第61話

 昼食を済ませると少し休んでから再びギルドに顔を出す。今度は情報収集だ。さっきは昼過ぎの時間帯で閑散としていたギルドも夕刻になるとその日の活動を終えた連中が次々と返ってきてはカウンターで換金や記録をしていく。


 ダンとデイブは酒場の隅の方のテーブルで座って彼らを見ていた。赤と黒のローブ姿の知らない2人組。誰かが声をかけてくるだろうと思っていると案の定カウンターで精算を終えた5人組の冒険者が2人が座っているテーブルに近づいてくる。


 ダンは近づいてくる5人組をランクAだと見ていた。ジョブは盾、戦士、狩人、精霊士に僧侶というオーソドックスな編成で狩人と僧侶が女性。男性3、女性2のパーティだ。


「こんにちは、他所から来たのかい?」


 先頭を歩いていた盾ジョブの男が明るい調子で話しかけてきた。


「こんちは、俺たちはヴェルス所属でね、ラウンロイド経由で今日この街にやってきたんだよ」


 デイブが答えた。


「ヴェルスからかい、そりゃご苦労さんだったな」


 そう言うとお互いに自己紹介をする。話かけてきた盾の男はケーシー。この街所属のランクAの冒険者だ。


盾 ケーシー

戦士 スピース

狩人 キャシー

僧侶 ジャニス

精霊士 ブロント


 ダンとデイブの隣のテーブルに座った5人。座るなり大きな剣を持っているスピースが聞いてきた。


「2人組でランクAなのかい?」


「ああ、俺たちはジョブが特殊だからな。普通のパーティには席はないからこうやって中衛同志で組んで活動してるんだ」


「2人組だと護衛クエストできるのか?」


「ランクAに上がるまで一度もやってないな」


 ブロントの言葉に答えるデイブ。彼らにとってはいつもの質問だ。ただ初めて会った連中はこの答えを聞いて同じ反応をする。このパーティも同じだった。皆びっくりする。


「どうやってポイントを貯めていったんだ?」


 この質問もいつも通りだ。デイブがいつも通りの答えをする。


「2人で格上を倒しまくってたのか。そうでないとポイント稼げないよな」


「それにしても普通は格上とだけなんてやらないわよ」


 ケーシーが言うと続いてキャシーが言った。


「ちょっと違う」


 デイブが言うとどういうことだと言う目で見てくる彼ら。


「ポイントを貯める為に格上としてた訳じゃない。格上としていたら結果的にポイントが貯まっていったんだよ」


 デイブが言うと黙っていたダンが続けて口を開いた。


「俺達は2人とも自分たちが強くなりたいと思ってるだけだ。ギルドのランクとかは正直考えてないし気にもしてない。自分たちが実力をつけて強くなりたい。その為にどうするかと考えて格上との鍛錬で強くなろうという方針を決めたんだ。ダンジョンでもクリアを目指さずにランクが上の魔獣がいるフロアで階段を降りたところにキャンプして1ヶ月も2ヶ月もひたすらその近くで湧く格上の魔獣を倒しまくって100%の自信がついてからフロアを攻略してた。結果的に格上との戦闘でポイントは溜まったけどそれは結果論で、強くなりたいというのが俺たちにとっての第一義にある目標なんだよ」


「なるほど。それでランクAになってるということは2人ともかなりできるって事だな」


 ケーシーが言うと他のメンバーもそうなるなという。そのケーシーは目の前の2人組を見て、


「このリッチモンドに来て早々で悪いがこれから俺達と模擬戦をしてくれないか?」


「模擬戦?」


 いきなり模擬戦と言ったケーシーにどうしてだという表情で答えるデイブ。


「理由は2つある。1つは2人組でランクAになっているあんたらの実力を見てみたいと俺が思っているということ、そしてもう1つはここで模擬戦をして実力を見せておくとあとあと楽になる」


「なるほど。後々楽になるのはこちらにとってもありがたい話だ。それでどう言う風にやる?1対1でよいのならこっちはダンが相手をする」


 デイブの言葉に頷くダン。


「そうだな。1対1でいいだろう」


 ケーシーが言うと戦士のスピースが俺がダンと模擬戦をやろうと言った。


 そうしてデイブとダン、そしてこの街所属のパーティのメンバーが立ち上がるとギルドの鍛錬場に移動する。酒場でやりとりを聞いていた冒険者達もゾロゾロと鍛錬場にやってきた。他所からやってきた奴らがどれくらいの実力があるのかというのは皆気になるものだ。


 鍛錬場に行くとそこにいた冒険者達も後からきた仲間から話を聞いて脇に避けてスペースを作る。ダンは片手剣の模擬刀を2本、そしてスピースは大剣の模擬刀を手にして軽く振って準備運動をする。


「模擬戦だから剣が弾き飛ばされるか参ったというかでいいだろう」


 ケーシーの言葉に頷く2人。


「ヴェルスからきた2人組らしい。その片方がスピースと模擬戦をするんだと」


「あいつは暗黒剣士か、しかも二刀流だ。どちらも滅多に見ないな」


「スピースのことだ。軽く流すだろうな、でないとあの暗黒剣士の奴がいくら突っかかっていっても勝負にならないだろう」


「ああ。リッチモンドでもトップクラスの奴の剣を見切れる奴はいないからな」


 誰かが言ったその言葉に頷く周囲の冒険者達。鍛錬場はいつの間にか多くの冒険者達が集まってきていた。そのほとんどがスピースの勝ちを疑っていない。


 そうしていると鍛錬場の中央に2人が歩いていった。スピースは大剣を、ダンは両手に片手剣を持っている。


 ケーシーのはじめという声で模擬戦が始まった。スピースはその場に止まっている。どうやら最初の一撃はダンに譲ってくれる様だ。ならばとダンは一気にトップスピードでスピースに近づくとあっという間にその大剣を弾き飛ばした。


 シーンとする鍛錬場。大勢の冒険者がそこにはいるが誰も声を発しない。弾き飛ばされた大剣が鍛錬場の地面の上に落ちる音がした。


「悪い、もう一度相手をしてもらえるか?ダン」


 しばらくしてスピースが絞り出す様な声で言った。


「構わないよ」


 こちらはいつもの口調だ。


 その頃になって鍛錬場がざわざわとしてくる。審判をして近くで見ていたケーシーもしばらく言葉が出なかった。


 なんと言う速さだ。剣捌きが全く見えなかった。

 

 スピースが弾き飛ばされた自分の大剣の模擬刀を手に持つと再びダンと対峙し


「今度は俺から行かせてもらう」


 その言葉に頷くダン。ケーシーが再び号令を言うと今度はスピースが大剣を担いで猛然と突っ込んできた。


 ダンはその動きを冷静に見ていて大剣が振り下ろされると左手で持っている剣でその剣先をずらせると同時に右手の片手剣を下から上に振りあげた。


 1回目と同じ様にスピースの大剣が大きく弾き飛ばされる。


「参った」


 スピースが言ってからダンを見て


「俺が全く歯が立たなかった奴はダンが初めてだ。桁違いに強いな。ランクAと言ってるけど実力はもっと上のランクだろう。見事だよ」


 握手を求めてきたスピースの手を握るダン。


「そっちも大剣の動きは鋭かった」


「あっさりと俺の剣を弾き飛ばされてそう言われてもな」


 目の前で2度の模擬戦を見たケーシーだが2回ともダンの剣捌きを見切ることができなかったぶつかったと思ったら2度ともスピースの大剣が弾き飛ばされていた。


 2人組でランクA。相当やるなとは思っていたがその実力はケーシーの想像の遥か上のレベルだ。しかもこれは模擬戦だ。ダンは全く本気を出してないだろう。スピースのあの2回目は彼の本気だった。同じパーティだから俺にはわかる。だがダンはそうじゃない。十分にまだ余力を残している。



 とんでもない奴がこの街にやってきた。

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