リッチモンド

第60話

 ラウンロイドのギルドでダンとデイブの指名クエストという形で護衛クエストを受けた2人。サムの商会に顔を出した4日後の朝城門近くで待っていると馬車に乗ったサムがやってきた。


「よろしくお願いしますね」


「こちらこそ」


 城門を出るとヴェルス方面とは反対側、街道を北東方面に進んでいく。サムは馬車に乗っておりダンとデイブは馬車の左右を歩いている。街道を歩き始めてすぐにデイブがサムに聞いた。


「商会の社長自らがあちこちの街にこうやって馬車を引いて商売に行くというのは珍しいんじゃないの?普通は社員とかに任せるもんだと思っていたけど」


 御者台に座り、馬の手綱を持ったままのサムが言う。


「そういう商会もあります。ただ私の店ではいつでも私が直接出向いているんですよ。それは行った先の街での情報が欲しいからです。納品や買い付けだけなら社員でも問題ないでしょう。でも商売はそれだけじゃない、行った先のお客様と話をしてこの街ではこれから何が売れそうだかとか、街の様子や雰囲気はどうだとか。直接聞いたり肌で感じることが重要なのです」


 デイブとサムのやりとりを聞いていたダン。理由を聞いて納得する。ダンが知っている社長というイメージは会社の中の大きな部屋でふんぞり返って部下を呼びつけては指示や命令を出す威張った偉そうな男だ。


 以前の知識でそんな記憶が残っているがここにいるサムは違う。自ら動き回ることを厭わない。冒険者と似ているところがあるなと思っていた。


 ラウンロイド周辺の村を出るとしばらくは荒野を進む。こちら方面も街の周辺から離れていくと緑が消え、茶色の景色になってくる。そして時々街道近くにいる魔獣が人間を見つけて襲いかかってくるがダンとデイブが遠距離から精霊魔法を撃つとその場で弾け飛ぶ魔獣。ランクB程度だと2人に近づくことすらできない。


 この2人に護衛を頼んでよかったと馬車の上でサムは思っていた。馬車の左右を歩いて周囲を警戒しそこに脅威があれば魔法で排除していく。近づく前に2人が魔法で倒していくので全く不安がない。そして普段歩いているときも無駄口をほとんどたたかない。常に周囲を警戒し護衛としての役割を完璧に果たしている。


 魔法の威力は素人目に見てもデイブの方が上だな。これはワッツが言っていた通りだ。彼は剣についてはダンが桁違いに強いと言っているがこの調子だとダンの剣捌きは見られないかもしれないな、まぁ無事にリッチモンドに着くのが一番だからそこは割り切るしかないか。


 野営は街道から少し離れた荒野に馬車を止め、サムが休んでいる間は2人で交代で見張りをする。そうして夜が明けると再び街道に出てリッチモンドを目指す。


 街道を歩いていると前方から来る商人とそれを護衛しているパーティとすれ違うことがある。その度にデイブがすれ違うパーティと街道の情報交換をしてサムの馬車に戻ってくる。


「ちらほらと魔獣はいるらしいがランクBクラスだという話だ」


「なら問題は無さそうだな」


 実際に全く問題にならないままサムはリッチモンドに到着する。一度だけランクAが1体荒野に現れたが近づく前にダンが馬車から離れて向かってくるランクAに剣を振ったかと思うと頭と胴体が綺麗に2つに分かれて荒野に倒れ込んだ。


 サムには全く見えなかった。魔獣を倒してから馬車に戻りながら片手剣を1本だけ鞘に戻す仕草をしているダンを見てそこで初めて1本の片手剣で倒したのかと分かった程だ。



 リッチモンドの城壁をくぐって街の中に入ってくるとそこで馬車を止めるサム。そうして馬車から降りると


「無事に到着できました。ありがとうございました。これをこの街のギルドに出していただいたらクエスト終了です」


「こちらこそ。道中無事でよかったです。帰りも気をつけて」


 クエスト用紙をサムから受け取ったデイブが言う。隣でダンもお疲れ様でしたと言い再び馬車に乗って市内に入っていったサムを見送る。


「ここがリッチモンドか」


 リッチモンドはヴェルス程の広さの街だ。他の場所と同じ様に城壁に囲まれた街だが心なしかヴェルスよりも涼しい気がする。北にあるからだろう。


 サムを見送った2人はそのまま冒険者ギルドを目指した。どこの街でもギルドは城門を入ったそう遠くない場所にある。見えてきたギルドの看板。建物はヴェルスと同じ2階建ての大きさだ。


 ギルドの扉を開けて中にはいる。どこのギルドも同じ造りだ。扉を開けて真っ直ぐに歩いてカウンターに近づいてそこにいた受付嬢にギルドカードとクエスト票を提出し、


「ヴェルスからやってきたデイブとダンだ。護衛クエストはラウンロイドからこの街まで。これがクエスト証明書」


 そう言うと受付嬢がカードと書類を見てクエスト終了を確認し、カードに記録する。

 2人がカードを受け取ると


「ところでこの街でおすすめの宿はあるかい?」


「ギルドを出て右手にまっすぐに進むと赤い壁の宿があります。『赤壁亭』という宿ですがランクAの方ならそこがどうでしょうか。少し高めですが部屋は綺麗ですしお風呂もあります。ランクAの方に聞かれると大抵そこを勧めています」


 ありがとうと言って2人はギルドを出るとまずは赤壁亭という旅館に向かい部屋を2つ確保した。そうして部屋に荷物を置くと1階にある食堂で昼食を取る。


 例によってデイブが注文を取りにきた女性の店員に、


「俺達はラウンロイドから来たんだけど、ここから先に街はあるかい?」


「テーブルマウンテンという街が西の方に、そしてここから北東に馬車で5日ほど行くとレイクフォレストという街がありますよ」


「レイクフォレスト?」


 また新しい街の名前が出てきた。


「ええ。名前の通り森と湖を中心に発達した街です。リッチモンドに住んでいる人にとっては一度は行ってみたい街ですよ。私もお金を貯めて行こうと思ってるんです。森と湖がすっごく綺麗な街なんですって」


「行こうと思ってるって普通の住民が5日も荒野を移動して行くの?」


 嘘だろうという目でデイブが店員を見る。


「この街とレイクフォレストとの間には私達の様な住民が使える定期便の馬車があるんです。それに乗ったら行けますよ。街道は広くて安全だし、馬車は大きいし。そしてこの街の冒険者の方が護衛についてくださるので安心なんです」


 レイクフォレストは観光地の様だ。大陸の多くの場所が赤茶けた荒野の中で森と湖があればそれだけで人が来るだろう。


「どうする?行ってみるか?」


 店員が注文を聞いて下がってからデイブがダンに話しかけてくる。


「せっかくここまで来ているからな。でもその前にここリッチモンドで武者修行だ」

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