特別編:車掌ちゃんとネム 前編


9話 ネムの正体 


21. ネムと車掌ちゃん その1 守らないと


ネムはバクというユメを食らう生物。

だから、人間たちの夢でできた世界を喰らうことだってできる。


この世界に終焉をもたらす危険な存在だ。


とユメの管理者達は考えている。


恐らく私がネムをユメの世界に誘ったことを管理者達は快く思っていない。

襲撃を仕掛けてくるかもしれないな。


私が守らないと。

と車掌ちゃんは対策を考える。


ところが、


次の日、ネムと車掌ちゃんの前に1000もの大軍勢が表れたのだった。


「もう来たの!?」

私がネムを守らないと。



22. ネムと車掌ちゃん その2 瞬殺


まさか、ここまで動きが早いとは。

私はネムを守るため前に出る。


「バク駆逐作戦を開始する。我は作戦指揮官、リムニウムである。貴様がこのエリアの車掌か。共に排除されたくなくば、そこをどけ」

「お断りしますー。ネムは私の大事な駅員ですから。上に話はつけておきますので今日のところはお引き取りください。それと、私は貴様ではなく車掌ちゃんといいます」

「ふざけるな。そこの汚らわしい化け物が我らの素晴らしい世界にどれほど危険をもたらすか貴様には分からんのか。これ以上邪魔をするなら共犯者として排除する」

「……」

「それと、バク。貴様、感情だか知能を得たと聞いているぞ。このふざけた女に迷惑をかけたくなければ、ここで殺されるか、深淵の深淵の世界に戻るか選べ」


流石にカチンときた。よくもネムを侮辱したな。


だが、車掌ちゃんが一歩前にでようとした時、

「ブハッ」


リムニウムの頭が突然爆発したのだ。

振り返ると、ネムの腕から硝煙が出ている


「いやだよ。バ~~カ!」



23. ネムと車掌ちゃん その3 最強


「車掌ちゃんには手を出させないよ」

ネムは自身の腕を上げる。

その腕は黒い液体からいくつものミサイルに変化し、ズドンと発射された。


「うぎゃー」

「死ぬー」

「許して―」


兵隊たちは逃げまどい、まさに阿鼻叫喚のありさまだ。


「打て―」

兵士たちが銃を発砲する。だが、それは創造でできたもの。

感情を喰らうネムにはいい餌だ。


ネムの体に被弾した弾は全て彼女の栄養として吸収された。

「美味しくないけど、ごちそう様」


そして、とどめのミサイルが兵士たちを襲った。


これは…私が守る必要ないねー。軍隊さんの心配をした方がいいかも



24. ネムと車掌ちゃん その4 実はすごい人


「殺しちゃだめだよー」

「分かってるさ」

二人は兵士たちを殺さないように倒していった。だが、


「くそっ。化け物め」

倒れた兵士たちに隠れ、地面に這いつくばりながら、リムニウムが銃を構えていた。

その時、


「はい。だめー」

車掌ちゃんはひょいっと銃を取り上げる。


「な、貴様、何をする」

「うーん。これだけは使いたくなかったんだけど、しょうがないなぁ。はい」

そういって車掌ちゃんが取り出したのは一つのバッチだった。


だが、それはただのバッチではない。

9人しかいないとされるユメの世界の管理者だけが持つバッチだった。


「なっ、こ、これは、なぜ貴様がこれを」

「あれー。いいのかな。そんな口きいて。クビにするよ」

ニヤニヤした声で車掌ちゃんは言う。


「…くっ、た、大変失礼いたしました」

「分かればよろしい。それと、君の上官。多分管理者の誰かだと思うけど、話を通せないかな」


「…!?」


25. ネムと車掌ちゃん その5  ネムの意思その1


「ごめんね。ネム」

「なにが?」


「まだユメの世界に来て間もないのに早速トラブルを起こしちゃって。私の責任だ。もう少しうまくやれると思ってたんだけどねー」


少し車掌ちゃんが少ししょんぼりしているのが仮面越しでも分かった。


「ふふ。あの程度のことトラブルでもないんじゃないかなぁ。それより、あの嫌な奴のくやしそうな顔。なかなか傑作だったと思わない?ふふっ、なるほど。これが面白いって気持ちなわけだねぇ」


車掌ちゃんは管理者のバッチを見せたとたん手のひらを返したようにへこへこしていたリムニウムの顔を思い出した。


「あははっ。確かにそう言われればそうだねー」


お互い二人で笑いあった。


26. ネムと車掌ちゃん その6 ネムの意思 その2


「さて、冗談はこのくらいにしてさー。いい機会だから聞いておきたいんだよね」

「なに?」

「私が深淵の深淵の世界から誘った時。あの時ネムはまだ世界を、感情すら知らなくてさ。でも今は違う。もう何人かマヨイビトを導いて、成功も失敗も色んなことを体験したはずだ。だからさ、その上で聞きたいんだ。このまま私の駅員として私と来るか、ユメの世界の外で暮らすか」

「…なんで、そんなこと聞くの」

「今回は何ともなかったけど、こんどはそうとは限らない。管理者達はこの世界を守るためならなんだってする。そういう連中だからね」


「…嫌」



27. ネムと車掌ちゃん その6 ネムの意思 その3


「私はこのまま車掌ちゃんと行きたい。だってこれから楽しいことはたくさんあるんでしょ?」


「…ほんとにいいの?」


「当り前さ。誘ったのは車掌ちゃんだろ。だったら途中で降りるなんて許さないよ」


「…そりゃそうか。ごめんよ。愚問だったみたいだねー」

そうだね。誘ったのは私でネムはついてきてくれた。

だったら、最後までやらないと失礼ってもんだ。


覚悟は決まった。


「分かったよ。じゃあさ、お願いがあるんだけど、爆弾を作ってくれないかな」


「…なんで?」




28. 目立ちたがり屋


「今回も失敗したらしい」

8人のユメの管理者が円卓に集っていた。


ユメの管理者とはユメの世界の調整者。

車掌、兵隊長、その他の職業に指令を出す偉い人なのである。


「このままでは私たちの希望の世界が、何とかあれを倒す手段はないのか」

「くそっ、どこの車掌か知らんがなんということを」


会議は完全に暗礁に乗り上げていた。


“ドゴーン”

その時爆発音とともに、扉が壊れた。


何事かと全員がそちらを振り向く。


「どうもー。夢に届ける車掌ちゃん、参上!!」


はぁ、これ直すのもわたしかぁとネムは隣で隠れていたネムは思った。




29. 空気


「なにものだ!!」


あーあ。こんな登場するから一触即発の雰囲気だよ。

と、ネムは思う。


「初めまして、ではないですよね。皆さん」

だが、爆発のおかげで注目度は抜群だ。さて、車掌ちゃんはどうするのか。

「お前は、フィリアか?」

ざわざわと周りが騒めく。

「1年前、行方不明になったお前がどうして」

「今までどこにいたんだ」

「…それは、管理者をやめた時、捨てた名です。今後私の事は車掌ちゃんと呼んでねっ」


「「「……」」」


一触即発だった空気が一瞬で凍り付いた。


流石車掌ちゃん!



30. 交渉 その1


「…すまないが、今はフィリアと呼ばせてもらおう」

「まぁ、仕方ないですね。それより、今日伺ったのはお願いをするためです。ネムというあなたたちが災害認定しているバクへの手出しを止めてほしいんです」


「それはできん。奴はユメを食うことができる。それはすなわち人間の夢でできたこの世界を滅ぼせるという事。そんな危険な生物を野放しにできるわけがなかろう」

「その通りですわ。フィリアさん。この世界は人間を希望に導くための世界。なくなるなどあってはならないことです」

「その通りだ!馬鹿者」


「では、悲しみに泣いている少女を平和のために追放する事はあっていいことなんですか?」


満場一致の雰囲気の中、車掌ちゃんが反撃の一言を発したのだった。


「…!」



31. 交渉 その2


「それは…」

動揺や虚をつかれたような空気がながれた。


「私は世界という大きなものを管理するより人間一人一人に希望を与える仕事がしたいと思って車掌になりました。でも、私一人の力では限界を感じ始めていました。そんな時、ネムに出会ったのです」


すかさず車掌ちゃんが発言し、会話の主導権をにぎる


「なるほど。それで突然いなくなったのですわね。フィリアさん。心配したんですのよ」

縦ロールに金髪のお姉さんが言う。

車掌ちゃんとは親しそうだし、優しそうな物腰だがさっきの発言からこの人も

私の排除に賛成しているようだ。

少し、悲しいとネムは思った。


「その節はすいません。ですが、その件は後程。私がネムに出会ったのは深淵の深淵の世界でした。その時あの子は悲しみで泣いていました。だから、この世界が人々に希望を与えるための存在なら、ユメの住人にだって希望が与えられるべきです」


「ふんっ。そんなわけがないじゃろうが。獣が泣くなど」

口をはさんできたのはお爺さんだった。

少し車掌ちゃんがムッとしているのが感じられた。


車掌ちゃんははぁ、と周りに気づかれないほど小さくため息をつき言った。

「そうでしょうか。あなた方はネムを排除する対象としか見ていなかったのではありませんか?きちんとあの子と向き合わないで憶測だけで言っていませんか。分からないでしょうね。こんな所でただ指令を出してるだけじゃ、あの孤独な世界でどんな気持ちでネムが暮らしてきたのか。だから、私は管理者を辞めたんです」

「うっ」

お爺さんは言い淀んでいるようだ。

流石車掌ちゃん。


だが、周りからは、何だと!、何様のつもりだ!、我々がいなければこの世界はどうなるか分かっているのか、

といったような野次が飛び交っている


その時、パァン、と手を叩いた人物がいた。

「静粛に」


静かに、だが威厳のある声で中央の男が発した。

間違いない。この男できる。

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