第6話 お姉さん?の人生相談
「あなたのしたいことって一体何なのさ?」
ネムは初っ端から確信をついてきた。
「いきなり?いや、その…恥ずかしいな」
「大丈夫。言ってごらん。心配しなくてもここはユメの中。笑うような奴は聞いてないさ」
「…確かにそうだね」
しばらく沈黙が続く。
僕は自分の気持ちを少しずつ整理する。
そしてまだ誰にも告げた事のない気持ちをネムに告げた。
「僕は…絵本作家になりたい。と思ってるんだ」
「ふーん。いいんじゃない?」
「それだけ!?もっと何かないの?」
「ないさ。でも相談に乗るって言ったしその考えの経緯は聞かせてもらおうかな。というか私的にはそっちの方が興味があるなぁ。ワクワク。」
「別に、そんな面白いものじゃないよ。」
僕は自分の考えをまとめて言葉を続けた。
「昔から物語の世界が好きだった。物語を見ると自分の知らない面白い世界をたくさん見れたから、だから、その面白い世界を今度は自分が伝えられる存在になりたいって思ったんだ。でも、最近までそんなことは考えてなかった。僕なんかの作る話なんて売れるわけがないし、出来るわけがないって思ってたから。」
幼少期を思い出す。あの頃はそんな人生をチラッと考えてみても絵空事としてすぐに忘れた。
プロの物語を作ってる人達は自分にとっては
雲の上の人みたいなものでなれるわけがないと思ってたから。
「で、ようやくやってみたいって気持ちに気付いたときには自由にチャレンジ出来る状況じゃなくなってたってわけ。」
「どうして?」
「だって現実ではここと違って成功しないと生きていけないから。
その為にやらないといけない事が沢山あるからさ。成功する確率も低い…好きな事だけやって生きていける世界じゃないんだよ。」
少し力を込めて言ってしまった。ネムは驚いていないだろうか。
そうでもないようだ。
…そう、現実には色々ある。勉強、生活、仕事、
それから僕の将来を応援してくれる人々の期待。
そして、両親の期待だ。彼らはきっと僕に安定した職業について勉強、生活、仕事をまっとうにこなして、健全な人生のレールを歩んでもらいたいと思っているだろう。
そうに違いない。
僕もそれを間違っているとは思わないし、そう生きる事が親孝行なのだと思う。
だから、それらを切り捨てる事を僕は選べない。
その点、絵本作家というのは博打なようなものだ。
失敗すれば、どんな苦難が待っているか分からないいばらの道だ。
きっと両親が知れば反対するだろう。そんな不確かな道を選ぶなと。
悲しむ両親の顔は見たくない。
だけど物語を作る道も捨てたくない。
効率的にやる事で両立はできるかもしれない。
だけどそれではどちらも中途半端になって
今の幸福な生活を全て捨てる事になってしまう事になるかもしれない。
…そこまで考えて初めて僕は気付いた。
「僕は…何かを選択する時その未来の最悪を想像してしまうんだ。自分の行動は間違ってるんじゃないかって思っちゃって。それで結局変わらない事を選んでしまう。」
そう、やっと理解できた。
一寸先は闇かもしれない恐怖。それが僕が感じていた不安、辿り着きたい場所に辿り着けない理由だったのだ。
ところが、
「なるほどね。フーン…まぁ、私に言わせればなかなか贅沢な悩みだね」
僕の話を吟味するように聞き終え、
ネムは僕が思ってもみなかった言葉を継げたのだった。
「…ぜいたく?」
「だってそうじゃないか。やりたい事がわからなくて悩んでる人だって大勢いるのに、君はすでにそれを持っている。どこに行けばいいか分からない彼らと違ってもういつだって君はまっすぐ進める資格をもっているんだぜ」
「...」
確かにその通りかもしれないと思った。ただそれだけでは納得出来ない。
僕はネムに尋ねる。
「じゃあ、僕は抱え込んでるものなんて全部打ち捨ててただ夢にむかえばいいって、そういうの?」
それを聞くとネムは少し考え言った。
「うーん。そういうのとは違うと思うんだよね。なんというか…例え話をするとよく人間も動物の一種だっていうだろ?でも一つ人間と動物を差別化できる指標があるんだと思うんだ。持論だけどね。」
「どういうこと?」
ネムが何を言いたいのか分からず僕は聞いた。
「それはね、強い感情があることさ。例えば、そこにいる羊なんかは草食べて寝て充実した生活を送れてるんだろうね。だけど人はそれ以外の幸せもないと充実できない生き物なのさ。それぞれの価値観に合わせてね。」
そして、ネムは話を続けた。
「つまりね。本当に大事なのは他の何物ではなく君の心さ。意思ある者にとって大事な事は自分の人生に納得できるかどうか。自分のやりたいことを無視して数十年先、君は満足できてると思う?」
「それは…」
なんと答えていいか分からず僕はしばらく黙り込んでしまった。
しかし、やらなければ確かに僕は人生を後悔するだろうということは容易に想像できた。
「ちなみに私の経験から言うとやりたいことがあるなら好き放題やった方が絶対に楽しいと思うけどね。もしそれで失敗したとしてもやりきったのなら私は納得できる。」
ネムはそう言った後にもちろん最後にどうするか決めるのは君だけどねと付け加えた。
「でもやってみて失敗したらその後は破滅が待ってるかもしれない。」
自分の臆病さが本当に嫌になるが僕は払拭できないその不安を告げた。
「そうかなぁ。そうでもないかもよ?失敗したってもがけばなんとかなる。嫌になるまで何回だって這い上がれる。やり方次第でね。その過程も人の面白さってもんじゃない?」
「………」
その楽観的とも言えるセリフはとてもネムっぽいと思った。
車掌ちゃんもそうだった。
思えば僕が会ったユメの世界の住人達は今の瞬間を全力で楽しんでいるようにみえた。
今まで先の安全ばかりを考えていた僕にはできない考え方だ。
だけどそれは正しいのかもしれない。
確かに僕は成功しなければいけないと考え過ぎていた。
よく考えれば僕は名声とかお金の為に小説家になりたかったわけじゃないのに。
ただ物語が作りたかっただけなのだ。
であれば成功だけを考える必要などないのではないか。
「ふふっ、そっか、そうかもね」
僕は笑って答える。
「まぁ案ずるより産むがやすしって言うしやってみたら意外と大したことないかもよ」
ネムも笑ってそう言った。
その後も僕らは暫く星を見ていた。
雄大な景色は僕の不安をかき消すように少しずつ、少しずつ移り変わっていたように見えた。
☆☆☆★
そろそろ時間だ。帰ろう。そう言ってネムは立ち上がった。
「あっ、そうそう。さっきの君の創造。うまいって言っただろう?あれってさ、強い想像力が必要なわけ。だからさ」
少し考えてから彼女は言った。
「意外と才能あるのかもよ?」
にっこり笑ってネムはそう言った。
僕は何となく彼女のその言葉に救われた気がした。
***
帰り道ネムは突然思いついたように言った。
「そうだ。このユメの世界にいる間にさぁ。君、何か物語を作ったら?…いや作りなさい。」
「えぇ!?いきなり?そんな無茶な。」
「やりなさい。やってみるのが一番って言っただろう。そしたら何か見えてくるかもよ。
大丈夫、ここは現実と違ってやりたい事だけやってりゃいい世界だからさ。現実とは違って」
あれ?もしかしてさっきユメの世界が楽みたいな言い方した事少し怒ってる?
謝っておくか。
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