第50話
翌朝二人が食堂に降りるとそこにはウィーナとヤコブがいて先に食事をしていた。
そうして二人が座るとすぐに二人分の朝食が運ばれてくる。
「今日はヤコブが案内をしてくれる。昨日の話は伝えてあるよ」
そう言うとヤコブが
「長老から話は聞いている。今日は坑道での作業は中止にしてある。従って誰も坑道に入っていないし入る予定もない」
「それは助かるな。何が起こるかわからないからな」
「私も途中まで案内するだけだがそれでいいんだよな?」
「それで構わない。あとは坑道の入り口付近にいてくれたら大丈夫だ」
「わかった。じゃあ洞窟の下に降りる時にはこれを使ってくれ」
「これは助かる」
受け取ったデイブが礼を言った。
ヤコブがデイブに渡したのは縄梯子だ。
食事が終わるとウィーナの頼むよという声を背中に聞いて3人は宿を出て鉱山の入り口に向かう。
「魔獣が出てからはミスリルは鉱山の入り口付近で採掘しているがやっぱり量が少ない。それといくら入り口付近とは言え奥には魔獣がいるとわかっていると作業員が不安がっていたんだ。だから魔獣を討伐できる冒険者が見つかったと聞いたときは心底ほっとしたんだよ」
街の中を歩きながらヤコブが言う。この彼も元は何かの事情があってこの街にやってきたんだろうが今の姿を見ると何かを背負っているという感じには見えない。他の街の住民もそうだ。この街での安寧をたっぷりと享受している様に見える。
街を抜けて狭まっている山の間を抜けると工場が見えてきた。ヤコブを先頭にして3人は鉱山の坑道に続く緩やかなスロープを上っていった。坑道の入り口に着くと、
「中は十分に空気がある。等間隔で壁に松明を灯しているので足元は大丈夫だろう」
そう言ってヤコブを先頭にダン、そしてデイブという順で行動の中にはいっていった。坑道はしばらく1本道だったが途中から分岐の坑道が左右に伸びている。ヤコブはそのまままっすぐに坑道を進んでいき、入り口から100メートルほど進んだところで立ち止まった。
「この先なんだよ。ここから100メートルほど歩けば広い洞窟に出る。その一番底の部分に魔獣がいる」
「わかった。後は俺達でやるよ」
デイブがそう言うと後は頼んだと言ってヤコブは来た道を引き返していった。その後ろ姿を見てから前を向いた二人。
「さて行くか」
坑道を奥に進んでいくと魔獣の気配がだんだんと濃厚になってくる。そうして歩いていると松明が掲げられている行動の壁、通路の先に空間が見えてきた。
そのまま坑道を進んでいくと確かに山の中なのにという空間がそこにあった。天井を見てみると空が見えるわけではない。この部分だけがすっぽりと抜け落ちている様に大きな空間になっている。
そうして今度は視線を下に向けると20メートル程下に地面が見えていた。
「いないな」
「と言うことはやっぱり横穴があるんだ。気配があるから近いぞ」
そう言ってからデイブが縄梯子を上から下に垂らしてしっかりと固定した。ダンが先に降り、続いてデイブが降りる。
ダンが下まで降りると上から見えなかった横穴が洞窟の底から伸びているのが見えた。横穴はちょうど坑道の出口の真下あたりで上からは見えない場所にあったのだ。
ダンが縄梯子を降り、デイブも縄梯子を半分程降りた頃大きなうなりこえが横穴の奥から聞こえてきてすぐに体長3メートルほどの大きさの魔獣が1体姿を現した。デイブも最後は数メートルをジャンプして飛び降りた。
ダンが魔獣に精霊魔法を撃ち、怯んだ好きにデイブは抜刀する。
「トロルだな」
デイブが言う
「いつも通りで!」
ダンはそう叫ぶとトロルに向かって走り出していく。こいつは以前ダンジョンで倒したトロルよりも弱そうだ。武器も防具も持っていない。
トロルは突っ込んできたダンに大きく腕を振ってくるがそれを交わすとすれ違い様に片手剣で腹に傷をつけた。
ダンジョンで得た新しい片手剣は今までのよりもさらに鋭く、威力を増しており剣を横に払う様にして斬りつけるとトロルの右の脇腹が大きく広がる。
絶叫を上げながら背後にさったダンに体を向けたその時には今度はデイブが剣をトロルの背中に振り下ろした。その剣は青みがかった光を発しており切り裂いた後でその切り口が雷が発生した様にバチバチと光る。
「凄い剣じゃないか」
トロルと対峙しながらも思わずダンが声を出す。
「ああ、これは想像以上だ」
そうして今度はダンに背中を向けているトロルに近づくとデイブが切り裂いた背中と同じ場所に剣を振り下ろしもう1本の剣は左の脇腹を切りつける。
それだけでトロルは動きが緩慢になってきた。そこにもう一度デイブの精霊魔法をエンチャントした剣が背中に振り下ろされるとふらふらになって前屈みになる。そこをジャンプしたダンの剣がトロルの首と胴とを綺麗に2つに分けた。
ドスンと音がして地面に倒れ込むトロル。見ていると消えて行かずに倒れたままの状態だ。
「ダンジョンじゃないな」
しばらく見ていたデイブが言うとそのまま倒れたトロルから魔石を取り出す。
「こいつの処理は後にして横穴を見てみるか」
そうしようとダンが言い、二人で並んで横穴に入っていく。
「せいぜいランクSクラスだったかな」
「そんなもんだろう。対して強くはなかった」
そんな話をしながら伸びている横穴を歩いているが魔獣の気配がしてこない。ここは松明もないので二人は魔法袋から自分たちの松明を取り出して火をつけると片手に持って照らしながら進んでいく。
「結構長いな」
デイブが言う通り横穴はずっと先までほぼ一直線に続いている。坑道から洞窟までの距離以上の横穴を歩いていると洞窟の先から明かりが見えてきた。洞窟は左に曲がっていてその先から外の明かりが見える。
松明を消して両手に剣を持っている二人はそのまま横穴を歩いていると曲がったところの先に出口が見えてきた。
「ここは…」
「山の裏側だ」
穴から出てみるとその穴は山裾から少しだけ高い場所にあり穴から出て周囲をみるとそこは連なっている山々の間になっていた。
「山の荒野側じゃなくて反対側っぽいな」
周囲を見渡したダンが言う。
「人は来ることはないだろうが。魔獣はこれからも来る可能性はあるな」
「しかも山の中だ。住んでいる魔獣のランクは低くない」
「住民にとっては安心できないな。戻ってアドバイスするか」
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