大陸中央部

第119話


 明日出発する二人はこの日あちこちに挨拶に回っていた。最初にサムの店に顔を出した二人。


「明日出発ですか。お気をつけて。良い物を見つけたら紹介してくださいよ」


 そう言ってデイブの手に袋を渡す。


「これは?」


 袋を見てそして顔を上げたデイブ。


「魔法袋の大です。ダンさんが今持っている魔法袋よりも容量がずっと大きい、おそらく長旅になるでしょう。アイテムボックスはお持ちですが魔法袋も大きいと便利だと思いましてね」


「なるほど。じゃあこれはダンのだ」


「ありがとう」


 ダンはサムにお礼を言って今装備している魔法袋を外して、代わりに新しい大容量の魔法袋を装備する。小さい魔法袋は大きな袋の中に収納した。


「無事に戻って来られるのをお待ちしていますよ」


 そう言ってサムに送り出された二人はその足でワッツの武器屋に顔を出した。レミーとミンもすぐに店にやってきた。


 ワッツは店を閉めると自宅に案内する。そこでレミーの入れたお茶を飲みながら


「明日行くのか」


 二人を交互に見て聞いてきた。頷く二人。


「二重目までのルートは覚えている。前回よりはそこまでは早く到達する予定だよ」


「そこからが未知の世界だな」


 ワッツの言葉にそうなると答えるデイブ。


「毎日じゃないけど野営をした時にオーブで連絡を入れるよ。あの場所の様子を伝えるから何かに記録しておいて貰えるとありがたい」


「それなら任せといて。ちゃんと記録しておくから」


 デイブの言葉にミンが答えると頼みますと二人で頭を下げる。


「ちゃんと帰ってくるのよ」


 レミーが言うと、もちろんさとデイブ。


「滅多なことにはならないとは思うが油断するはするな」


「わかった」


 気心が知れている3人だ。長い会話をしなくてもお互いに意思を通じ合えることができていた。3人とも暖かい目でダンとデイブを見ていた。しばらく雑談をして二人が立ち上がると、


「帰ってきたら顔を出すよ」


「待ってるぞ」


「待ってるわよ」


「気をつけてね」


 

 その後は不動産屋に寄って家賃の先払いを済ませた二人はアパートに戻ると最後の所持品の確認をしてから眠りについた。明日からしばらくは心地よいベッドとはお別れだ。



 翌朝、日が昇ると街から外に出た二人、いつも通りの格好で自然体で街道を歩いていく。気負いも不安もないいつもの二人だ。


 そうして前回と同じ場所で街道を外れると中央部の連峰に足を向ける。荒野で低ランクの魔獣を倒しながら予定通り山裾に着いた二人。


「明日からが本番だ」


「楽しみだよ」


 ダンジョンでもそうだが一度攻略をしたフロアは進みやすい。ここも同じで連峰の外側の山を登りながら前回より楽にランクSを倒していく。


 前回と同じ岩場で野営をし、翌日は1つ目の山を越えた谷底から見えた洞窟まで移動した。


「今回もあのデビルバットの洞窟を抜けて3つ目の山を目指す」


 洞窟の入り口を警戒しながら食事をする二人。デイブの言葉に頷くダン。


「3つ目の山のこちら側はランクSS、その向こう側がどうなってるかだな」

 デイブの独り言を聞いていたダン。


「ランクSSでもその上でも関係無いな。片っ端から倒しまくって進むだけだ」


「相変わらずのダンだな」


 デイブが笑いながら言ってから真面目な口調になって


「でも俺達にとってはそれが正しいやり方だ。俺達は今までもそうやってきた。ここでやり方を変える必要はないよな。敵が強かったらどこかにキャンプしてそいつらを相手に鍛錬して技量を高めれば良い話だしな」


「その通りだ。いつまでに行かなければならないなんて縛りはない。鍛錬ができるのなら鍛錬すれば良い話だ。そして行けると思ったらそのまま突っ走ればいい」



 翌日二人は2つ目の山の洞窟に入っていった。相変わらず洞窟の中にあるちょっとした広場ではデビルバットが襲い掛かってくるがそれらを倒しながら奥に進んでいく。


 前回と違って今回はルートを知っている。出口があるとわかっている中での進軍は肉体的にも精神的にも前回よりもずっと楽だ。


 途中で野営をし魔獣を倒しながら進むこと3日、洞窟の出口が見えてきた。出口に着くとそこから周囲を見る二人。


「こちら側がランクSS、変わってないな」


 少し離れた所、洞窟の穴の下の方を歩いている魔獣を見ながらデイブが言った。ダンも同じ様に視線を下げて魔獣を見て頷く。


 下を見ている二人。二重目と三重目の山の谷間はやはり赤茶けていて川など流れいない不毛の土地に見える。日が暮れるまではまだ時間があるが今日はこの洞窟の出口で野営をすることにする。


 テントを貼り終えるとダンが魔法袋からオーブを取り出した。デイブがそれに魔力を通す。しばらくするとオーブの中にミンの顔が映し出された。


「元気そうじゃない」


 繋がるや否やオーブの向こうからミンが話かけてきた。


「3日程洞窟の中を移動しててさ、オーブを使う時間がなかったんだよ。こっちは二人とも元気にしてる」


 オーブに向かってデイブが言い、持っているオーブをダンに向けると手を振るダン。


「ちょっと待ってね、レミーとワッツも呼んでくるから。一旦切るね」


 そうしてしばらく待っていると今度は自分達のオーブが光出した。デイブが魔力を通すと3人の姿がそこに映る。背景を見るにワッツとレミーの自宅の様だ。


「とりあえず前回来た場所まで戻ってきたよ。明日からは山を降りて最後の山に挑戦するつもり」


 そう言ってデイブが手に持ったオーブを洞窟の出口に向けて外の景色をオーブに映す。

そうして周囲の風景を映してから手元にオーブを戻すと、


「山の中も何もないんだな」


 ワッツの声が聞こえてきた。


「桃源郷がありそうな雰囲気は今の所はないわね」


「そうだな。強い魔獣が闊歩している連峰って感じだ」


 レミーの言葉にデイブが答える。


「魔獣のランクはどうなってるんだ?」


「見る限り2つ目の山の内側もランクSSクラスなのは確認できた。3つ目についてはまだわからないがトリプルSクラスはいるだろうってのが俺とダンの見立てだよ」


「普通ならそうなるな。奥に行くほど強くなる」


 デイブとワッツのやりとりを聞いているダン。デイブはそのダンとチラッと見てからオーブに顔を向けて


「ダンは高ランクがうじゃうじゃといるから良い鍛錬になるって喜んでるよ」


 その言葉にオーブの向こうで3人が笑う。


「どこに行ってもダンはダンだな」


 ワッツの声が聞こえてきて聞いていたダンも思わず苦笑した。そしてオーブに向かうと、


「強い敵を探してここまで来てるからな。SSじゃなくてトリプルSがいるとなるとここは良い鍛錬場所になりそうなんだよ」


 自分のスキルを上げることを第一義に考えているダンらしい言葉だ。怖いとか負けたらどうしようとか言う負の感情はその言葉からは全く感じられない。


「やっぱりあいつは別格だな。強い敵がいることを素直に喜んでやがるぞ」


 オーブから顔を離してダンとデイブに聞こえない声でワッツが言うとレミーとミンも頷く。その後今日はこのまま野営をして明日はこの山を降りて三重目の山に登れるだけ登って行くよとデイブが言ってこの日の通信を終えた。

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