第12話 物語の鑑賞会 その2
カペラはアルの提案を了承し、アルにしばらくついていく事にしました。
アルはペコペコしている癖に押しが強くカペラは彼の言うままに流されてしまうのです。
まだ昼だったのでアルはカペラに星を見る前に
街を一緒に見ましょうと誘いました。
僕は作った物語をナレーターのように語る。
シーンが変わる毎に新たな幻想を創造する。
次は賑わう中世の街並みのような都市の絵を表現した。
より奇麗に、栄えた都市を。幸せそうな人々を。
その工夫もあってか皆話にのめり込んでくれているのが分かった。
そして彼らが予想外の展開を聞く度、
驚いた顔をしてくれるのを見て僕は内心にやりと笑った。
そうだ。
僕は読んでくれる皆がそんな顔をしてくれるような絵本が作りたかったんだ。
改めてそう思った。
僕は話を続ける。
カペラはアルと都市を見て回りました。
星の意思が召喚された事は法律に違反するとかで秘密のようで、
幻覚魔法を使いカペラを普通の少女に見せることで難を逃れました。
カペラも協力する事で全ての人を完璧に欺きました。
都市の住人達は皆とても幸せそうでした。
惑星の意思として生態系を把握する事と身近で人にふれる事はなんというか…
空気がとても違って感じられて。
この空気を作っているのが自分だと思うと
カペラは星の意思として初めて少しの達成感を感じる事が出来たのでした。
そして、その後も彼等は夜まで様々な場所を巡り、
美しいもの、珍しいもの、神秘的なものを楽しみ共有したのでした。
皆いい人たちでした。途中で道を教えてくれたおじさんも。
とても美味しいスイーツをサービスでくれたレストランのシェフも。
私が感動した観光地をとても丁寧に説明してくれた観光協会の職員さんも。
そして、誰より私を連れ出してくれた、このアルという青年も。
アルと話しているととても安心します。
この世界を知らない私を優しく気遣うように話してくれて。
私を楽しませようと一生懸命に話してくれて。
私はこの町がとても気に入ったのでした。
********
ついに夜が来ました。赤みがかった夕焼け空もたちまち黒に染まり、
その中から一つ二つと星が見え始め、次第に満天の星空へと変わっていきました。
「綺麗ね」
思わずカペラはそう呟いきます。
「はい。同感です。カペラ様」
不思議です。とうに飽きた筈のものなのに何故か美しく、楽しさを感じます。
カペラは気分が高揚しているのを感じました。
そっか。一人じゃ無いってこんな感じなのか。
そう、カペラはこの一日を楽しんでいたのです。
ようやくそれに気づいたカペラは
ずっと気になっていたことをアルに尋ねました。
「なぜ、私を誘ってくれたの。神に逆らって、私を召喚してまで、どうして?」
しばらく沈黙が続きます。
「それは、この星が美しかったからです」
「それは…どういう事?」
「この星は自然がとても豊かです。
幻想的とさえ思える場所も多い。そして何より人々が幸せに、
笑顔に暮らしている。
この私も。
そんな世界を作り出して下さった方と是非お会いしてみたいと子供の頃からずっとおもっていました。もし孤独に悲しんでいらっしゃるのなら…
差し出がましかもしれませんが救ってあげたいと思っていたんです
だから、今日という日は私の悲願だったんです。貴方にお会いする事が。
それを達成できたのですから、私は国に、神に逆らったのだとしても後悔はありません」
衝撃でした。
だって、皆目を背けて私を救おうとする者など
今まで誰一人としていなかったから。
私の人生は誰の気に止められる事もなく終わるとばかり思っていたから。
それを、世界を敵に回してまで、私を助けてくれようとする
まるで、女の子が憧れる白馬の王子様のような方が表れてくれるなんて
「私が復讐のためにこの星を滅ぼすとは思わなかったの?」
私が聞くと、
アルは呆れた事に全くそんな事は考えなかったというような顔をしました。
「言ったでしょう。この星は美しいと。こんないい星を作った貴方がそんな事をするなんて私には思えなかった。それだけです」
そして、アルは笑いました。
「そう。なるほど。そうなのね」
カペラはそれだけ答えて再び大きく顔を上げて星を見ました。それは瞳から零れる涙を隠す為だったのかもしれません。
カペラはしばらく星を見てからこっそり涙を拭いアルに言いました。
「アル、貴方その下手な敬語をやめなさい。聞くに耐えないわ」
「えぇっ!も、申し訳ありません。ですがそれは」
「いいから。これは星の意思としての命令です。貴方はもう私の友達なのだから。だってそうでしょう。一緒に旅をして星を見て共に楽しんだ仲ですもの」
カペラは笑って言いました。
「そうで…だね。わかり…ったよ。カペラ」
アルもたどたどしく、しかし笑って返しました。2人はこの時友達になったのです。
程なくして別れの時がやって来ました。
アルが用意できるマナの器は一日しか持たなかったからです。
2人は別れを惜しみました。
しかし、今までとカペラの生活は大きく変わるのでしょう。
なぜなら、カペラは前と違い希望を持っていたから。
アルがいつかこの星の上層部を説得しカペラと共に暮らせる世界を
作ってくれると約束してくれたのです。
カペラはその日が来るのが楽しみで夜も眠れませんでした。
カペラは前世も含めて初めての恋をしたのです。
この物語は孤独な少女が希望を手に入れるまでのお話。
カペラとアルが今後どうなったのか。それはまた別のお話。
おしまいおしまい。
********
そこで僕は語りを止めた。最後にカペラとアル、
2人が手を取り合う幻想を作り、物語は終わったのだった。
話が終わりネムの分身達が拍手をして
「「おお〜」」
と歓声を上げてくれた。
車掌ちゃんやネムも同様に拍手を僕に送ってくれた。
「どうだったかな?」
僕は尋ねた。
「…どうしてこういう話にしたの?」
拍手の中ネムが訪ねる。
「それは、これが一番皆を楽しませられると思ったから」
僕はそう答えた。
「…そっか。うん面白かったよ。すごく」
ネムは僕の返答に優しい声で頷いた。
拍手の賛美の音は幻想の空に深く響いた。
そんな中でも列車は変わらぬスピードで進んで行く。
夜明けは近い。
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