第121話
「これは、一体どうなってるんだ?」
しばらくの沈黙の後でデイブが声を出した。
二人が立っている3つ目の山の頂上近くからは最後の山とその周囲が見えているがこの3つ目の山の向こう側の山裾から最後の中央の山の山裾までの低地の部分が一面緑なのだ。
緑の木々が生い茂っているいる森林が眼下に広がっており、森林の中には大きな池がいくつか見えている。
「とりあえずこの景色はワッツらに見せよう」
そう言うとダンが取り出したオーブに魔力を通すデイブ。すぐに反応があって3人の顔が見えてきた。昼頃に頂上に着くだろうと3人で待っていたらしい。
「今3つ目の山の頂上付近にいるんだが、まずはこれを見てくれ」
デイブが持っているオーブをかざして3つ目の山と最後の山との間にある風景を映すとオーブの向こうが沈黙する。ダンはオーブを持ったままゆっくりと左右に動かし、
「見ているかい?」
「…見えている」
しばらくの沈黙の後ワッツの声が聞こえてきた。
「俺たちも目の前の景色を見て信じられないだよ」
「その中央の山の周囲は全て緑の木々が覆っているのか?」
「見える限りではそうだ。そして木々の間を歩いている魔獣が見えている」
デイブがオーブを持ちながらヴェルスのワッツと話をしている。ダンは周囲を警戒しながらやりとりを聞いていた。
「緑は多くて水もある、綺麗だけど魔獣がいる時点で桃源郷って感じじゃないわね」
レミーの声がオーブ越しに聞こえてきた。
「誰も行ったことがなかったからそう呼ばれたんだろう。少なくとも中央部の山の周囲は桃源郷には見えないな」
デイブが言った。
「それでこれから降りていくのか?」
ワッツが聞いてきた。デイブはダンと顔を見合わせるとダンが口を開いた。
「そのつもりだ山の麓まで降りてみる。その辺りでキャンプに良い場所があったらそこで夜を明かして明日あの森を突っ切って中央の山に向かう」
また連絡するよという声で通信を終えたデイブ。行こうかとデイブが言うとダンを前にして山を降りて行き始めた。登る時と同じ様に山の上層には魔獣は生息していなかったが5合目あたりからランクSSが複数体で固まっていて上から降りていく二人を見つけては遅い掛かってくる。もっともダンとデイブは身を隠そうともせずに普通に下山をしていたので石が転がる音や靴音で魔獣も気がつくのだが。
二人に襲いかかってくるランクSSを主に前を歩いているダンガが次々に倒しならデイブはキャンプに適した場所を探すべく視線を左右に動かしていた。
「ダン、その左側の岩場はどうだ?」
背後から声を聞いたダンが少し前を歩いて
「ダメだ、奥が無さすぎる。周囲から丸見えになる」
「わかった」
再び下山を続けた二人ようやくデイブが山裾から少し上がった場所にある小さな洞窟を見つけた。中に入って一息つく二人。洞窟の入り口から正面を見たやや下方に林が見えている。山裾から30メートル程の高さにある場所だ。
デイブがテントを貼っている間にダンがちょっと様子を見てくると一人で洞窟を出ていった。そうして30分程で戻ってくると、
「草原と林にいるのはランクSSとトリプルSクラスだった。どちらも複数体で徘徊している。俺の感じだとここらはSSとSSSが混在しているが中央の山に近づいていけばSSSクラスのみになりそうだな」
「ダンの見立て通りだろうな。できれば明日中ににあの最後の山裾まで行きたい所だ」
「ああ あの森の中の野営は流石にきついだろうしな」
そして交代で夕食を取る。ダンが警戒している時に先に夕食を取るデイブはオーブを出して今日の報告と今のキャンプ地から見える景色、そしてダンが斥候してきた情報をワッツに流していた。
「いよいよだな。お前たちには釈迦に説法かも知れんが森の中では上にも注意するんだぞ。上から襲ってくる魔獣もいる」
「わかった」
ワッツとのやりとりを聞いていたデイブ。ワッツが話終えるとミンの声がしてきた
「食料や水は足りてるの?」
「大丈夫だ、まだ十分ある。問題ないよ」
「ならいいけど」
心配そうなミンの声が聞こえてくる。そして続いてレミーの声がした。
「休める時はしっかりと休むのよ。明日からが本番だと思って」
レミーの言う通りだ。今の二人に取っては今までの強さの敵はダンジョンでも何度も倒してきた。でも明日からはトリプルSかそれ以上が相手だ。戦闘経験はあるがそれでもダンジョンにも滅多にいない強者が相手となる。
「ありがとう。今日はしっかり休んで明日からの本番に備えるよ」
ダンが言うとオーブの向こうで大きく頷くレミー。ワッツもそうしろという表情で同じ様に頷いていた。
通信を終えるとデイブが言った。
「レミーの言う通りだな。明日からがいよいよ本当の攻略だ」
「その通りだ。俺たちの力が試される」
そうして眠るにはまだ少し時間があったので二人で明日からの戦闘の打ち合わせをする。基本は今まで通り前がダンで後ろがデイブで進んでいく。途中で出会う敵については単体なら二人で、トリプルS以上の場合にはダンの剣を中心にしタゲを取りながらデイブはダンのフォローに回る。
「トリプルSが複数体の場合は俺が剣と魔法で敵のヘイトを全て取るからデイブが後ろから俺のフォローをしてくれ」
デイブはダンのアイデアを聞いてそれがベストな方法だろうと同意する。目の前のダンは日々成長していてその実力は今や自分より上に行っていることをデイブは自覚していた。それにダンは攻撃をして体力が戻るスキルがある。デイブは魔法については問題ないが体力は敵を攻撃しても回復しない。これから先どれくらいの強さの敵との連戦があるのかがわからない中では無駄に体力を消費しない方が良い。元々自分はダンのサポートだと理解しているデイブ。ダンの提案をすんなりと受け入れる。
「ダンの負担が増えるが頼むぞ。もちろん俺も常時エンチャントしておく」
「ああ、頼む。明日一気にあの山の麓まで行っちまおうぜ」
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