第2話 討伐依頼【なるはやで】

「ご苦労だった…と言いたい所なのだが、早速次の任務を任せたい」


副ギルド長である、エルフ族であり、グレー色のロングの髪にスーツ姿が特徴のリリガーノは隈のついた目でじっとルカを見つめる。


「はい承知しましたリリー様。で、任務って言うのは…?」


休みのない裏ギルドの変わらぬブラック企業さに少しヤケクソ気味のルカ。


「リリー様と呼ぶのをやめろ。任務は魔獣討伐だ」


「…魔獣ですか……パキラは?彼は何をしているんですか」


パキラとは魔獣討伐に秀でた代行者のことである。力強い心身を持った金髪碧眼の青年だ。戦闘中にでも川柳を読み始める心の強さを持っている漢の中の漢でもある。


「今彼は第三王女からの依頼で赤竜討伐任務に向かっている」


「はぁ…それは…ご苦労様で…」


「だから、お前にはブラッディースライムの討伐任務を任せたい」


「……スライムって魔獣なんですか?」


「…そこはどうでもいい。とりあえず3日以内の討伐を頼む。必要な武器はそこの変態発明家にでも頼んでおけ。以上だ」


そうとだけ言い残すと、リリー様ことリリガーノは1枚の依頼書をルカに渡し、コツコツと奥の部屋へと戻って行った。3日とはまた酷な任務を任されたものだ。

そして武器を調達してくれるという変態発明家とは…後ろでずっと変声器付仮面を弄り倒しているこのアキハのことだろう。


彼女はアキハ・マツナガ。獣族であり、ネコ科ヒト目。頭にある猫耳と様々な色が跳ねた怪しい白衣、雑に纏めた深緑色のポニーテールと頭に着けたゴーグル、が特徴な属性豊富な彼女は、売れない発明家であり、この裏ギルドの自称ガジェット班だ。片腕をガジェット化するなど発明意欲の耐えない奇人である。


ルカがじっと見つめていると視線に気づいたのかアキハはニマニマしながら飛んできた。


「ボクのことを呼んだかい!?」


「まだ呼んでないです」


「ふむふむ。武器が必要なんだね、分かるとも」


この人はテレパシーか何か持っているのだろうか。先程のリリー様との会話もロクに聞いていなかった筈なのに全て理解している様子である。流石は自称天才と言ったところか。


「ルカクンに貸してる魔弾銃、アレに使える対スライム用魔弾をここに用意したよ」


なんと準備のいいことだ。未来でも見えるのだろうか。

魔弾銃とは、様々な効力をもった魔弾を発射できるアキハ制作の特注リボルバーのことだ。魔弾には、触れるだけで爆発する爆発弾、発砲音の小さい消音弾、1発打つと分裂する炸裂弾など様々な種類がある。


アキハがルカに渡した対スライム用魔弾は普通の弾丸と変わりない見た目をしていた。


「これが…対スライム用魔弾ですか」


「ふふ、普通の弾丸に見えるだろう?性能の違いはね……実戦で試してくれ!」


「勘弁してください」


「さぁ!行くんだルカ!愛らしいスライムがキミを待っているぞ!ボクは新兵器の制作でもするかな!頑張りたまえ〜」


アキハは銃と魔弾をルカに押し渡すと、ララランと鼻歌を歌いながら危険!と書かれた研究所へと入っていってしまった。


「…あの人…雑すぎる………」


立ち尽くすルカの手には対スライム用魔弾と依頼書。その依頼書の内容は…


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


討伐依頼 ブラッディースライム

危険度 s


討伐希望期限 依頼日から3日以内


報奨金 10万ゴールド

討伐失敗保証金1000ゴールド


任務地 クロユリの村


記入欄 私の故郷がブラッディースライムによって壊滅寸前なのです。どうか、どうかお救い下さい。


特筆事項 sランク冒険者パーティ全滅につき裏行希望 要注意されたし


依頼人 中央ギルド受付嬢 アリス・ブラックローズ


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



…一筋縄では行かない任務だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る