私はカットマンをおやっている上で「希少価値」と「ジャイアントキリングへのロマン」を感じますし、これが王道じゃない戦型を選ぶメリットだと思っています。

 まず、「希少価値」ですが、これは前回書いた「強くなるコツは、『強くなること』だと思う」という内容と被る部分で、珍しい戦型の選手は強い選手と打つ機会が増えたり、色々な方に注目して見て貰えるというのがあると思います。カットマンならば、相手がカット打ちしたいと思った時の練習相手に選ばれやすい(=台で打てる時間が長くなる)でしょう。また、これは単に私の思い込みかもしれませんが、単にそういう戦型というだけで物珍しさからか注目して貰える機会が増えるらしく、大会会場や講習会でアドバイスを貰えることが多い様な気がします。対戦相手にも覚えて貰いやすいので、自分より明らかに格上の選手にも声を掛けて貰えるし、その中で得るものも多かったなぁと思います。

 そして、「ジャイアントキリングへのロマン」。これも希少価値ゆえのものだと思いますが、あえて変則的なスタイルでプレーすることの最大の魅力はここにあるのではないでしょうか。カットマン目線で話をすると、県で上位に入る選手の中にも、下回転を打つのが苦手な選手というのが結構居て、競ったり、ぽろっと勝てたりすることがあったりするのです。チーム内にカットマンが居なければ中々カット打ちの練習なんて出来ないでしょうし、カットマンは絶対数が少ないから恐らく対戦する機会もあまり無くてそうなるのだと思いますが、16シードを取れないでいるカットマンがベスト8常連の選手相手に勝ってしまうこともある。もちろんどんな戦型でもジャイアントキリングを起こす可能性はあるでしょうが、特異な戦型の選手の方が大番狂わせを起こす可能性は高いかなと思います。誰の目から見ても圧倒的に差のある相手に勝つ、これ以上のロマンがあるでしょうか?


 とは言え、まあデメリットもある訳で。そりゃそうですよね、メリットばかりなら皆カットマンやペン粒になっているはずですから。

 こういう変則的な戦型に挑戦する一番のデメリットは、「それを教えられる指導者が少ない」ことだと思います。またしてもカットマン目線で例示させてもらうと、カットマンはフットワークも独特だし、練習方法とかもカットマン特有のものがあったりします。珍しい戦型というのはすなわち絶対数が少ない訳で、それ故に指導出来る人の数が少ないのはある意味自然なことでしょう。そして同じ理由で、間違いなくお手本に出来る選手も少なくなります。最近はYouTubeなどで映像を見れる機会は多いでしょうが、それでも間近で上手い選手のプレーを見ることでしか得られないものもあると思います。もちろんプレースタイルが異なる選手から得られるものもありますが、逆に同じプレースタイルだからこそ盗める技術だってあるはずだと思います。

 珍しい戦型の選手同士は何だか仲良くなりやすい気がしますので、もしかするとお手本に出来る選手が少ないのはデメリットだけではないのかもしれませんが、少なくとも指導出来る人の絶対数が少ないのはデメリットと言えるでしょう。私の場合は運良く中学・高校ともカットマンを教えられる先生に指導して頂けましたが、指導者と出会い・巡り合わせは正直なところ運だと思います。私立高ならともかく、地域によっては強豪校が公立のところもあるでしょうから(実際私が居た県ではそうだった)、誰がいつどこに赴任なさるのかなど分からないこともあるはずです。


ま、つまるところメリットもデメリットもあるので、自分がどんかプレーヤーになりたいかが一番の決め手なのだと思います。が、カットマンだからこそ味わえるロマン、魅力は大きなものだと感じます。卓球は色んなスタイルがある、というのも面白いスポーツ。あえて少数派のスタイルで戦うというのも、なかなか魅力的だと思いませんか?

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