第49話

 そうして食事を済ませた二人は街に繰り出した。武器を携帯している者見られない。一方で2人は赤と黒のローブで片手剣を腰に装備している。二人のその姿は街では目立つ。


 広い通りを奥に向かって歩きながら左右に視線を送る二人。他の街の様に居住区と商業区がはっきりと分かれているのではなく店の隣が民家だったりとここでは混在している。ただしゴミゴミとした感じではなくそれぞれが余裕を持った間隔で建っていた。


「住んでる人が少ないから分ける必要がないんだろうな」


「そうだろう、それにしても緑が多くてゆったりとした街だ」


 そんな話をしながら通りを奥に歩いていくとだんだんと家が減り、代わりに畑が増えてきた。果樹園もあるし池もいくつかある。その間を歩いていくと両側から山が迫ってくる。そうしてその狭い部分を抜けると再び谷が奥に広がっていた。


 道を歩く先に工場の様な建物が見えてきた。


「あれが採掘したミスリルを選別、精錬する工場だな」


 ダンが言う。


「なるほど、入り口から離れている上に狭まっている山の裏側にある。街の外からは工場の煙は見えないだろう。上手く隠しているよ」


 工場は動いているのだろう煙突から煙が立ち上っているのが見える。工場に近づいていくと歩いている進行方向の左側の山にスロープがあり山裾から少し上がった場所に坑道の入り口が見えてきた。


 足を止めて下から見上げる様に入り口を見る二人。何人かの作業員が坑道に入っていったかと思えば荷車に採掘したであろう鉱石を積んでスロープを降りてくる作業員も見える。


「坑道の奥はダメでも手前で採掘を続けてるってことか」


 降りてくる荷車を見ながらデイブが言う。


「そうだろう。ヤコブが言っていた広い洞窟ってのは結構奥にありそうだな」


 しばらく坑道の入り口を見ていた二人はせっかくだからもうちょっと奥に行ってみようとそのまま工場を横目に見ながら街の奥の方に進んでいく。


 工場から先はまだ何もない草原になっていた。地下に水脈でもあるのか荒野と違ってそこには草が生えている。そのまま歩いていくと前方で谷が大きく右に曲がっていた。


 城壁からここらまでまっすぐに伸びていた谷間が右に曲がっておりその曲がり角に来て先を見てみると曲がってしばらくはそのまま続いているがその先は高い山が谷をふさぐ形になっていて行き止まりになっている。そしてその行き止まりの手前には乳牛が飼われていた。数頭の牛がのんびりと草を食べているのが見える。


「自然の地形だが、見事に要塞の様になっているな」


「これなら城壁1箇所だけで街を守ることができる。魔獣や暗殺者らが山を越えて街に入るのはまず不可能だろう。天然の要塞だ」


 谷を塞いでいる山とその周辺の山を見て言葉を交わすダンとデイブ。しばらく谷の奥を見てから来た道を引き返して市内に戻ってきた。


 三方を高い山に囲まれている谷間の街は日が暮れるのが早い。まだ夕刻前だが薄暗くなってきている中市内に戻ってきた二人が泊まっている宿に入るとそこにはウィーナがいフロント横にあるソファに座っていた。二人を見ると座ったままで


「坑道の入り口を見てきたのかい?」


「ああ。見てきた。下から坑道の入り口を見ただけだけど、しっかりと木枠で囲っていて正直びっくりしたよ。安全にも気を使いながら採掘しているんだろうな」


 デイブが言うとそりゃそうさ。この街の最大の財源と言ってもいいからねと言い、


「街は歩かなかったのかい?」


 その言葉に頷くダン。そして、


「あまり部外者の俺達が街をウロつくと警戒する人もいるかもしれない。それにこの街には仕事できてるしな。住民をあまり刺激したくないと思って」


「普通ならまず来られないオウルの街だ。せっかくだからとウロウロするかと思ったんだがやっぱりあんた達は普通の冒険者とは違うね。良い意味でプロだよ」


「ありがとう」


 二人が礼を言うとウィーナがソファから立ち上がって


「夜は3人で食事しようかね」


 そう言って3人で宿を出て市内を歩く。道すがらのウィーナの話しでは市内はそれなりにレストランがあるそうだ。


 そうしてウィーナお勧めのレストランに入るとそれぞれが食事を注文する。オーダーをし終えると店員はメニューを持って下がっていった。


「今メニューを見て思ったけど肉料理も多くあるんだな」


「それでどう思ったんだい?」


 デイブの言葉にウィーナが聞いてきた。デイブはそのウィーナを見て


「この街にはアイテムボックス持ちが複数人はいるな」


 そう言うとウィーナが流石だねと言って、


「その通り。誰だとかいくつあるのかとかは言えないがデイブの想像通りアイテムボックスがある。そしてあちこちから大量の食材や調味料や腐りやすい物を仕入れてはこの街に供給しているのさ」


「レーゲンスの街ではこのオウルの街がどうやって暮らしていってるのか謎だと言っていた。アイテムボックスが複数あるなら問題ないな。手ぶらでレーゲンスに出向いてそこで食材をたっぷりと買い込んでは戻ってくることができる」


 ウィーナとデイブのやりとりを聞きながらダンはこの街の人が生きていくためにいろんな知恵を絞り出しているんだなと感心していた。


 ウィーナならアイテムボックスの情報も入りやすいだろう。そうして買うにしても高価なミスリルで金はある。上手く考えたものだと思っていると、


「アイテムボックスが手に入る前は生モノの手当ては苦労してたんだよ。魔法袋はあったけどあれは中で時間が経過するからね。レーゲンスから20日の間に生肉が腐っちまう。だから住民は干し肉を食べて野菜と果物がメインの食事だったのさ」


 デイブとウィーナのやりとりを聞いていると料理が運ばれてきた。他の街で食べる食事と遜色のない味つけで、3人は出された料理を口に運びながら


「こうして住民の暮らしがよくなるのはいいことじゃないの。昼間見たけどこの街は天然の要塞だ。この街で暮らしていく分には何も不自由がなさそうだ」


「そうだな。普通の街でも住民が街の外にでるなんてほとんどない。外にでるのは俺達の様な冒険者か商人だ。街は広くて綺麗だし水もある。いい街だよ」


 デイブとダンがそんな話をしているのを聞きながらウィーナはうんうんと頷いていた。

 そうして食事が終わってデザートの果実が出てくるとそこでウィーナが聞いてくる。


「明日は坑道に入って魔獣を退治してもらうんだけどヤコブに何か言っておくことはあるかい?」


 デイブはそうだなと言ってから


「討伐自体は俺とダンでやる。逆に言うと近くに人がいると何が起こるかわからない。倒した後は俺達から報告をするから道案内は途中までで結構だ」


「わかったヤコブにはそう言っておくよ。あんたら二人だからさっくりと倒してくれるだろうと思ってるんだけどね」


「1体だけならな。要はその魔獣がどこから来たかってことだ。上からは見えないがその洞窟の底にひょっとしたら横穴があるかもしれない。となるとその横穴も見ないといけない。時間についちゃあ今はなんとも言えないよ」


 デイブがウィーナに説明しているがこの話は昼間二人で話していたことだ。突然魔獣が湧いたという可能性もあるがそれよりは横穴にあってそれがどこかにつながっていると考えた方が自然だろうと。


 それに突然魔獣が湧いたとしたらそこは魔素が非常に濃い場所だということになる。今後も魔獣が湧く可能性がある。横穴だったらその奥にある何かを処分することによってもう魔獣は湧かないだろう。


 食事が終わるとダンとデイブは宿に戻ってきた。ウィーナは久しぶりに来たから知り合いの家に行ってくるよと途中で別れている。


「明日はどうなるかな」


「楽しみだ」


 そんな話をして部屋の前で別れた二人はそれぞれの部屋に戻って早めに休むことにした。

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