第101話

 休養日の翌日はフィールドで身体を動かした二人。これもいつものことだ。そしてその次の日ダンジョンの12層に飛んだ二人は複数体のランクSを相手にしながら12層、そして13層と攻略していく。13層のフロアの後半部分になると4体、5体と固まっている数が大くなってきたがダンとデイブには何の問題もなかった。


「ようやくランクSSのフロアだ」


 14層に降りたところでデイブが言った。


「広そうだな」


 前を見ながらダンが言う。二人の視界に入る景色は地上で見る様な荒野で、そこに廃墟や瓦礫がありその間を縫う様に道が奥にまで伸びている。荒野は先で丘になっていてその先はここからでは見えない。


「急ぐ訳じゃないしゆっくりと探索しながら進むか」


 そう言ったデイブが持っている2本の片手剣に精霊魔法をエンチャントする。


「そうしよう」


 ダンの言葉で攻略を開始した。荒野に伸びている道を進みながらも岩場を見つけるとその反対側まで見ながら進んでいく。二人を見つけたランクSSクラスの獣人や魔獣が襲いかかってくるが片手剣と魔法で倒しながらフロアを進んでいく。


 廃墟を見つけるとその中にいる魔獣を処理してから建物の隅々までくまなく調べるという事を続けていった。


 そうしてようやく入り口から見えていた丘の上に立った二人。その先はさらに広い荒野が広がっている。


「こりゃこのフロアの中で野営しないと無理じゃないか?」


 デイブが言う。周囲を警戒しているダンも


「そうなるな。1日じゃ無理だろう」


 腹を括って野営前提でやろうというデイブの言葉に頷くダン。

 丘を越えても同じ様な風景が続く中、二人はランクSSを倒しながらゆっくりと探索を続けていった。攻略のスピードよりも探し漏れがない様に注意しながら進む。


 荒野に伸びている道から少し外れたところにボロボロの民家の様な建物を見つけた二人はその中に入っていった。中には魔獣の気配もなく部屋の中をデイブが探し、ダンは入り口で外を警戒していると中から声が聞こえてきた。


「宝箱があったぞ。金貨が数百枚入っている。もう少し探索するよ」


「頼む。こっちは今のところ魔獣の気配はない」


 しばらくするとデイブが出てきた


「宝箱は1つ、金貨だけだった」


「何も無いよりマシだよ」


 そう言って再び探索を続ける二人。ランクSSが単体、時に2体同時に襲ってくるがダンとデイブの前に倒されては光の粒になって消えていく。


 道から大きく外れた場所に小屋を見つけた二人は周囲と中を調べたあと今日はこの小屋の中で野営をすることにした。


 小屋の中から外を見ながら夕食を取る二人。


「この下のフロアも同じ様に野営前提だろうな」


「ああ。そしておそらくランクSSの複数体しかいないエリアだろう」


「このフロアを攻略したら一度地上に戻るか」


 そんな話をしながら食事を済ませると交代で睡眠を取る。ダンは小屋の入り口に立って荒野をじっと見ていた。二人とも鍛錬の賜物で気配感知の範囲が広くなっており、日が暮れて暗くなったフロアの中でも近づいてくる魔獣がいればその気配を感じることができる。


 翌日再び広いフロアの攻略を開始する。奥に進むとランクSSは常に2体固まっているがそれらを倒しながらフロアをくまなく探した二人は翌日の夕方遅くにようやく下に降りる階段を見つけた。


 下に降りていくと15層は予想通り再び荒野のフロアになっていた。しかも細かい雨が降っている様で極めて視界が悪い。


「15層がボス部屋じゃないってことは期待できそうだな」


 そう言ってその場から地上に戻っていった。


 レーゲンスの街に戻ってギルドに顔をだしカードで精算を済ませて待っている間


「14層までクリアしてるみたいだな」


 後ろからトムが声をかけてきた。二人の背後にトムのパーティメンバーが並んでいた。

 精算を済ませた二人とトムらのパーティはそのまま酒場に移動する。


「1日でクリアできないフロア?」


 ノックスがびっくりして声をあげると他のメンバーもそんなの見た事が無いと言う。


「とにかく広いんだよ。それで俺達は宝箱を探してフロアをくまなく捜索しながら攻略してるんだけどさ、ありゃ普通に真っ直ぐ進んでいっても1日じゃ攻略できないんじゃないかな?それくらいに広い。俺達は途中の廃墟で1泊して2日かかりで攻略してきた」


 デイブが言う言葉をじっと聞いているメンバー達。


「ランクSSを倒しながらの探索か、キツそうだな」


「SSを倒すのはそうでもないんだけどね。とにかくいやらしい造りになってるよ。岩場とか廃墟とかさ魔獣が隠れるには困らないのがいくらでもある」


 デイブが言うとノックスがダンの方を向いた。


「ダンなら相手がSSでも問題ないんだろ?」


「まぁな。単体、時に複数体出てくるけど倒すのは全く問題ない。歩いているときは二人で相手をしてデイブが廃墟の中を探している間俺は外で見張りしてるよ」


「ランクSSの複数体を倒すのは問題ないって言い切れるのがすごいよな」


 ノックスが言うと周囲も全くその通りだぜと言う。


「こいつに任せておけば安心だ。廃墟は結構あるんだが全て隅々まで探してるよ」


「15層には降りたのか?」


 トムが聞いてきた。二人は頷く。


「15層はボス部屋じゃなかった。このダンジョンは深いな。これからどう言うフロアが出てくるのか楽しみだよ」

 

 デイブが言った。

 その後はダンジョン内での野営についての話になった。


「俺たちも初めてだったけどずっとフロアにいると大体魔獣の行動範囲ってのがわかるんだよ。その行動範囲外で魔獣から見えない場所を探せば比較的安全にキャンプできるんじゃないかな。もちろん火は厳禁だし音もできるだけ出さない様にしないといけないけどな」


 行動範囲か…と誰かが言うとダンが口を開いた。


「スピードを重視すると見えないものが鍛錬を主体にして急いでいないと見えてくることがあるんだよ。よく見るとダンジョンの中で魔獣がポップするポイントは大体同じだ。そしてそのポップした地点を中心に一定の範囲内を行動する。フロアがだだっ広いのは見つかりやすいリスクはあるけど魔獣の行動を観察するには逆に良い造りなんだよ」


 ダンの言葉を真剣な表情で聞いているトムのパーティメンバー。確かに普通なら目についた魔獣を倒しながらできるだけ早く進軍してフロアを攻略するのが皆が考える方法だろう。ただこの目の前の二人は急いでいない分周囲を観察しながら進んでいくことによって敵の習性を見極めている。


「確かに俺達や他のパーティはスピード重視になってるな」


「通路や洞窟のダンジョンはそれでもいいけどな。広いダンジョンの場合には攻略の仕方を変えてみるのも手だぜ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る