おい、これは聞いてないぞ

 僕はユウヤと一緒に戦線に赴くことになった。


 他の冒険者たちが代わりに見張りをする形だな。


「あれ? ユウヤさん、見張りはいいんですか?」


 そう聞く僕に、ユウヤは苦笑いして答える。


「あの冒険者たちはジャイアントオークとの戦いで負傷してる。見張りがてら、身体を休めてもらわないと」


 負傷。

 その言葉にやや不安を覚える。


「……あの冒険者さんたちも、ユウヤさんと同じくBランクなんですか?」


 その質問の意図を察したのだろう。

 ユウヤはまたも苦笑する。


「うん。そうだよ。戦線ではAランクの方々が戦ってる」


 ……なるほど。

 そういうことか。


 指定Aの魔物と戦うには、Bランク冒険者では少々荷が重いはず。

 だから戦場はAランク冒険者に任せて、Bランクのユウヤたちが見張りをしていたんだろう。それでもジャイアントオークに勝てないから、Bランクのユウヤたちが交代で戦闘と見張りをしているに違いない。


 見るに、無傷な冒険者はユウヤを除いていなかった。


 まさに彼の言う通り――猫の手も借りたい状況だということか。


「……一応、Aランクの先輩が三人いらっしゃるんだけどね。今回のジャイアントオークは格が違うらしい。私もあれほど大きい個体は見たことないよ」


「……そこまでですか」


「うん。とはいっても、戦闘開始からもう随分経ってるからね。さすがにもうそろそろ決着がつくと思うよ」


 そうなのだろうか。

 たしかにAランク冒険者が三人もいるのは心強いが……心なしか、僕は嫌な予感を拭えなかった。


 ――そしてその予感は、思いがけず的中してしまうことになる。


 ★


「な……んだ、あれは!?」


 ユウヤが青白い表情で立ちすくむ。身体をぶるぶる震わせ、目をぎょっと見開き、かすれた声を発した。


「そんな馬鹿な……! 先輩方でも敵わないというのか……!!」


 ――戦場は、地獄絵図だった。


 ジャイアントオーク。

 一ツ目の化け物で、見上げんばかりの巨躯きょくを誇っている。僕も正直、あの大きさを見ただけで恐怖を感じてしまった。

 右手には巨大な棍棒が握られており、あれで殴られたら最期、意識を保てる自信がない。


 そのジャイアントオークの周囲で、三人の冒険者が突っ伏していた。

 言うまでもない。

 Aランク冒険者たちだ。


 もうすぐ戦いが終わる?

 三人もAランク冒険者がいるから安心?


 とんでもない。

 これを――戦いと呼べるものか。


「くっ……! アリオス君、きみは帰りたまえ! このことをギルドに報告するんだ!」


 厳しい表情で剣を抜くユウヤ。

 自分は死ぬつもりらしい。

 その心意気は立派だが――身体が依然震えている。


「でもユウヤさん、あなたひとりでは……!」


「わかってる! でもそれ以外に方法がないだろう! わかってくれ!!」


 そう。

 たしかにそうだ。


 僕の《チートコード操作》もたしかに強力だが、まだ全容はわかっていない。ジャイアントオークに通じるかはいまもって不明。


 どうする。

 どうすべきなんだ―― 


「……助けて」


 ふいに声が聞こえた。

 女性のAランク冒険者だった。

 うつ伏せに倒れ、悲痛な声を発している。


「やだ……死にたくない……助けて……」


「グルゥ?」

 その声を聞きつけたのだろう。

「グルルラアアアアアアッッ!!」


 ジャイアントオークが瞳をぎらつかせ、女性冒険者に向けて棍棒を振り上げる。


 その途端。

 僕のなにかが弾けた。


 ――チートコード起動。

 攻撃力アップ(小)。



「うおおおおおおおおっ!!」


 疾駆しながら剣を抜く。


 マクバ流。

 ――神速ノ一閃。


 父から教え込まれた最速の剣を、ありったけの力を込めてジャイアントオークの棍棒に叩き込む。


 本来なら、圧倒的に弱いはずの僕が打ち負けるはず。


 けど。


「グルァ……?」


 僕よりはるか巨大なジャイアントオークは――大きく仰け反り、その場に尻餅をついた。


 


 

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