第122話


「さてそろそろ出発するか」


 朝食を終えてテントを畳んだ二人は野営をした岩場に立って下方から正面の山を見る。眼下には大きな森が広がっていた。


「木々に隠れて地面が見えない。こうなりゃ最短距離で行こうか」


 視線を眼下から徐々に上げて正面の山を見たデイブの言葉に頷くダン。二人で拳を合わせてからダンが先に洞窟を出て山を降りていく。デイブがその後に続く。


山裾に降りたところにいたランクSSの魔獣を2体倒すと二人はそのまま森の中に足を踏み入れた。


 すぐにSSの魔獣3体の姿が木々の先に見えた。ダンが魔法を撃つとその3体が一斉にこちらに向かってきた。デイブが他の1対に魔法を撃ちダンはもう1体に魔法を撃った。これでダンが2体、デイブが1体受け持つことになる。


 ダンは片手剣で2体を、デイブもエンチャントした片手剣で1体を倒すとそのまま森の中を進む。流石に周囲360度が全て魔獣の生息範囲の中でここで魔石を取り出す様な愚は犯さない。


 その後もSSクラスを次々と倒しながら森の奥に進んでいくと、


「SSSクラスが出てきたぞ」


 ダンがそう言うや否や2体に向かって精霊魔法を2発撃った。近づいてくる際にさらに精霊魔法をダンとデイブで撃つがデイブは敵対心マイナスの装備をしているのでヘイトはダンが取っている。


 トリプルSクラスのトロルが唸り声を上げてダンに遅いかかってきたと思ったらすれ違い様に2体の首を同時に刎ねるダン。


「戦闘するたびに強くなってるな」


「そうかな。装備が良くなってるからじゃないか」


 ダンはそう言うが後ろから見ているデイブにはダンがこの中央部の山に来た時よりもまた強くなっていると思いながらダンの戦闘を見ていた。この男は格上と戦闘する度に成長している。全く大した奴だ。相手がランクSSSでもまるで雑魚扱いだ。


 森に入って3時間、ちょうど中間地点辺りまで進んできた二人の右前方に池が見えてきた。寄ってみようぜというデイブの声を背中に聞いたダンがルートを右に変更して森の中の池に近づいていった。


「ただの池か。ダン、俺にはこの池からは魔獣の気配は感じられないんだがお前さんはどうだ?」


「俺も同じだ。この池からは魔獣の気配は感じられない」


 そうして今度は池の周囲を見渡す。そして二人が顔を見合わせた。


「おかしいな」


 とデイブ。


「ああ。地上の魔獣の気配が近くにない」


 そう言いながら二人は抜刀してデイブは片手剣に雷魔法をエンチャントした。そしてそう時間が経たずに


「来たぞ!」


 デイブが叫ぶと同時に池の中から龍が飛び出てきた。ダンはそれを見て昔絵本でみた龍と同じ姿だと思い出す。龍は全く気配のなかった池の中から飛び出てくると水面の上に浮いて二人を睨みつけてくる。羽根はないがそれでも水面に浮きながら長い胴体をクネクネと動かしている。


 池の周囲に魔獣の気配がない時点で二人はこの展開を読んでいた。


「こいつがいたから地上の魔獣が近づいてこないんだな」


「ということは奴らより上、こいつはランクSSS以上だってことだ、こりゃ楽しみだ」


 龍を睨みつけながらダンが答える。


 龍が口を開けたかと思うと口からすごい勢いで水を吐きだした。口を開けた瞬間にその場から移動した二人。つい先ほどまでいた場所に水が文字通り突き刺さる。まともにくらうと吹き飛ばされるだけでは済まない程の勢いと鋭さだ。


 二人は移動したと同時に雷の精霊魔法を龍にぶつけた。すると顔を持ちあげた龍が水面の上を移動してこちらに向かってきた。


 さっきの攻撃でこいつの動きは見切った。


 ダンは近づいて来る龍が口を開けた瞬間に少しだけ移動してギリギリで水を躱すとそのまま突っ込んできた龍の顔の横から胴体に片手剣を払う様にして切り裂く。目にも見えない速さで両手に持った片手剣が龍の胴体の左側に大きな傷をつけた。


 その時には反対側にいたデイブがエンチャントした剣で龍の右側の胴体に同じ様に大きな傷をつける。


 雄叫びを上げて二人の間を通り抜けて身体の向きを変えた龍。その顔の前にダンが立っていた。


「遅いんだよ」


 そのままジャンプして龍の首の後ろに片手剣を振り下ろし、その直後にデイブの精霊魔法が切り裂いた場所に炸裂する。


 思わず地面に落ちた龍、そのタイミングを逃さずにダンが再び片手剣を振り下ろして龍の首を綺麗に切り落とした。息一つ乱れていない二人。


「大したことなかったな」


「あのタイミングで龍の正面に立てるのはダンくらいだろう。おかげで楽に討伐できた」


 魔石を取り出しながらデイブが言う。この池のほとりは上位の魔獣がいるから森の中の魔獣が近づいてこなかった。ということはしばらくは安心だなとここで休憩する二人。


 交代で水分を補給し軽食を口に入れる。


「あと半分くらいかな?」


 デイブと交代して水を飲みながらダンが言った。


「そうだろう。この調子だと日が暮れる前には山の麓に着きそうだ」


 休憩を終えると再び森の中を進んでいく。出会う魔獣は全てランクSSSクラスとなりそれが3体、4体と固まって二人に襲いかかって来る。必ずしも前からだけではなく時には左右からも襲ってくるが二人はそれらを事もなげに倒しては森の中を進んでいった。


 そうして陽が大きく西に傾いた頃に森を抜けて最後の山の山裾についた。休む間も無く山裾を歩いて野営ができそうな場所を探していく。


「あそこはどうだ?」


 ダンが周囲を警戒し、時に魔獣を倒している間にデイブは山に視線を向けて適当な場所を探していた。


「オッケーだ」


 たった今3体のトリプルSを倒したダンが上を見て言う。

 山裾を登っていくと地上から20メートル程のところに大きな岩が出っぱっていた。その上に上がると奥はあまりないが岩場は広く、下からは見えない事を確認してここで野営をすることとした。


 場所を確保すると二人は周囲を見てから視線を背後の山に向けた。山は中腹までは比較的緩やかな斜面だが上の方を見ると急斜面になっている。


「明日はこの山裾をぐるっと回って登りやすい場所を探した方が良いな」


「そうしよう」


 デイブの提案に頷くダン。

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