第71話

 食事を終えた一行は建物の奥にある部屋に案内された。部屋は1人1部屋あり、案内してきた女性によるとこの建物はテーブルマウンテンの本尊の様な建物でこの街を治めている幹部達が使用する建物らしい。会議が行われた際に遅くなった時にここで休める様に部屋をいくつか作ってあるそうだ。


 ダンが部屋に入ってしばらくするとデイブが部屋に入ってきた


「ケーシーの部屋に集まってくれと言ってきた」


 わかったと2人でケーシーの部屋に行くと女性以外のケーシー、スピース、そしてブロントが部屋にいた。2人が部屋に入っていくと、


「疲れているところ悪かったな」


 ベッドに腰掛けているケーシーが言う。1人部屋だがそれなりに広く5人が入っても息苦しくない。ケーシーとスピースはベッドの端に、ブロントは部屋の椅子に座っていた。そして他に2つ椅子が用意されていてそこにダンとデイブが腰掛けた。


「大丈夫だ」


 ケーシーの言葉にデイブが答える。


「女性は時間がかかる。大した話でもないので俺達だけで始めよう」


 ケーシーがそう言ってから続ける。


「色々あったがギルドから依頼されたクエストはクリアした。それで話というのは明日山を降りてリッチモンドに戻るが、街に戻った後のギルドへの報告だが俺達に任せて貰えないか」


 言い終わってからケーシーがダンとデイブを見た。


「もちろんだ。俺とダンは今回は助っ人だ。クエストの報酬さえもらえればいい。報告やら今後の相談やらはリッチモンドの冒険者に任せるよ」


 デイブの言葉にホッとする表情を見せるケーシー。


「実際今回のクエストで魔獣を倒しまくったのはノワール・ルージュの2人だからな。言いたいことがあるんじゃないかと思ってたんだよ」


「特にないな。おそらく俺達が思ってることとケーシーらが思ってることは同じだろうし」


 そう言ってデイブが続けた。


「俺の勘だが、明日あのヒューズとかいう偉い人は俺たちに文書を託すと思う。内容はこれからはもっと頻繁にテーブルマウンテンに来て貰って構わない。城門は常に開けておく。宿も作るから多くの商人にも来て貰ってくれ。こんな感じだろう」


 デイブが言うとそこまで書くかなとスピースが言った。


「せいぜいこれからもよろしく程度じゃないのか」


 ブロントも言うがデイブは首を横に振った。


「いや、それじゃあこの街は変わらない。今までと一緒だ。今日のあの話を聞いていてヒューズは今までの自分たちのやり方が正しくないと理解したはずだ。となるとあの女性の助言にしたがって街を開放して交流を深めようとするだろう。今までの方針を変更する旨のレターを託されると思う。そうなるとヴェルス所属の俺達の出番じゃないし、そんな打ち合わせに俺達が出るのもおかしな話だ。報告、相談はそっちでやってくれて構わないよ」


 デイブは先を読む能力に長けている。その能力はダンよりもずっと優れているとダンは常日頃から思っている。今もデイブの話を聞きながらその通りだと思っていた。


「ダンもそれでいいか?」


「デイブの意見に同意だ。問題ない」


「わかった」



 翌朝7人が昨日の部屋に入るとそこにはヒューズとミーシャの2人だけが座っていた。


「よく眠れたかな?」


「疲れが取れたよ。ありがとう」


 ケーシーが代表して礼を言う。よかったと頷くローブの2人。そしてヒューズが立ち上がると


「リッチモンドに戻ったらこの手紙をギルドの責任者に渡してもらいたい。中には今回のクエストの終了書と責任者宛の手紙がはいっている」

 

 封書をケーシーに手渡す。


「確かに。間違いなくギルドマスターに渡そう」


 手紙を受け取ったケーシーはそれを魔法袋にしまった。その仕草を見てからヒューズが声を出した。


「今回の一件で他都市との付き合い方が間違っていたことが証明された。今後このテーブルマウンテンは常に城門を開き商人や旅人そしてお主らの様な冒険者を受け入れるつもりだ。手紙にはその事が書いてある」


 ヒューズの発言はデイブの予想通りだった。メンバーは昨日から予想していたので驚きの表情はせずに聞いている。


「長い間自分達が優れていると教えられて育ってきた住民がすぐにその意識を変えることが難しいという事は承知しています。しかしいつか始めないといつまでも変わらない。この街は今日からそれを始めようとしています。時間はかかりますがその間皆さんのご協力が必要なんです。よろしくお願いします」


 ミーシャが言った。


「わかった。それも必ず伝えておこう」


 ケーシーがはっきりと答えた。


 そうして一行はヒューズとミーシャの見送りを受けてテーブルマウンテンの城門から外にでるとスロープの途中で待っていた馬車に乗り込むと来た道をリッチモンドに戻っていった。


 荒野を移動している途中数度魔獣が襲ってきたがさっくりと倒して進んでいった2週間後の昼過ぎ、リッチモンドの城壁が一行の前に見えてきた。


 城門を潜った一行は中に入ったところで馬車を降りる。そうしてそのままギルドの扉を開けて中に入るとそのままカウンターに向かいクエスト終了書を提出し各自のギルドカードを更新する。


「俺達はここまでだ。あとはよろしく」


 デイブが言った。


「お疲れさん」「お疲れ様」


 メンバーが挨拶する中、


「しばらくリッチモンドにいるんだろう?」


 ケーシーが聞いてきた。


「ああ。まだ未クリアのダンジョンがあるからな」


「じゃあまたここで会えるな。とりあえずお疲れ」


 ギルドマスターとの面会を申し込んでいるメンバーと別れダンとデイブはギルドを出ると久しぶりのリッチモンドの市内を歩きながら宿に向かって行った。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る