第72話


 ダンとデイブがリッチモンドで以前と同じ宿に部屋を取って旅の疲れをとっている頃、ケーシーらのパーティはギルドの会議室でギルマスのウィンストンと話をしていた。


「テーブルマウンテンの責任者からの手紙は読んだ。正直びっくりしている」


 そうだろうなと言ってケーシーが7名でリッチモンドからテーブルマウンテンに向かってからの一連の出来事を説明する。時折他のメンバーが捕捉しながらの長い説明が終わると、


「つまり自分たちだけじゃあ何も出来ないってことにようやく気がついたってことか」


 ウィンストンの言葉にそうだと答えてケーシーが言った。


「魔獣のランクも知らない奴らだった。最初にランクBの護衛で商人が行った時に引き返したのがショックだったみたいだ。なんでも自分たちの思い通りに行くと思い込んでいたみたいだからな」


「ただ住民全員が選民思想の持ち主だった訳じゃない。俺達が会った幹部の女性は比較的まともな考えをしていたよ。ただあの街では少数派だったみたいだがな」


 スピースが捕捉して言う。その後もギルマスの質問に答えていくメンバー。


「ところでダンとデイブはどうだったんだ?」


 とウィンストンが聞いた。そこにいたメンバー同士で顔を見合わせるとスピースが言った。


「あいつらは別格だ。100体程いた魔獣のほとんどを2人で倒してる。倒した後も2人とも息も乱してない。平然としてたよ」


「ランクBだけじゃなくAもいたんだろう?」


「少ないけどランクSもいたわよ。でもあの2人にとってはBもAも、もちろんSも全部雑魚だった、あっという間に倒していったの」


 狩人のキャシーが言う。


「いくらランクBが中心でも100体もいたら普通は大きな脅威になるわよね。でもあの2人に取っては何も関係がなかったみたい。集団に突っ込んでいったと思ったらあっという間に魔獣を倒していったもの。後ろから見てたけど剣の動きはほとんど見えなかった。同じランクAとは思えない程だったわ」


 キャシーに続いて僧侶のジャニスも口を開いた。普段は無口なジャニスが言葉を発したのでびっくりするメンバー。


「ジャニスの言う通りだ。まるでランクDやEを倒してる感覚だろう。俺達と同じランクAだが実力は段違いだ」


「あの2人のおかげで討伐はあっという間に終わった。それもテーブルマウンテンの奴らの考え方が変わった一つの要因かもしれない。馬鹿にしきっていた冒険者の実力を目の当たりにしたんだからな」


 ケーシーとスピースが言うとそうだろうなとウィンストンも頷く。100体の魔獣が城壁の外にいる。自分たちではどうしようもない。そんな時にやってきてあっと言う間に全部を倒せば冒険者の評価をあげるのは当然だ。


 その後は今後のテーブルマウンテンとの付き合い方についてギルマスが意見を求めてきた。ケーシーらは早速商人を行かせるべきだと言う。ギルマスはそれに同意すると同時にラウンロイドともこの情報は共有すべきだろうと言い、すぐにラウンロイドのギルドに手紙を送ることにする。


 そうして話が終わると


「ところでダンとデイブはどうしてるんだ?」


「リッチモンドで未クリアのダンジョンがあるんでそこで鍛錬するからしばらくはこの街にいるって言ってたな」


 わかったと言ったウィンストン。ケーシーらと別れるとギルドの受付嬢にダンとデイブが来たら部屋に呼んでくれと頼んでから執務室に戻っていった。


 机に座るともう一度テーブルマウンテンからの手紙に目を通す。手紙ではテーブルマウンテンの周囲にいた100体以上もの魔獣をあっという間に倒したリッチモンド所属の冒険者の能力を讃えている。


 実際は100体以上もの魔獣の殆どを倒したのがヴェルス所属のダンとデイブの2人だ。


 ウィンストンは椅子にもたれて目を閉じて鍛錬場でのダンの剣捌きを思い出していた。この街でもトップクラスのスピースが全く歯が立たなかった相手。自在に二刀流を操ってスピースの大剣をあっという間に弾き飛ばした男。あのダンならランクBクラスがメインなら100体でも問題ないだろう。そしてデイブも相当やるし2人ならランクA100体でもあっさり倒してくるかもしれない。


「それにしてもこの世界にはとんでもない奴がいるもんだ」


 そう呟くとウィンストンはまずはラウンロイドのギルドマスターに今回の一連の流れと今後のリッチモンドの対応について手紙をかいた。それから今度はテーブルマウンテンの責任者に手紙を書き始めた。次にあの場所に向かう商人の護衛をする冒険者に託すことにした。


 3日後、リッチモンドからテーブルマウンテンに向かう商人の隊列がリッチモンドの城門の近くに集まっていた。そこには護衛で同行するランクBの冒険者達の姿に混じってケーシーらのパーティの姿そしてダンとデイブもいた。


「新しいテーブルマウンテンがどうなっているのか楽しみだな」


「これで変わってなければあの街は終わりだろう。彼らも目が覚めてるはずだ」


 ケーシーがデイブの言葉に応えて言う。商人の馬車が4、5台並んでおりそれに合わせて護衛の冒険者も20名程が出発の準備をしていた。その連中の中には自分たちを遠巻きに見ている冒険者の中にいるダンとデイブを見つけて、


「ノワール・ルージュだ」


「なんでもテーブルマウンテンの城壁の周囲にいた魔獣100体をあの2人であっという間に倒しきったらしい」


「こうして見ても迫力あるな」


 と準備をしながら2人をチラチラと見ていた。


 しばらくしてから馬車と護衛の連中が城門から外に出ていくとギルマスのウィンストンがダンとデイブに近づいてきた。その近くにはケーシーらのパーティメンバーもいる。


「テーブルマウンテンではご活躍だったみたいだな」


「そうでもないさ。俺とダンは敵を倒しただけだ。実際の交渉はケーシーらがやってくれた」


 デイブが言うと隣でダンもその通りだと言う。


「とは言え100体の魔獣を短時間で討伐したから彼らの態度も変わったとも言える。その点では2人ともよくやってくれたよ」


 ウィンストンはそう言ってから


「ところで相変わらず19層でランクSS相手に鍛錬をしているのか?」


「ああ。あそこは鍛錬には最適だ。昨日、一昨日と19層で2人で籠っていたよ」


「クリアはしないのか?」


「特に急ぐ必要もないな。俺達はクリアよりも鍛錬に重きを置いてるから。でもまぁ帰るまでにはクリアするよ」


 ダンジョンクリアをしてポイントを稼ぐなんてまるで気にしていないデイブの言い方だ。もっともランクSSを倒している時点でかなりのポイントが貯まっているはずだが彼らはそれすらあまり興味がないんだろうとウィンストンは聞きながら感じていた。


「クリアしたらヴェルスに戻るのかい?」


「その前にレイクフォレストに行ってみようかと思ってる。風光明媚な良い場所らしいからね」


「そうだな。ここまできているのならレイクフォレストに行って観光するのも良いだろう。いい息抜きになるよ」


 そうするよとギルマスに言って城門から市内に歩いていく2人。2人が離れるとケーシーがギルマスのウィンストンに近づいてきた。2人の背中を見ているギルマスが顔を彼らに向けたまま、


「お前達、ランクSSのフロアで鍛錬する気になるか?」


 ギルマスが聞いてきた。


「その前にランクSのフロアでもきついだろう。1体ならまだしも連続して出てくるときつい。ランクSSなんて俺たちが挑んだら全滅コースだよ」


「それが普通の冒険者の感覚だ。だからあの2人は普通じゃないんだよ」



 それから5日後にダンとデイブは未クリアだった20層のダンジョンをクリアした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る